第4話 その②
VIPルームのウサギは全員同じ顔をしており、服装はタキシードと白手袋で統一されている。
やはりこの光景は何度見ても不気味だ。
「最初はあれにしよう」
陽が指したのはアメリカンルーレットだ。
簡単に説明すると、当たる確率の高い赤か黒か、倍率高めの数字か、ハイリスクハイリターンの緑か、どれかを選ぶゲームだ。
ルーレットは開いている席がほぼ無く、既に六席埋まっている卓に紛れる。
持ち枚数は三十。果てして今日一日でどれだけ増えるだろうか。
ちょうど一戦終わったところのようで、ディーラーが場を整えている。
隠世は陽の肩に両手を置いている。
勝負をする女性を安心させるために肩に手を置く。別に違和感はないはずだ。
「Placeyour bets」
ディーラーが盤を回すと参加者たちはチップを置いた。
青紫百足の仮面、赤黒いスーツの男性は黒に五枚。当たれば二倍になる。
チップは一枚一万の価値がある。(これはこのカジノ独自のルールだ)
この男性は五万を賭けたようだ。
赤色鷲の仮面、濃緑の着物でグレーの羽織の男性はイーブン(偶数)に三枚。ここも当たれば二倍だ。
「Spinning up」
黄色猫の仮面に赤いチャイナ服の女性はファーストダズンに二枚、サードコラムに一枚だ。
ダズンとはダースのことでコラムは縦一列のことだ。
つまりこの女性は1~12と三列目の縦一列に賭けた。
どちらも当たれば三倍になる。
「どうしよっかなあ」
その言葉を合図に隠世は肩を指で叩いて合図を送る。
右手で16を指で書いて上になぞり二回叩く。次に26を書いて上なぞりそのまま四角を書き一回叩いた。
隠世に言われた通りに16のストレート(16・17・18)に二枚と26のコーナー(26・27・29・30)に二枚賭ける。
16・17・18のいずれかに当たれば十二倍、26.27.29.30のいずれかに当たれば九倍になる。
残りの参加者も次々にチップを賭ける。
「No more bets」
ボールは徐々に減速し、カコンッと赤の16に入った。
ディーラーはすぐさま当たっているチップにマーカーを置く。
落胆している客、喜んでいる客、次だと切り替えている客。
ころころと変わる人の表情は見ていて面白い。
その間にディーラーは外れたチップを回収し、配当チップを添えている。
当たったのは陽と黄緑色のベネチアンマスクにコルセットを締めたドレスの女性と羽織の男性だ。
陽のチップは合計で五十一枚になった。初手では上々なのではないだろうか。
もちろんイカサマではない。隠世の動体視力を使って玉が入るおおよその場所を見極めたのだ。
一ヶ所だと怪しまれるかもしれないので、本命の16のストレートと保険の26のコーナーに賭けたのだ。
ディーラーはチップを配り終えると盤を整え、回した。
「次は、そーだなあ」
どうやら今度は自分で決めるらしい。
隠世は一応、候補を教えておいた。おそらく25のストレート(25・26・27)、25か近くの27に落ちるだろうと予想した。
陽は13のコーナー(13・14・16・17)に賭けた。
球は隠世が予想した赤の27に落ちた。
肩に手を置いているからか陽が落胆しているのが良く分かる。
陽はそこから十分程ルーレットを続けた。結果、チップは二百まで増えた。
「I’m out。 Color up, please」
「嬢ちゃん、もう行くのかい?」
羽織の男性にそう言われて陽は後ろを見た。
割と名勝負をしていたのか人だかりが出来ていた。
「次がつかえてますから」
「ふむ……残念だ。またどこかで会えたら共にゲームをしよう」
「喜んで」
話し終えるとディーラーが黒色(百万)を一枚、緑色(二十五万)を二枚、赤色(五万)を八枚、白色(一万)を十枚渡してきた。
陽は隠世に渡されたチップラックに入れると席を立った。
「Good luck.」
陽は隠世の腕に自身の腕を回してその場を後にした。
二人は三階のバーカウンターに来ていた。
フロアの半分より少ないスペースは吹き抜けになっており、下の様子を覗くことが出来る。
陽はノンアルコールカクテルを片手にソファで休憩することにした。
「序盤はこんなもんかなあ」
「地道に稼いでいったな」
隠世は吹き抜けに背を向けて立っている。
「午後から嫌でも注目されるから、今は悪目立ちはしたく無いの」
陽はカクテルを口に含んだ。
「お、ようやく相手が来たぞ」
下の空気が変わったことを感じた隠世が下を覗き込むと十時の方向からワインレッドのドレスで黒い羽根を付けたベネチアンマスクの女性が歩いてきた。女性の傍には緑色Aラインワンピースドレスを着た黄緑色ベネチアンマスクを付けた若い女性が歩いている。
堂々と歩いているワインレッドの女性とは対照的に、ワンピースドレスの若い女性は落ち着きなく周りを見渡している。
「ワインレッドの方が今回のお相手だ」
「あれが、ね……爛華牡丹サン。側にいる人は?」
「爛華牡丹が取っている弟子だな。確か名前はフィグ。弟子になって四年目だが、芽は出てないみたいだぞ」
「へえ……」
陽は再びカクテルを口に含んだ。
今更の説明かもしれないが、正規創作者になる方法は二つある。
一つ目は、創作者の前身である見習い資格を得て本命の試験に受かる事。
年四回行われる試験のどこかで合格すれば、己の創作を出版社や公募に出すことが出来る。そのため、正規創作者資格を取る頃には、研鑽を積み、本試験へ合格し取得書類を文警局に提出とともにデビューがほとんどだ。
見習いは十二歳から受験資格があり、早い人間は三年もすればデビューできる。
赤本もあり、創作する気はなくても「持っておいても損はないし」程度で受ける人間も少なくない。
二つ目は、既に正規創作者として活動している人物に弟子入りをする事。
見習い資格取得者の中から正規創作者が選び、その人物が了承・申請すれば成立する。
必然的に師匠となった創作者は弟子となった見習いの面倒を見る義務が生じる。
公の場での相応しい振る舞いや所作、そこに出せるまでの力を身に付けさせなければいけない。
加えて定期的に文警局から面談がある。
この面談は弟子が師匠に不当な扱いをされていないか、期間に見合った実力が身についているか、を見極める面談だ。
それによって弟子に使う補助金の額が決まる。
至れり尽くせりのように聞こえるが、当然リスクもある。
弟子は五年以内に師匠から推薦許可書を文警局経由で貰わなければならない。
五年以上経っても特にペナルティなどはないが、時間が経つごとに補助金は減っていくだろう。
それに許可書を貰った後、すぐに創作者になれるわけではない。
文警局の面接を受け、合格すれば晴れて創作者を名乗ることを許され、証書とバッチが授与される。
「なーに見てるの、SUNちゃん」




