最後にものをいうのはやっぱり絆の力的なやつ
その言葉を聞いたジェルトの判断は早かった。というより迷う理由がなかった。
なぜレオンが〈星霊珠〉を砕いたのか……それを瞬時に理解したからだ。
「攻撃開始だ!」
〈星霊珠〉が残り続ける限り、グラウロスの脅威は永遠に続く。
そもそもすでに意識が覚醒しているのだ、今後も王国にどのような影響を与え続けるのか想像もつかない。
だがレオンは〈星霊珠〉を砕くことによって、グラウロスを中途半端な状態で封印を解いた。
おそらくレオンは「これなら自分たちで倒すことができる」と判断したのだろう。
「おおおおおお! 全力でいかせてもらおうではないかっ!」
倒せるというのなら倒してしまうに限る。レオンは暗殺者としての嗅覚で、〈星霊珠〉を砕くことこそが王国とセリスにとって最善だと判断したのだろう。
そうでなくてはあれほど的確かつ迷いなく、国宝である〈星霊珠〉を破壊するはずがないのだから。
「キスイ・ダ・シスオォォ!」
グラウロスの口からは言語と錯覚するような声が漏れていた。
見た目からして不気味ではあるが、ジェルトはそれで戦意を失うようなストライダーではない。〈精鋭〉というランクは伊達ではないのだ。
「〈歩行大爆斬〉!」
仙勁を用いたジェルトの武技。威力が高いぶん、素早く動き回る小さな魔獣には当てにくいが、グラウロスの大きさであれば関係がない。
助走をつけた渾身の一撃がモロくなったグラウロスの足を叩ききる。
「モミシサッ!?」
深く斬り込まれた足からは緑色の液体が噴き出した。
おそらく本領を発揮したグラウロスであれば、今の攻撃でここまでダメージを与えられなかったに違いない。
ここでグラウロスが大きな鎌を振るってくる。その鎌をなんとかグレートソードで受け止めるが、大きく吹き飛ばされてしまう。
「ぐっ!?」
やはり巨体と重量の乗った一撃は重い。強引に封印を解いた影響で防御力こそ大きく減弱しているが、攻撃力は変わらないのだろう。
体幹を崩したジェルトに向かって追撃の鎌が襲いかかる……が。
「ネヨ・イイモニゥ!?」
その鎌はジェルトの正面に現れた障壁によって食い止められる。セリスの魔術だ。
「燃え盛る情熱、闇を照らす赤き光!」
「凍てつく静寂、悪を封じる蒼き輝き!」
続けてルナとルミアも魔術を放つ。
足の1本に深手を負った影響でグラウロスは動きが鈍くなっており、双子姉妹の魔術を避けることができずに直撃を受けた。
「ハロ=トウュチ……!? ハログマッ!」
「くそおぉぉぉ!」
レオンが怒りの咆哮を上げてチェーンを射出する。その怒りは何に向けられたものなのか。
いや……ジェルトにはわかる。仲間の、セリスのための怒りだ。
彼は足の着いた胴体部にチェーンを刺すと、そのまま巻き上げつつ身軽な動きで上っていく。そしてグラウロスの背に乗ると同時にナイフを深々と突き立てる。
「チマハ・モリ! ヨラクイイィィィ!」
グラウロスは背に乗られたレオンに対し、身体の構造的に鎌を振ることができなかった。
完全復活を遂げていれば、このような弱点はなかったのかもしれない。むしろ外骨格の影響でそう易々と傷をつけることができなかっただろう。
しかし跳ねるように激しく動き、これにはたまらずレオンも背中から放り出されてしまう。だがグラウロスの背にはしっかりとナイフが突き刺さっていた。
「イナセ……! カカハン・モーサァァァ!」
「ぐううぅ!?」
確実に攻撃が入っているのに、グラウロスの動きに衰えは見えなかった。巨体にふさわしい体力、生命力にあふれているのだろう。
だが〈無名の灯火〉はしっかりと食らいつけている。長期戦になるが、無謀な戦いというわけでもない……!
「はははは! グラウロスよ、この数ヶ月で磨き上げた我ら〈無名の灯火〉の連携……! そう簡単に崩せると思うな!」
■
正面で繰り広げられる激しい戦いを見て、〈王立古代遺物研究院〉のラボ長であるエーヴィスはいくつもの驚きと衝撃を受けていた。
国王の血によって封印の半分が解け、グラウロスにずっと意識があったのは、機器による計測の結果からも把握できていた。
また意識があるからこそ、王都近郊の遺跡に干渉していることもわかっていた。
〈王立古代遺物研究院〉総動員で再封印の手段を探っていたが、その努力もむなしくグラウロスは解き放たれてしまった。
しかしストライダーたちは見事に食らいつけている。長らく封印されていた古代の魔獣を相手に。
「あ……! 危ない!」
グラウロスの口から幾本もの針が射出される。最前線で剣を振るうストライダーはうまく弾くが、何本かは身体をかすめて血を流していた。
だが樹精の……いや。本物のセリアリス王女が障壁魔術を展開して的確に仲間をサポートする。
「セリアリス王女……。立派に……なられて……」
グラウロスの復活は大きな衝撃だったが、それ以上にエーヴィスを驚かせたのがセリアリス王女だった。
ノーマンドが連れてきた偽物を見たときはどういうつもりかと思ったが、まさかこれほど近くに本物のセリアリス王女がいたとは。
エーヴィスやヘルカント、それにマクシミリアンは本物のセリアリス王女と面識があるので、その顔を見間違えるはずがない。
〈星霊珠〉がなくとも彼女が本物の王女だというのは一目瞭然だ。
「ジェルト! レオン!」
「任せたまえよ!」
「すいやっせんしたあぁぁ!」
2年前まではたしかに世間知らずの王女だったはず。
しかし今はストライダーとして戦う術を身に着け、こうして王国の危機に王女自らが立ち向かっている。
きっと城から出たことのなかったセリアリス王女にはさまざまな苦労があったに違いない。
だが頼りない印象はすでになく、エーヴィスには彼女に統治者としてのオーラが見えていた。
仲間内での連携もかなりのものだ。5人が5人とも、それぞれ自分の役割を理解したうえで互いをフォローするような動きができている。
「王女……この2年、力をつけて……そして王国最大の危機に駆けつけてくれたのですね……」
ヘルカントも自分も、そしてマクシミリアンも、もともとセリアリス王女には頼りない印象を持っていた。
だからこそ2年前もヘルカントはすぐには事情を話さず、説明が少なくとも自分の言うことを聞くだろうと考えていた。
だがグラウロスと戦う雄姿を見れば、そのような考えは吹き飛ぶだろう。
「燃え盛る情熱、世界を照らす!」
「凍てつく静寂、悪を封じる!」
「双星の魔力、今ここに! ツイン・エレメント・バースト!」
獣精の双子魔術師が大技を決める。それに追従するように3人も直接攻撃を加える。
5人とも少なからずケガをしている様子ではあったが、目は死んでいない。
すでに戦闘が始まってかなりの時間が経過しており、体力的にもキツいはずなのに、精神が折れていないのだ。
そしていよいよすべての足に深手を負ったグラウロスがその場に倒れ込む。これにより今まで届かなかった顔も直接攻撃が可能になる。
「バカな……!? ぐ、グラウロスが……!」
ジャスリンの驚きも無視して、全員が好機だとさらに体力を振り絞る。
男性ストライダーが2本のチェーンを巧みに操って鎌を絡めとり、上から降り注ぐ針をセリアリス王女が魔術で防ぐ。
双子姉妹が強力な魔術を放ち、そこにグレートソードを持った男が助走をつけて大きく跳躍した。
「そろそろ決めさせてもらおうか……っ! 〈歩行大爆斬〉!」
初めて攻撃がグラウロスの顔面へとヒットする。
グレートソードは深々と顔に刃を突き立てて、重力に任せるように真下へと斬り裂いていく。
「ロトオ、オ……! リパッヤ……!」
言語のような音を漏らしながらグラウロスが地に崩れていく。
5人のストライダーは全員が肩で息をしており、ケガも負っているが……だれもが満足そうな笑みを浮かべている。
「はぁ、はぁ……! か、勝った……!」
「フ……! 我ら〈無名の灯火〉の……勝利だっ! だっ!」
エーヴィスはこれまで見たことのない、花開くようなセリアリス王女の笑みを見て、目じりに涙が溜まっていた。




