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リンドウは手を伸ばす  作者: 長坂青空 加良奈志翠 山葵大福
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駿伯電サイド・第1話

駿伯電(スルガ、伯西瓜、電菊)の3人をメインとしたスピンオフです。なんとなく3人の関係性がわかると思います。

「なぁ二人とも、暇かい?」

「は?」

「え?」


 和歌山県、海沿いに広がる港町。その町の中でも広い敷地とされる部類の、庭付きで三階建ての一軒家。

 そこに、二人はいた。

 十数年前にリフォームされて、耐震補強だけでなく三階部分の増築までしたらしい家。庭に立派な蔵がある。


 数時間前――――

 朝四時過ぎ、俺は非常識な訪問者の対応をしていた。

「蔵の掃除ぃ?」

 訪問者は伯西瓜。どうやらスルガ宅の蔵の掃除をするから手伝えということらしい。日付は今日の昼頃。答えは当然ノーである。

「でも、ウチとスルガはんの二人だと時間がかかりすぎるんよ。手も届かへんし、力もないし」

 カタカタとキーボードを叩きながら西瓜と会話をする。

「別に今日、やらなくても」

 急な眠気が襲ってきた。確かに昨日から徹夜をして起床時間が二十四時間以上経っているが、こんなにも急に眠くなるものだろうか。


「あ、起きはったな」

 目が覚めた時、俺は車の中にいた。

「……どこ、ここ」

「刈谷ハイウェイオアシスや」

「かりや、はいうぇいおあしす……」

 復唱すると急に頭が冴えてきた。

「あー、やられた……」

 自分が置かれている状況を理解した。()()()()()、西瓜に誘拐されたのだ。

「着替えはそこに置いといたさかい、どっかのタイミングで替えなはれ」

「あ、ありがと」

 毎回天は仰ぐものの、この状況に慣れている自分がいるのが正直怖いというか、呆れるというか、学ばないというか。

「スルガはんの家までまだ時間かかるさかい、次に止まるんは二時間半後や。ここでご飯を買うたりお手洗い行っときいやぁ」

「へいへーい」


 着いて早々俺はインターホンを連打した。

「近所迷惑になるから連打やめてぇ」

 昔ながらの引き戸の玄関をガラガラと開けて出てきたソイツは言った。

「予想通りや。『俺は行かない』言いはるから連れてきたで」

「やっぱり? ありがと西瓜」

 ヘラヘラとしたような笑顔がとても胡散臭い。


「いや〜、助かるよぉ」

 引き戸を後ろ手に閉めて庭へ向かった。

「前は友人二人が手伝ってくれたんだけど、ソイツらに断られてさァ」

「俺、今ハロウィンBCMの奴、書いてたんだけど」

「あれ? 出さないって言ってなかった?」

「参加するなら出さないと、と思ってな。ピエロからも、出してくれたら嬉しいって返答帰って来た」

「ま、新刊書いてようが書いていまいが問答無用だけどね」

「横暴やわぁ」

 西瓜がクスクスと笑っている声が聞こえた。笑い事ではないと思う。

「というより、スルガ。お前、友人いたんだな」

 ふぅ、とひっそりため息をついてから呟くと、隣に立っている西瓜も呟いた。

「ウチも初耳やわぁ。スルガはん、友達いたんやね」

わかる、やっぱりそう思うよな。俺は大きく頷いた。

「私をなんだと思ってるのさ! 友人ぐらいいるよ! ……片手で数えられるぐらいだけど」

 じゃあ、あと一人いるかいないかぐらいか。俺と、西瓜と、その友人二人。四人、多く見積もって五人。狭く深くなら十分じゃないだろうか。

 そもそも西瓜はともかくとして俺は友人判定でいいのか?

「あと一人いるかいないかやね」

 西瓜が呟いて、続けて質問を飛ばす。

「スルガはん。そのお友達、なんで今日の掃除は手伝うてくれへんかったの?」

「片方はデート、もう片方は音信不通」

「それ、本当に友人か? 特に音信不通の方。お前が友人と思ってるだけで、あっちは知り合い程度の認識なんでねーの?」

 数歩先を歩くスルガに話しかけてみた。西瓜は俺の後について来ている。

「あと一ヶ月すれば復活するとは思うんだよなぁ〜。知らんけど」

 スルガの返事は、飄々とした声だった。いかにも、他人に興味がありませんと伝えるような声色だ。

「スルガはんの話を聞くだけじゃ、判然とせぇへんわぁ。本当の本当に友人なん?」

「友人だよお。一、二週間から一ヶ月の音信不通期間が割と頻繁にあるだけで。」

「怪しいわぁ」

「怪しい怪しい」

 そんなこんな話しながら、俺達は蔵に入った。

 古本のカビ臭さがふんわりと鼻をくすぐる。日の光を反射して、舞い上がった埃がキラキラと光っている。

「で? なんで急に蔵掃除なんだよ」

「SUNから仮面パーティーの話があったでしょ? それに使う仮面を探そうと思って」

「あ〜、そういやあったな。仮面パーティーの潜入依頼」

「確か一週間後やね」

「それまでにこの山の中から仮面探すんか……」

「そうだよ」

 猛烈に帰りたくなった。

「帰っていいか?」

「じゃ、西瓜はあっちお願い。電菊はこっちね。私は適当に山をさばくるから」

「おい、聞けよ。おい」

 こうして、俺達は蔵掃除を開始することになった。


 スルガの蔵は物だらけだった。物を置くところなのだから物だらけなのは当たり前なのだが。

 あっちの棚には古そうな本、こっらの棚には箱、そっらの床にも積み上げられた箱、そんな有様だ。

「なぁ、このスケッチブックは?」

「あ〜……それは適当にほっぽっといて」

「だから掃除が進まないんだよ。掃除下手か」

「スルガはん、この桐箱は?」

「中身見てから決めようかな。蔵の外に出しといて。ブルーシート敷いてあるから、それの上」

 あれそれと話しながら、物を見聞してはスルガの指示を仰ぐ。だいたいが「そこら辺に放っておいて良い」なので、俺はついスルガにツッコミをいれてしまう。

 元から蔵にあった踏み台を持ちながら、棚から棚へ移動する。俺が任されてしまった範囲は、背の高い棚が多かった。

 棚の一番上に置かれている箱に手をかけた。大きく薄い箱は、一人で下ろすのは困難だと判断して西瓜を呼ぶ。

 埃が舞わないよう、ゆっくりと棚から引っ張り出す。箱を受け取ろうと腕を伸ばす西瓜に、箱の端を持ってもらう。

「スルガ、この薄い箱は?」

 紺色の蓋に、金の箔押し加工で施されたロゴを見た西瓜が、驚いたようにまじまじと箱を見ている。

「これ着物の箱やね。しかも、かなり老舗の着物屋さんのロゴや」

 そのロゴに心当たりがあるようで、西瓜は珍しい物を見た子供のように呟いた。

「あ〜それも外に出しといて。特に中身入ってないと思うけど」

 メンテしないとな〜。呟きながら、スルガはどんどん棚にしまわれている箱を引っ張り出している。

 スルガに引っ張り出されている箱は、大きさもバラバラなら、桐だったり紙だったりプラスチック(黄ばんでいる)だったり素材も様々だ。

 棚に平積みされた和綴じ本、床に積み上がる分厚いファイルの山、パッと見でもわかる重そうで高そうな木箱。

 こいつの家は、どのぐらい昔に建てられた家なのだろうとつい考えてしまう。訊いたことはないが、いいとこのお嬢様だったりするんだろうか。

「前に掃除したときに見たんだよな〜、狐面」

「スルガはん、狐のお面にするん?」

「パーティーって場でも目立たないような仮面が、それぐらいしかないんだよねぇ」

 スルガは箱を取り出しては中身を確認し、また違う箱を取り出しては確認し、を繰り返している。

「あ!」

「あ?」

 スルガが突然、大きな声で叫んだ。

「あった〜!」

 そちらへ顔を向けると、スルガは桐箱の紐を解いていた。箱の中から取り出したのは、黒い面だ。金色の隈取りを施された狐とも狼とも見える顔の面が、牙を覗かせて笑みを浮かべている。

 面が見つかったことは嬉しい。しかし、その面ではダメだ。

「スルガ、仮面パーティーは飲食する必要がある。その面じゃダメだ」

「……マジで?」

「そうやね。お客さんらぁに紛れる為に、食べたり飲んだりする必要があるさかい、顔の下半分が出るのがええな」

 西瓜のアドバイスで、スルガは視線を彷徨わせた後に、先程見つけた箱に狼狐面をしまった。

「これは……ハロウィンで使うことにするか。別の狐面があったはずだから、それを使おう」

「おい、ちゃんと目につく場所に置けよ。また探すのは面倒だからな」

「わかってるよお」

 そうして、片付けを再開した。蒐集癖(しゅうしゅうへき)といえど、物を置く場所に規則性はあるはずだろう。そんな考えで、面を見つけた付近を中心に整理整頓をくり返す。

「なぁ、この箱は?」

「さっきの、狼狐面の入ってた箱に似とるね」

 白い組紐が結ばれた桐箱が目に入り、手にとってスルガを呼ぶ。俺の近くにいた西瓜は、俺が持つ桐箱と、狼狐面がしまわれていた桐箱を見比べて呟いた。

 古い紙束を眺めていたスルガが、顔を上げてこちらに視線を向けてから近寄ってくる。

「あっ、これかも」

 組紐をスルスルと解き、蓋を持ち上げる。その下から顔を覗かせたのは、黒地に白の模様が描かれた、金目の狐面だ。

「この子だよ〜! この面ならいけるでしょ。顔の下半分でるし」

 スルガは狐面を手に取り、顔に合わせている。胡散臭さが更に増した気がした。まぁ、コイツのことを知らない第三者が見たとすれば、怪しい雰囲気を纏う女(着ている服によれば男)に見えるかもしれない。

「スルガ、パーティーに着ていく服はどうするんだ?」

「それはもう頼んであるよ。狐面に合わせて黒のドレスをね」

「西瓜は?」

「うちも頼んであるよ」


 蔵から出て新鮮な空気を吸う。

「蔵掃除が終わって、仮面も見つかった。衣装の用意もしてあるようだし……準備万端ってとこか」

 腕を上げ、右手で左手首を掴み、背中を伸ばす。

「っあぁ〜〜!」

 息を吐きながら声を出し、腕を下ろし腰に手を当て、上半身を屈める。

「おわったあ……つかれたあ……」

 隣で、西瓜がくすくすと笑っている。

「これで衣装の手配もまだ、とか言われたら殴ってた……」

「わはは」

 スルガのわざとらしい笑い声が聞こえる。笑い事じゃない。

「スルガ……もう二度と、蔵掃除は、手伝わないからな」

 俺は、渾身の恨みを込めて呟いた。


 帰りはすぐに帰るのではなく、前もってとられた宿に泊まった。労いを込めて温泉宿らしい。

 労いを込めるなら普通に連れて行って欲しい。なぜ一回誘拐を挟むのか……。

 おかげで誘拐され慣れしてしまった、と二人に言ったら笑われた。

 これこそ笑い事ではない。

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