蛇鎖の腕輪さん「秘技・国宝砕き」
地下最奥にたどり着いた俺たちは水晶に封じられた魔獣やらに驚きつつも、身を隠してジャスリンやノーマンドたちの会話を聞いていた。
やはりジャスリンは〈黒曜聖団〉だったか……!
当たってほしくない勘に限ってよく当たるんだよな……。
まぁ聖徒ザルカーとつるんでいるっぽい雰囲気からして予想はついていたけど!
「ふぅむ……つまり宰相こそがこの2年、王国を守り続けていたという理解かな?」
「みたいだな。セリス、どうやら2年前のことについては誤解もあったみたいだけど……」
「はい。わたし……何も知らずにみなさんに迷惑をかけていたんですね……」
どうやらセリスもジャスリンたちの会話を信じたようだ。
まぁ2年前に血塗れの父とその側にいる宰相に騎士、そして「王女の身柄を確保しろ!」という指示を出しているシーンを見れば、誤解が生まれるのもやむなしだ。
「どうするどうする~?」
「わるもの倒しちゃう?」
「そうだな……」
傭兵とジャスリンを倒すのは確定として、先に〈星霊珠〉は押さえておきたい。
少なくともあれを取り戻せば、古代魔獣グラウロスとやらの完全復活は食い止められるはず。
幸いまだ俺たちは気づかれていない。先制攻撃で大きく隙が生まれたところに〈蛇鎖の腕輪〉を放ち、ジャスリンの両腕を拘束することができれば、〈星霊珠〉をこちらで確保できるだろう。
「ジェルト、こちらから仕掛けよう」
「フ……そうだね。必要な情報はジャスリンたちを捕えてからでも十分聞けるだろう」
「ああ。まずはルナとルミア、ジャスリンの近くに魔術を放てるか?」
「いいよ~!」
「派手めにいっちゃう!」
「いや、普通な感じで……」
ちょうど向こうの会話が盛り上がったところにルナとルミアが魔術を放つ。
火と氷の槍はジャスリンのすぐ側に降り注ぎ、大きな隙が生まれた。
「今だ!」
左腕の〈蛇鎖の腕輪〉を放つ。
狙いは〈星霊珠〉を持つジャスリンの腕。タイミングもばっちりだ、確実に捕えた……! と、思ったときだった。
「っ!?」
予想外なことにチェーンのコースが途中で乱れる。なぜ……!?
あ、もしかして火と氷の魔術が発動した直後だし、ジャスリンの周囲一帯、気流に変化が生じている!?
大気の温度変化で気流に影響が出るとかなんとか、どこかで聞いた気がする……!
「やば……!」
重りのついた先端部は寸分たがわず正確に〈星霊珠〉を捉える。
そして見事にラブルローン王家に伝わるという秘宝を粉々に砕いてしまった。
「え!?」
「国宝の〈星霊珠〉が!?」
あ、いや違うんです! やったのは〈蛇鎖の腕輪〉なんです!
こいつめ、なんということを……! なんて現実逃避している場合じゃねぇ!
あれ、金額にするとどれくらいの価値になるんだ……!?
という焦りを抱いている側でジェルトが感心したようにうなずく。
「なるほど……! グラウロスを封じる最後のカギ、それを破壊してしまえばもはや復活することはないということだね!」
「え!?」
「な、なるほど……! レオン、そういうことだったんですね!」
ち……違う……とも言い出せない空気……!
俺は即座にプライドを天秤にかけ、無言で何も言わないことを選択する。その間にも状況は進んでいく。
「ではこのまま突っ込み、残りも片付けようではないかっ! いくぞおおぉぉ!」
「お~~!」
「わるものは成敗~!」
ジェルトが先陣を切り、セリスもそれに続く。
ああもう、やるしかねぇ! 俺も前に出て残った傭兵どもと対峙する。
「なんだ貴様ら!?」
「〈無名の灯火〉だと!?」
「ははははははは! きみたちの悪事もここまでだよっ!」
「占いの結果でも出ています……! あなたたちは敗北すると!」
「紅蓮のきらめき、勝利への秘道! ルナ!」
「蒼氷のきらめき、静かなる追風! ルミア!」
「二人は……ツイン☆ルミナスっ!」
みなさんノリノリで突っ込んでらっしゃる……!
ジャスリンや傭兵たちも突然俺たちが乱入してきたうえにやたらと派手な魔術も飛び交っているので、かなり混乱しているようだ。
ジェルトがグレートソードでどつき回し、セリスは2本のショートソードを巧みに操り傭兵たちを斬っていく。
双子がどんちゃか魔術を放ち、俺も頭部を狙ってチェーンを射出する。
結果……ものすごくあっさりと決着がついてしまった。
「ツイン☆ルミナスがいる限り!」
「この世に悪は栄えないっ!」
どうやら傭兵もジャスリンも、〈星霊珠〉が砕かれたことにかなり動揺していたようだ。まったく戦いに集中できていなかった。
俺とジェルトは気絶させた傭兵たちを、彼らが持っていた縄で縛っていく。
そんな中、しっかりと意識がある状態で拘束されたジャスリンが俺たちを強く睨んでいた。
「よ、よくも〈星霊珠〉を……! ようやく手に入れた最後のカギを……!」
俺たちが傭兵を縛っている間、セリスたちはノーマンドたちの拘束をほどいていく。
セリアリス王女の拘束は……ま、まぁいいか……。かかわると面倒そうだし。
「ふはははは! 残念だったね! きみが〈黒曜聖団〉の一員で黒幕という話も聞かせてもらったよ! もはや古代魔獣の封印を解く術はあるまいっ!」
ジェルトが高らかに勝利宣言をする。
しかしここで拘束が解けたエーヴィスが立ち上がり、震えるような声を出す。
「い……いけない! このままではグラウロスが自ら強引に封印を解いてしまう……!」
「へ……?」
「意識の封印が解けたグラウロスは、これまで遺跡の魔獣を活性化させる程度の干渉しかしてこなかった……! それはいずれ〈星霊珠〉を用いて、完全に封印を解ける日を待っていたからこそ……!」
そういや王族の血でグラウロスの封印の半分が解け、意識は取り戻しているんだっけ。
「しかし目の前で〈星霊珠〉が砕かれたことで、完全復活はどれだけ待ってもないと悟った……! グラウロスは力を振り絞って、強引に物理的な封印である幽牢獄晶を内側から砕こうとするはず……!」
え……ガチ?
何かの冗談かと期待したが、エーヴィスの言葉が真実であるかのように洞窟全体に振動が伝わり、水晶がゴゴゴと音を立てて震えだす。
「完全復活でなくとも……! ぐ、グラウロスが……復活する……!」
も、もしかしなくても……〈蛇鎖の腕輪〉さんのせい!?
〈蛇鎖の腕輪〉さんがグラウロスさんの最後の希望を目の前で砕いてしまったから……!?
よしわかった。きっと水晶から出てくるのに10年はかかるだろう。その間に対策を練ろう。
そんな現実逃避もむなしく、水晶はビキビキと音を立てて大きな亀裂が走っていく。
そして……バキンと大きな音とともに水晶が爆ぜ、中に封じられていた古代魔獣が姿を現した。この状況にジャスリンだけは拘束されつつもテンションを上げる。
「ああ……! とうとうグラウロスが復活した……! さぁグラウロス! 我ら〈黒曜聖団〉にその力を見せてちょうだい!」
水晶から出てきたグラウロスは、アストラ学院で見た〈アーク・ガルダ〉に比べると半分ほどのサイズだった。
だが見た目でハッキリとヤバそうな魔獣だとわかるぶん、対峙しているとこっちのほうが怖い。
節足動物のような4本の足は先端が尖っており、地面に突き刺さっている。
またその輪郭はおとぎ話に出てくるケンタウロスに近く、固そうな殻に覆われた身体が巨大なボディから生えていた。
両腕は鎌状になっており、かなり物騒な雰囲気を漂わせている。そして頭部はどこか昆虫めいた印象があり、不気味さを際立たせていた。
「く……! こ、これは……!」
気配がこれまで戦ってきた魔獣と比べても段違いだ……!
ジェルトも撤退の指示を出すか悩んでいる。しかし。
「ん……?」
ビキビキとグラウロスの表面にヒビが広がっていく。
そしてガキンと金属をぶつけ合ったような音が反響し、固そうな外骨格がボロボロと崩れていくのだった。
「もしかして……中途半端に復活した影響……?」




