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リンドウは手を伸ばす  作者: 長坂青空 加良奈志翠 山葵大福
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第3話 その④

山下はその日の深夜、日付が変わる頃にやっとトールのアトリエの住所を吐いた。

アトリエを中心に半径五十メートルを包囲した。

深夜ということもあってかなり静かだ。周囲の家屋も照明が点いている所はない。しかし、騒がしくはしていないとはいえ、ここまで野次馬がいないものだろうか。まるで、人が住んでいないようだ。

まあ、今はそんなことよりトールの捕縛だ。

「ただいま到着しました」

飛鳥は現地で火山と落ち合った。

「取り調べご苦労。お前は俺と突入だ」

「りょーかいです」

火山は隊をいくつかに分けて指示を出した。

三等級の絵のともなれば、資料も含めてかなりの量になるだろうと予想している。

静かに指示を聞いていた飛鳥は何かが焦げたような臭いがしている気がした。

「隊長、いいですか」

「なんだ、飛鳥」

「なんか焦げた臭い、しません?」

そう言われて火山も周囲を嗅いでみるが、特段そんな臭いはしない。

「この匂い──灯油?」

飛鳥に言われてアトリエを見ると、二階の窓から赤みがかったオレンジ色の灯りが見えた。その灯りはゆらゆらと揺れている。あの灯りは火だ。

「先程言った通りだ。班に分かれて持ち場に付き次第作戦開始。田辺」

「はっ」

「俺達が突入したら消防を呼んでおけ。一般人の民家に飛び火したら厄介だ」

「了解」

「これから第三等級非正規創作者・トールの捕縛に入る。見ての通り現場は既に火が広がっている可能性がある。火の回りに注意しながら出来るだけ証拠をかき集めろ」

「はっ!!」

火山は部下の返事を聞くと突入の合図をした。


火山達が突入する少し前、トールはアトリエ全体に灯油を撒いて回っていた。

撒き洩らしができるだけ無いように照明は点けておこなった。

二階の一室、SUNが使っていた部屋に、今回使った資料・絵・画材に至るまで全て放り込んで先に火を点けておいた。

今頃どうにもならないほど燃えてくれているだろう。

「これでよしっと」

撒くのに使ったポリタンクを廊下に置き、唯一灯油を撒いていない一階の部屋に入る。さすがに灯油まみれの部屋をスリッパで歩き回るわけにはいかないので靴を履き、手元が狂わないように滑り止めとして皮手袋をしている。

窓際に置いてあるロッキングチェアに身体を預けて目を閉じた。しばらく揺れに身を任す。

呼吸をするだけで嫌でも灯油の匂いが鼻をついた。

少し撒きすぎてしまったかもしれないが、全焼してもらわないと困ると考え直した。

「……あとは客をもてなすだけ、かな?」

少しずつ煙の臭いが濃くなっていく。

ロッキングチェアの揺れが無くなった頃、やっとアトリエに客が入って来た。

「……来た」

後方の玄関からほぼ一直線に自分に向かって来る足音に合わせて目を開ける。

「第三等級トールだな」

「……そうだ、って言ったら?」

「非正規創作分布並びにテロ等準備罪で貴様を逮捕する」

「へぇ……ははっ!」

トールは静かに笑うのと同時にロッキングチェアを揺らした。

「何が可笑しい」

「『逮捕』とは、捜査機関が被疑者の逃亡・証拠隠滅を防ぐために一時的に(・・・・)身柄を拘束すること、辞書にそう載ってる。でも、お宅らのは捕まえた奴等を永久的に(・・・・)拘束して処刑するんだから、逮捕は違う。確保か捕獲って言った方がいい」

「ぉぉー……」

トールの指摘に火山の横で飛鳥が小声で感嘆の声を漏らす。

「お宅らも創作者資格持ってんならさぁ、言葉は正しく使おうよ。資格が泣くよ?」

「言いたい事はそれだけか?」

火山は銃をトールに向ける。

「……」

火山が引き金に指をかけると、別の所から破裂音がした。

火山と飛鳥は反射的に左右に避けた。

「外したか。ま、見てない状況で当たるわけないか」

未だ煙を上げる銃身を左肩に当てながらトールは立って火山の方を向いた。

「投降拒否確認。現時刻から貴様は二等級となる」

「二級、か」

トールは呟き、ニッと口角を上げた。

「捕まえてみなよ、ソ・ウ・ト・リ」

言葉を切ると座っていたロッキングチェアを火山の方に思いっ切り蹴った。

火山はロッキングチェアを同じく蹴りで軌道をずらすと、その後ろからトールが右拳を突き出してきた。

火山は左手で受け止めると、顔を逸らさずに飛鳥に指示を出した。

「こいつは俺が請け負う。お前は奥を探れ」

「……了解」

飛鳥はトールから少し離れた横を通り過ぎようとした。

奥を調べられると困るトールは飛鳥を止めようとしたが、火山に掴まれたままの右拳を巻き取られるように背中に固定された。

「お前の相手は俺だろうが」

トールは舌打ちをするとまだ持っていた銃を火山の脇腹に銃口を当てた。

容赦なく引き金を引いたが、その前に火山は離れた。

火山は離れたついでに警棒を手に取った。狙いを定めて振り下ろす。

接触した感触があったので持ち手のボタンを押した。

トールの左手がビクンと跳ね、必然的に銃を落としてしまった。

「……なるほど、電流装置付きか。厄介だな」

トールは左手の調子を確かめるように振った。

これはあと十数秒は使えなさそうだ。

さあてどうするか、と考えていると、一階の別の部屋の扉が吹き飛んだ。おそらくフラッシュオーバーでも起きたのだろう。

扉が吹き飛んだことによって、今いる部屋にも火が侵入してきた。

そう時間もかからずこの部屋も火に包まれるだろう。それまでに勝負をつけなければ。


「はあ、やれやれ」

まだ少し痺れる左手と絶好調の右手を握って胸の前で構えた。

とりあえず火山に突進して頭をめがけて右ストレートを繰り出す。

火山は首を傾けて避け、銃身で右ストレートを受け流した。

下がりながら何発か受け流していると壁際に追い込まれた。

火山は舌打ちをすると、トールに銃を向けた。目標も定まってない状態で引き金を引く。

「っ!」

弾がトールの頬を掠めて血が滲む。

おそらく丸腰のトールは火山の銃に集中せざるを得なくなった。

警棒も電流のボタンを押したままにして向けてやる。

避けきれないモノは仕方なく受けることにしたようだ。

銃と警棒の攻防をしていると、だんだんとトールの立ち位置と重心が後ろに移動していく。

スイッチを入れていない警棒で鳩尾の辺りを押すと簡単に転んだ。

背中を打って出来た一瞬の隙に火山はトールの腹を踏みつける。

「がはっ!」

「子犬のじゃれ合いだったな」

気絶させようと足をあげると、まるで狙っていたかのようにトールが横に動いた。ちょうど蹴りやすくなったのでそのままトールの腹に靴をめり込ませてやった。

「ゲホゲホッ……」

トールは最初にロッキングチェアに座っていた辺りまで飛ばされた。

「子犬は子犬らしく寝落ちしたらどうだ」

今蹴り飛ばしたところを火山は容赦なく踏みつけてきた。

「ぐっ……っお前らは──」

トールが何か言おうとしたところ、横から警棒が伸びてきた。

バチッと音がするとトールは気絶していた。

「飛鳥」

「隊長、これに構いすぎですよー」

火山はやっとトールから足を退けた。

「隊長がこいつを押さえていたおかげでこの部屋にある証拠は抑えまーした。さ、速くこの建物から脱出しましょ」

飛鳥はトールに手錠をはめると肩に担いだ。逆の手には押収品が入った袋が握られている。

「隊員達は全員脱出済みの連絡がありました。あとは僕達だけです」

そう話しているうちに火がすぐそこまで迫っていた。

「良くやった」

火山は近くにあった窓に寄った。窓の金属部分は既に触れないほど熱くなっていた。警棒で叩いて割ると、足で蹴って人が出られるほどまで広げた。

「行くぞ」

「はーい!」

飛鳥はトールを落とさないように背負いなおしてから火山に続いて脱出した。


「ふあ……さっぶ……」

陽はストールを羽織りながらリビングに入ってきた。

リビングには隠世が用意した朝食の匂いが漂っていた。

「おはよう、陽」

「おはよお」

いつも通り隠世から白湯を受け取る。

「今年の冬は過去一の冷えになるそうだぞ」

「十二月に入ったばかりなのに? これより寒くなるの?」

「予報だとな」

「鍋……」

陽は白湯を少しずつ飲みながらぼそりと言った。

「毎日は勘弁だ。鍋の素って四人前とかが多いんだよ」

いつか電菊・スルガ・西瓜を呼んで囲もうか、と思いながらテレビをつける。

消す前まで隠世が見ていたのかつけるとニュース番組だった。

「本日未明、都内郊外で火災がありました。消防隊がすぐに駆けつけ被害は火災に遭った一軒が全焼したのみで、犠牲者は居ないとのことです」

都内郊外での火災のニュースのようだが、映像はなくアナウンサーの淡々とした口調で述べた後、次のニュースに移った。

「火事か?」

「乾燥してきたからねえ。私達も気をつけないと」

「そういえば深夜に印刷所から作った本が届いたぞ。とりあえずダンボールは廊下に置いといたぞ」

「本? なんだっけ」

「再来週に出すやつ」

「あーあれ。最近色々あったから忘れてた」

「忘れるなよ、自分で作っといて」

「なんか言った?」

「ナニモイッテナイデス」

隠世は朝食の準備を進めた。

「続いてのニュースです。海運会社・odeli(オーデリー)は昨日、山下 弘人前社長が逮捕されたことを受けて緊急の株主総会が開かれました」

画面が切り替わりodeliの外観が映される。

「株主総会は、昨日正午より行われ、幹部であった高田(コウダ) 彰馬(ショウマ)さんが新社長に就任することが決まり、同時に新規会社NEXUS(ネクサス)に吸収合併される事に決定しました」

「は? 新規が大手を取り込む? 逆だろ、普通」

ニュースを見ながらちびちびと白湯を飲んでいた陽は残りを飲み干した。

「NEXUS、か……」

テレビには吸収合併するNEXUSであろう外観が映された後、NEXUS社長とodeliの新社長が握手している様子を映された。

飲み終えたカップを片付けるためにシンクへ向かった。

「隠世」

そういう言葉は冷たかった。

「なんだ?」

陽はシンクに置いたカップを見つめた状態で続けた。

「今後は外国製の物は買わないで。家にある物も全部捨てて」

「……あの会社(ネクサス)、何かあるのか」

「……確証が無いからまだ話せない。けど、とにかく買わないで」

隠世は数秒陽を見た後に「りょーかい」と答えて調理し終えた朝食を盛り付け始めた。

戦闘シーンって何でこんなに難しいんでしょうね……

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