「リンドウ誕生1周年記念」 特別番外編
誠に勝手ながら一周年を迎えましたので特別番外編を書きました
本編は今しばらくお待ちください。
日中の暑さが少し和らいだ夜。
陽と隠世はテレビの中継を見ていた。
テレビでは日本でも有名な部類に入るであろう花火大会を映している。
「たーまやー」
「情緒無さ過ぎだろ」
ソファであぐらをかきながら溶けたかき氷を飲んでいる陽に隠世は呟く。
現地では人が集まった熱気で涼しく無いであろう空気を纏いながら長くも短くもない列に並んで屋台で飲食物を購入し、少しでもいいポジションで花火を鑑賞しようと躍起になっているだろうに、己の主人はクーラーをガンガンに効かせた涼しい部屋で隠世が作る料理を端から食べながらベストポジションで映る花火中継を見てやがる。
「犯罪者の私達がわざわざ外に出ると思うのお?」
どうやら、陽の耳は地獄耳だった。
「いや? 外に出て面倒事に巻き込まれるのはごめんだ」
「まあ、木の葉を隠すなら森の中。あんだけ人が居たらソウトリも誰が誰だか判別付かなさそうだけどねえ。けど、リスクは0の方が良いでしょ」
「同感だ。……ほらよ」
隠世はそう言って机に新たな料理を置いた。
細い麺を茶色に染め、炒められた細かなキャベツと人参、豚バラ肉が麺の間から見えている。その上には主の絶対命令の元に乗せられた目玉焼きが鎮座していた。箸で半熟の黄身を割ればトロリと流れ落ち麺と絡みあってまた一味違う味になるだろう。
「わーい! 屋台の焼きそばだ!!」
陽はかき氷が入っていた空きカップとスプーンを端に置いて焼きそばを手に取る。
「隠世も食べよお。さっきから作りっぱなしでしょ?」
「誰かさんがが『屋台グルメ食べたーい』って言ったからな」
「んー? 誰かさんって誰だろうねえ?」
「誰だろうなぁ?」
隠世はエプロンを解いてソファに座り塩味の焼き鳥を食べ始めた。ネギ塩のタレが程よく鶏肉と絡み合っている。
二人前ずつ作っておいた屋台飯は若干冷めて入るがまずまずの出来前だ。
ドォン!
テレビから花火の音が鳴り響いている。
解説では三尺玉の花火だそうだ。外側が赤色で中心が緑色のグラデーションが画面内で燃え尽きキラキラ輝いていた。
一拍置いて次は小玉花火が連続で出ている。
金色で統一された光の花が浮かんでは消え浮かんでは消えていく。
隠世は焼き鳥の次に手に取ったフランクフルトを咥えながら最近見た顔を見つけた。
「あ」
「ん?」
画面はすでに近くの屋上になっていて花火大会のサポーター達やゲストが花火の感想を言い合っているが中継先スタッフのミスだろうか、一瞬だけ地上の様子が映った。
「この前の襲撃の時にいた下っ端が今映ったな」
四日か五日前の夕方、相も変わらず二等級の非正規を捕まえたい派閥を率いる部隊が家に来て、いつも通り返り討ちにしヤオさん経由でソウトリに返却したばかりだ。
「制服?」
「さすがにそこまでは。とりあえず白だったな」
先程陽が言った、『木の葉を隠すなら森の中』で花火を覗きに行った非正規を捕まえるつもりなのか、花火大会そのものを創作物として捉え申請通り行われているのかをチェックしに来たのかは知らぬが。
おそらく前者であろう、と隠世は想像する。
「うげえ。やっぱり行かなくて正解じゃん」
「あんな所までソウトリが来るとはな……」
「どれだけ捕まえたいんだろうねえ」
そう言いながら二人は黙々と夕食を進めた。
テレビでは次のプログラムに移っていて夜空に大輪の花を咲かせていた。
「やっぱり家で見るのが一番だねえ」
麦茶を飲みながら笑っている主を横目で見ながら隠世は新たな屋台飯へと手を伸ばした。
同日ーーー駿伯電サイド
家で執筆していた電菊は西瓜にいつも通り拉致られて、いつも通り場所も伝えられず某所のホテルに来ていた。
建物の中に入ってまず目に入ったのは高い天井だ。推定十メートルはあるだろうか。ロビーも広い。扉にはドアマンもいる。見てわかる。とんでもなく高級なホテルだ。
「いつまでアホな顔してるの。行くよ」
スルガに襟首を掴まれ、西瓜の後を追う。
「ごめんください、予約してた十ノ木いいます」
受付の男性は「少々お待ちください」と言ってキーボードを叩いた。
「十ノ木 すみれ様、本日から三名で二泊のご予約ですね。お待ちしておりました」
「おいスルガ、なんなんだ、このド高級ホテル。いつも俺を拉致った先はお前か西瓜ん家だったろ」
チェックインの手続きをしている西瓜の後ろでスルガに耳打ちをする。
「今日はこの近くで花火大会があるんだよ。だから電菊も誘って三人で見ようってなったんだよ」
「だったら会場に行きゃあいいだろ」
「花火を創作物とみなされてソウトリ来てたらどうするのさ」
「何をコソコソ話してるん? 二人とも、はよぉ来なはれ」
「お、おう」
「ご案内いたします。お部屋は最上階のスイートです」
「スっ……!」
「どうしたの?」
「どうしはったん?」
「いや……何でもない……」
促されるままエレベーターに乗る。
最上階には二部屋しかなく右手側が今回泊まる部屋らしい。
コンセルジュは荷物を運び入れると、早々に退出した。
「すっげ、なんだ、ここ」
部屋に入ると目の前には広いバルコニーが広がっていた。
その後、西瓜にルームツアーをされたが、ベッドルームと浴室しか覚えられなかった。
とりあえず、ベッドルームが二つあるのは安心した。
「ここな、花火観戦するにぃは結構有名でな。二ヶ月前から抑えとったんや」
「うっ……!」
話を聞きながら泊まる部屋の料金を調べていた俺は驚愕した。
「マジか、この料金……」
料金表にはゼロがいくつも並んでいた。
「二泊ってことは」
「百五十万やなぁ」
「百五十万……ん? 会計は割り勘か? 情けないことを言うようだが割り勘でも払える金はないぞ?」
「そんな警戒せぇへんくても請求せぇへんよ。電菊はんはいつもウチらの用事に付き合おぅてもらてるし、ここの花火大会も一年に一回やし、ええかと思ぉてな? いつものお詫びや」
「お前らにお詫びって概念あったのか」
「あるよー。証拠に毎回交通費出してるじゃん」
「あれは『当然の権利』つーんだよ」
「今回は優待券があったからちぃと安ぅなったし、気にしなくてええよ」
「もういいや……。俺なんかつまみ買ってくる……。ついでに下着と服も……」
「私、」
「自分で行け、自分で買え」
現在地から調べると百メートル先に大型百貨店があるようだ。
そこに行けばとりあえず一式は揃いそうだ。
「花火は何時からなんだ?」
「二時間後やな」
「なら遅くとも三十分前には戻って来たほうがいいな」
「あ、着いてくー」
「ウチは用意してもろたここら辺のを飲むわ。後で払うさかい、合うやつ買うてきてくれん?」
「りょーかい」
一時間四十分後―――
「遅かったなぁ」
「こいつが食いもしないつまみをどこどこカゴに入れるから、運ぶの手間取った」
「電菊がお店の中で迷ったのがいけないんでしょー」
「だいたいお前は」
「はいはいお二人さん。始まる前に軽く汗流してきなはれ。もう始まるえ」
「チッ、とりあえず西瓜、はい、冷蔵品も入ってる」
「わかったから、はようしなはれ」
ドーンッ!
「おー、すげえな。やっぱ夏は花火だよな」
三人はバルコニーに設置されたデッキチェアに座って夜空を見上げた。
「電菊は花火好き?」
「まあな。子供の頃はよく父親に連れて行ってもらったもんだ。最後までいると道が激込みで遅くなるから最後まで見れたことはないけどな」
横の西瓜を見ると目から一筋の涙が伝っていた。
「お前の涙とか初めて見るな。てっきり血も涙もないかと」
西瓜は咄嗟に涙を拭く。
俺は立ち上がって酒を取った。
「いややわー。ウチだって涙ぐらい流しますー」
「私の涙ならいつもみてるよねー」
「お前の場合は笑い涙だけどな」
カシュッと心地いい音がする。度数は五%。このくらいがちょうどいい。
「というか涙は」
「『血液からヘモグロビンなどの成分を濾過したもの』だろ? それぐらい俺でも知ってる」
「それを知っててウチに血も涙もないっていいはったん?」
「ないだろ。両方ある人間は何回も人の事、拉致らねーよ」
「血はあるよー。なきゃ死んじゃうもん」
「おめーが一番あるか怪しいんだよ」
貸切の夜空に咲く火の花を、三人は誰にも邪魔されることもなく堪能した。
翌日、度数の高い酒を飲まされた電菊はしっかりと二日酔いになった。
「ほら、二泊にして良かったでしょ?」
「せやなぁ。まさかあの程度で二日酔いなるとは思わんかったわ。スルガはんの助言のおかげやな」
少しだけ開けた扉の隙間から覗いた二人が話しているのが聞こえる。
「そこで話してるくらいなら酔い覚ましかなんか買ってきてくれ……」
高熱を出した時のようなガンガンとした頭で、なんとかそれだけを絞り出した。
本作が企画として誕生したのが去年の8/12。
この日に陽と隠世が誕生しました。
本編は今年の1月に始まった為、世の中に出たのは約7ヶ月前になりますがこの日は私達にとっても大事な日で……紆余曲折がありながらも無事に二人が1周年を迎えられた事を嬉しく思います。
これからも共同作品「リンドウは手を伸ばす」をよろしくお願いします。




