明かされる真実っぽい何かというか、事実というか……
ザルカーほどでなくとも、雇った5名の傭兵はそれなり以上の使い手だった。
彼らはノーマンドとセリアリス王女を縄で拘束し、さらに研究員たちも同様に力づくで拘束していく。そしてエーヴィス同様、壁際に並べられた。
「ど、どういうつもりだジャスリン!」
「ふふ……若いというのはいいですね。情熱と勢いで先走り、立ち止まって熟慮する必要性を軽んじる……」
「なんだと!?」
意味がわからない。自分は宰相ヘルカントの謀反から逃げ延びたセリアリス王女を保護し、こうして諸悪の根源を断罪しにきたのではないのか。
それがなぜ雇った傭兵たちに、エーヴィスたち〈王立古代遺物研究院〉の研究員たちと拘束されることとなるのか。
その疑問に答えるようにエーヴィスが口を開く。
「ノーマンド様。何を吹き込まれたのかは知りませんが……その女こそが古代魔獣グラウロスの封印を解こうとしている黒幕です」
「は……? な、なにを言っている……!? いや、どうあれ宰相が2年前に謀反を起こしたのは事実のはず! 現に陛下はずっと療養中と言われており、表舞台に出てきておられない……!」
これこそが宰相ヘルカントが謀反を起こしたという状況証拠であった。
またノーマンドの考えを補足するように、〈星霊珠〉を持ったセリアリス王女も姿を見せた。
さらに宰相には何度も「婚約者としてセリアリス王女に会わせろ」と言っていたが、一度も聞き入られなかったのだ。
こうした出来事はすべて「宰相ヘルカントの謀反は真実である」と示していた。
ノーマンドの戸惑いを見てジャスリンは笑みを深める。
「そうですよ? ヘルカントが謀反を起こしたのは本当の話です」
「そうせざるを得なかったのですよ。気づいたときにはすでに陛下は月香茶によって自意識を失っておられたのですから」
「なに……!?」
月香茶。それは少量であれば心に大きなやすらぎを与えることができるが、使い方次第で対象の意識を混濁させ、また操り人形にすることもできる特殊な茶葉である。
多くの国で禁制品の扱いを受けており、ラブルローン王国では医療用途以外での使用や所持が固く禁じられている。
「2年前、そこの女は陛下の御用商人として城内に立ち入っておりました。ですがその狙いはこのグラウロス……我々が気づいたころにはすでに陛下は意識を失っており、そしてこの場で斬られ……多くの血を流されました」
「は……!? な、なに……を言っている……!?」
「事実ですよ、ノーマンド様。宰相ヘルカントに騎士マクシミリアン、それにラボ長エーヴィス……彼女たちに計画を気取られたことで、わたしは中途半端であってもこのグラウロスの封印を解こうと考えました」
そう言いながらジャスリンは右手に持った〈星霊珠〉を掲げてうっとりと眺める。
「国王の血を使って封印の半分は解けたのですが、当時は〈星霊珠〉がどこに保管されているのかわからずでして。わたしも焦っていたのでしょう、事を起こすにしてもタイミングはやや性急だったと反省しております。いえ……性急なタイミングでもやらざるを得ないほど、エーヴィスたちに追い詰められたのですが」
ノーマンドはエーヴィスとジャスリンの話しぶりから、古代魔獣グラウロスの封印を解くには王族の血と〈星霊珠〉が必要なのだとあたりをつける。
おそらく2年前、ジャスリンの狙いに気づいたヘルカントたちと争いが起こったのだろう。
結果としてジャスリンは城から逃げざるを得なくなった。そしてノーマンドに近づいて再びここに至る機会を狙っていたのだ。
「では宰相の謀反は!?」
「ノーマンド様……陛下の意識は未だに戻っておられません」
「っ!?」
「今も目を半開きにしたまま、こちらからの呼びかけに応えず1日中ボーっとしておられます。そのような姿を表に出せるはずもなく……幸いヘルカント様は優れた政治手腕もお持ちでしたので、この2年は彼が王国に混乱が広がらないように尽力されておられました」
たしかに国王がそのような状態では、方々に大きな混乱が広がっていただろう。我が強い領主たちも好き勝手に動き出したかもしれない。
宰相ヘルカントはそうした事態を防ぐために、国王は療養中であると触れを出した。そして政治に対する影響を最小限に食いとどめていたのだ。
「で、ではエーヴィス殿たちがこの場にいたのは……!?」
「グラウロスの封印状況を細かく観察するためです。同時に再封印する手段はないかと研究も続けておりました。それこそ〈王立古代遺物研究院〉の総力をもって」
エーヴィスたちは古代魔獣の封印を解こうとしていたのではなく、その逆……再封印の手段を探していた。
当然宰相とマクシミリアンもそのことは把握しているだろう。
「せ、セリアリス王女が城を出たのはどう説明する!?」
「あれは不幸なすれ違いでした……。大けがを負った陛下をヘルカント様とマクシミリアン様が運んでおり、その時の様子を見られたのでしょう。それに当時はセリアリス王女の身柄の確保は最優先でした。そうした宰相の指示を聞き、誤解を招いて城を出られたものだと考えております」
ノーマンドは隣にいるセリアリス王女に視線を向ける。
彼女は真下を向いており、その表情は見えなかったが、2年前の事実について大きなショックを受けている様子だった。
「そもそもセリアリス王女がおられれば、事情を説明して女王になっていただくつもりだったのです。それが叶わず、今日までヘルカント様には多大な負担がのしかかっておりました」
「そんな……」
ここまで聞けばさすがにノーマンドにも見えてくる。
要するに騒動の原因は、ジャスリンが国王を利用して古代魔獣グラウロスの封印を解こうとしたことに端を発しているのだ。
宰相たちはあくまでそれを食い止めるために動いていた。そして国王の意識が戻らない今も、無用の混乱を起こすまいと尽力している。
「わ、私は……なんという愚かなことを……!」
「ふふふふ……! えぇ、本当にノーマンド様にはお世話になりました! まさか本物のセリアリス王女を確保するとは思いませんでしたよ……!」
セリアリス王女を保護したからこそ、ジャスリンは「宰相が謀反を起こして国の実権を握っている。古代の魔獣も復活させようとしている」とウソを吹き込み、容易く操ることができた。
セリアリス王女自身も当時の城内の様子から「宰相が謀反を起こした」と誤解してしまい、身の危険を感じて城を出た。
「そ、そもそも……! なぜジャスリンはこの魔獣の存在を知っている!? どうして封印を解こうと考えているんだ!」
「それはわたしが〈黒曜聖団〉の黒曜導士だからです」
「〈黒曜聖団〉……!?」
「国際的に危険視されているカルト集団ですよ」
ノーマンドは知らなかったが、どうやらエーヴィスは知っていたらしい。どのような組織なのか補足が入る。
「王族の血で解ける封印はグラウロスの意識。そしてこの〈星霊珠〉で解ける封印は、幽牢獄晶による物理的な封印……! セリアリス王女、あなたにも感謝しているのですよ! 今日までよく〈星霊珠〉を保管し、そしてここまで届けてくれましたね……!」
「く……!」
ジャスリンは高々と〈星霊珠〉を掲げて見せる。そんな彼女の様子を見ながらエーヴィスは首をかしげた。
「あなたたちがさっきから言っているセリアリス王女というのは……もしかしてノーマンド様の隣にいる樹精のこと?」
「そうよ? 今さら何を言っているの?」
「その樹精はセリアリス王女ではありませんよ。わたしは王女と面識がありますから」
「え?」
「へ?」
エーヴィスの言葉にノーマンドは思考が停止する。いや……この女は何を言っているのだ?
ジャスリンは疑念を含んだ声色でエーヴィスにたずねる。
「本気で言っているの? さっき宰相が偽物だと断じたとき、言葉のやり取りでノーマンドが真に受けないようにと、さっさとここまで連れてきたのだけど……?」
「ならその努力はムダね。そこの樹精はセリアリス王女ではないもの」
そうだ……宰相もセリアリス王女の顔を見て「偽物」だと判断していた。
あの時は「偽物だということにして、政局を自分の都合のいいように動かそうとしている」と考えたのだが。
「せ、セリアリス王女……?」
「…………………………」
セリアリス王女は無言。さっきから一度も顔を上げていない。なぜ否定の言葉を口にしないのか。
「まさか偽王女を掴まされていたとは……。でもいいわ、ここまで来ればわたしの計画には支障ないもの。さぁ、おしゃべりはここまで!」
そう言うとジャスリンは再び〈星霊珠〉を高く掲げる。いよいよ古代魔獣の封印を解こうというのだろう。
道化として踊らされ、国を危機に陥れてしまった。ここまでか……と強く後悔したその時だった。
どこからともなく火と氷の槍がジャスリンのすぐ側へと降り注ぐ。
「な!? なに……!?」
動揺で体幹を崩したその一瞬を狙うかのように、続けてチェーンがジャスリンへと迫り……そのまま彼女の持つ〈星霊珠〉を砕いたのだった。
月香茶はオルディア領編40話で、一度その名と効能が紹介されておりますっ!




