第4話 その③
声がした方を見ると薄黄色のパンツスーツにアゲハ蝶の仮面、ピンヒールを履いた女性がシャンパン片手に立っていた。
「……西瓜…………?」
女性は苦笑したあと否定した。
「いつも言ってるけれどだあれ? 西瓜って」
再度、女性をよく見てみるとそれは友達の美雨だった。
「たまに間違えられるけど、そんなに西瓜って人に似てるの?」
「そっくりだよ」
「ふーん……」
「来てたんだね……」
「代理だけどねぇ」
「代理?」
シャンパンで喉を潤すと美雨は耳元に口を近づけてきた。
「ここだけの話、代理人が常連だったらそれが可能なのよ。今回私は届かなかったんだけど、仲良くさせてもらってる社長さんに届いてさ。日程が合わなくて、良かったらってことで」
そういえば、ここは紹介制度もあると小耳に挟んだことがある。
確か、条件は紹介金を払うこと。紹介客が何かトラブルを起こしたら紹介した側が責任を負うこと。
大まかにはそんなところだったはずだ。
よくしてもらっている駿伯電の三人であれば、人間性的にも特にトラブルも起こすことはないだろう。
美雨は耳から離れると続けた。
「どこの社長かは訊かないでね?」
「訊いたところで答えてくれないでしょ」
陽はため息をついた。
「守秘義務ですもの」
美雨は笑みを浮かべて陽の隣に立った。
「それで? SUNちゃんは何を見てるの?」
陽は「あれ」と目で指した。
「今回の相手なんだって」
「どっちが?」
「黒い羽根が付いてる仮面の方」
「超おばさんね」
「人がせっかく別の言い方したのに」
「ストレートの方が分かるわよ……ねーカクヨ君」
同意を求めるように美雨は隠世を見た。
隠世は呆れたように「いつか同性に刺されても知らねーぞ」と返した。
「対戦相手の年齢はどうでもいいとして、勝てそう?」
「勝つよ」
即答する陽の言葉に美雨は口角を上げた。
「流石SUNちゃん。今回もSUNちゃんに全チップ賭けるから勝ってちょうだいよ」
陽は返事をするように手を振った。
「対戦の時間までまだあるし、もう少し遊ぼうかしら。SUNちゃんも一緒にどう?」
「興が乗ったらね」
「そう? じゃあ、またあとでね」
美雨は陽の返事を聞くと階下に下りて行った。
「見るたびに思うが……ホントにそっくりだな。本当に他人か?」
「西瓜と美雨も血が繋がった姉妹の話なんて聞いてないよ。今の所は、だけど」
陽はノンアルコールカクテルを飲み干した。
「私達も、もう少し稼ぎながら動こうか」
「りょーかい」
陽の対戦相手、爛華牡丹もまたカジノで時間を潰していた。
今は弟子と共にルーレットをしている。
席がなく弟子のフィグとは別々のテーブルだ。
爛華牡丹はたまにしか当たらず、傍から見てもイライラしているのがわかる。
手持ちは三十枚程度だろうか。
対してフィグは少なくとも倍の量があるように見える。
隠世は陽の指示通りフィグの隣に座っている。
ディーラーが場を整えたのとほぼ同時に隠世は肩まで手を上げた。
フィグの肩に手を置いて少し大きめに声を出す。
「I’m out, with her」
「……ぇ」
仮面越しでもフィグが驚いているのがわかる。
案の定、爛華牡丹が慌てて止めに来た。
「お待ちなさい!」
「どうされました、Madam」
隠世はとぼける。
「その子はアタクシの弟子ですわ。アタクシの許可なく連れて行く事は許さなくてよ」
隠世はいつぞやに陽を連れ去ったどこぞの非正規に向けた時のような冷たい目を向けた。
「彼女は私のパートナーにぶつかってよろけたんです。謝罪させる為に連れて行くのは当然でしょう? それと他卓の動きに口出しするのはルール違反ですよ、Madam」
「He says you’re leaving together.Is that correct?」
収集がつかないと判断したのかディーラーはフィグに訊いた。
「許さないと言ってるでしょう⁉」
「I……I’ll go with him」
「フィグ‼」
「す……すぐに戻ってきますから、先生」
「決まりだな」
隠世はディーラーにフィグのチップをまとめるように言った。
目算でチップは三十八枚。入れ物は無いようだからこのままだと少し多い。
「Cash her out, please. As for my chips……they’re an apology for the scene that lady made.
Give one to everyone at this table and the next one.The rest is yours.」
それを聞いた客は口笛を吹いた。
「Undersood」
ディーラーは二人のチップを回収すると、フィグのチップは少数になるようにまとめ、隠世のチップ(五〇枚)は言われた通りに配った。
「まだ話は──」
爛華牡丹はなおもフィグを引きとめようとするが、爛華牡丹入る方のディーラーが注意した。
「Madam,interfering with other tables is not allowed.
Please refrain」
爛華牡丹は歯を食いしばった。ここが公の場でなければ大人げなく地団駄を踏んでいたことだろう。
「必ず戻りなさい! 良いわね」
「はい…………先生」
ディーラーはまとめたフィグのチップを金の刺繍が施された黒の巾着に入れて渡してきた。
「Kindly return this pouch when you cash out」
「I understand」
隠世はフィグが巾着を受け取るのを確認すると手を差し出した。
「それじゃあ、行きましょうか」
フィグはその手を恐る恐ると言った様子で自身の手を乗せた。
「Good luck.」
隠世は去り際に卓に言うと、フィグを連れて人混みに紛れた。




