第2話 番外編
※1 未成年飲酒のシーンがあります。
法律違反になる為絶対に真似しないでください。
※2 倫理観に反する表現があります。
嫌悪感が出る方はプラウザバックを推奨いたします。
太陽が登っている間は活気のある商店街として、月が登っている間は最上級の大人しか寄せ付けない歓楽街として、知る人ぞ知る町がある。
その町は東西南北に斜め十字を中心とする大通りにはそれぞれ中・小の道が細かく碁盤の目が通っていて、その様子は衛星写真で見ればまるでメロンの表皮みたいだ。そのメロンの表皮みたいな道を一台の黒いミニバンが走っていた。いくつかのカーブや曲がり角を曲がりこの土地を熟知した者でも迷いそうな順序で車は1軒の建物の前に着く。
その店の名は『Murmur's Nest』。西方の裏を代表する夜の店として北西の位置に構えている。
車の運転席から出てきたのはラフな格好をしたこの店のママ、果凛だ。果凛は店のドアを開けて人が通れるようにした後、後部座席のドアをスライドさせる。
「桃ちゃん、義妹ちゃん運べるかしら?」
桃。と呼ばれた女性は眠っている義妹を見て両腕を義妹の肩と膝裏に通す。腕に力を込めて義妹を持ち上げようとするが、悲しいかな。いくら果凛の店で力作業をしていても彼女が望む筋力は付かなかった。
桃は肩を落としたあと、果凛に頼む。
「ママ、お願いしていい?」
果凛は桃の様子を見て袖捲りしてすでに待機していた。
「任せて。桃ちゃんの部屋で良いわね?」
「うん」
果凛は桃の義妹を世に言うお姫様抱っこで抱き上げた後、店の中に入って行く。
桃は果凛の後ろに続いて入り、ドアを閉める。店のホールに着いたあと、今度は桃が先頭に立って果凛の許可を得て下宿している3階の自身の部屋に案内し、部屋のベットに義妹を静かに寝かせた。
果凛は彼女の脈を取りながら呼吸を見る。
細い手首をくるむようにして当てられた指先からは、細く。けれど力強く生きようとする脈を感じ桃に悟られぬように息をつく。
大丈夫、この子は生きようとしている。脈だけでその者の生命力を言い当てられるのはいつの間にか果凛が持つ、特技の1つになっていた。
「義妹ちゃん、本当に眠ってるだけよ」
「良かった……本当に良かった…………」
隣で安堵した声と微かに鼻を啜る音が聞こえる。それを聞きながら義妹に布団を被せて当たり前だろうなと、果凛は思った。
果凛は桃から事情を聞いている。家から一刻も離れなければならない理由を。それを聞いて自身の店の従業員として、他店から丁寧に話し合い()をして引き抜いたのだ。
果凛は腕時計を見て現時刻を確認する。
今から店の準備をすればギリギリ間に合うだろう。BCMで大捕物があったからこそ店を開けなければならない。開けなかったら何かあったと常連の何人かに思われるだろうから、そこから勘付かれるのが一番まずい。
「ワタシはそろそろ準備に行くわね」
泣いている桃に声を掛ける。
「あ、あたしも……」
「桃ちゃん」
立ち上がろうとしている桃の肩に手を置いて止めた。
「義妹ちゃんの側に居てあげて。目が覚めて知らない所に居るなんて、本人からしたら不安でしかないのよ」
「あ……」
「暫くはお店に出なくて良いわ。その代わり義妹ちゃんの精神が落ち着くまでお店は有休を使いなさいな」
その言葉を聞き、桃は頭を下げた。
「ありがとうございます。ママ」
「義妹ちゃんが目覚める前に顔を洗っておきなさい。お姉ちゃんがそんな顔じゃダメよ」
果凛はそう言い残して1階に降りた。
桃──本名・沼田 ■■■と義妹は再婚した両親の連れ子同士だ。
13年前のこと。母が病死し、失意の底にいた父―あんな人を父と呼びたくもないが便宜上、父と呼ぶ―が突然生きる気力を取り戻した時があった。
そしてあの日、滅多に行かないレストランで一組の母娘を紹介された。
「■■■、俺はこの女性と再婚しようと思う。お前の新しい母親と妹だ、仲良くしろよ」
一方的に言われたその言葉に、目の前が真っ赤になった。
父はお母さんの事を忘れてしまったのか、新しい母親なんて要らない、お母さんが良い!……そんな言葉を叫んで泣いて拒否をした。桃は当時、7才。まだ大人の事情なんて分からない年頃だ。火がついた様に泣く桃に感化したのか3才の義妹(予定)も号泣したのを合図にその日は解散になった。
そこから2年間、あの母娘との交流は続いて……新しい家族になる事を了承した。
義母の作る料理が美味しくて釣られた訳ではない、決して。ただ、4人でのピクニック中に言われた言葉がきっかけだ。
「おばさんに■■■ちゃんのお母さんの事、教えてほしいな。私、■■■ちゃんのお母さんとも家族になりたいの」
この人は、母の事も大切にしてるんだ。と分かったから母娘を受け入れた。
父と義母の希望で式は挙げず市役所で結婚手続きをし、少し良いレストランで食事をした。
そして、4人での生活が始まった。
新しい生活は最初は上手く行かないことがあったけど、楽しかったし義妹がとてつもなく可愛くて、同級生からは「立派なシスコンになったな」と言われた。
義母さんはキャリアウーマンで毎日忙しくしていたのを子供ながらに覚えてる。たけど、そんな中でも家事も完璧に両立していて凄かった。憧れだった。
けれど、その生活も長くは続かなかった。両親が再婚して6年後、義母さんが死んだ。突然だった。桃は当時15歳で、高校受験の合格発表の日だった。そこからの記憶は無い。気づいたら高校に入学してて、海へ散骨していた。
異変が起き始めたのは四十九日が終わった頃、私達を見る父の目が変わった。
あの目には覚えがある。お母さんと義母さんに向けていた目だ。義妹は小学校の1泊2日の野外活動に出て桃と父の二人だけだったあの日、襲われかけた。風呂場だったからどっちも下着姿で、思いっきり男の急所を蹴ったけど。
翌日、父に会わないようにしながら学校に行ってクラスのギャルに話しかけた。そこからだ、桃がギャルになったのは。
お母さんと義母さんの共通点は偶然 父の性癖を知った結果、父のタイプは清楚な大和撫子タイプだと判明。だからギャルの手助けもあって髪を金髪に染め、制服を改造し厚化粧をして真逆のギャルになる事で自身を守る事にした。そうしたら、父の目は一瞬にして失望の目に変わり完全に見放された。その代わりに義妹に目がいったが、義妹はまだ小学5年生。最悪、初潮が始まる頃になるが、父が女として襲うにはまだ猶予がある(持っているエロ本で対象は高校生以上だと判明したからだ)。
だから桃は、父に見つからないように義妹にギャル変装セットとギャルのメイクの仕方や喋り方を教え、いつでも家を出れるように宿泊セットを詰めたバックを渡した。
そして法律を自分なりに調べて法的に親との縁を切ることが可能という事が分かり高校を退学……しようとしたが、亡き母と義母が遺してくれたお金から学費諸々を出している事もあり昼は学校に行き、夕方〜深夜は年齢を誤魔化し夜の店のバイトをした。
とある張り紙を見たら短期間で高額が稼げるという謳い文句に決めたバイト先は悪質な所だった。子供の嘘は簡単に大人にバレていて……高校や義妹を盾にされ、契約書なんて無かったかのように店長に言われるがまま、接待の席で飲酒をした。初めて飲んだ酒は不味かったしすぐに気持ち悪くなった。
そんな事を続けて1年、学業の成績は下がりその代わりにバイトでの業績は少しだけ上がった。今や体が慣れたのか、飲酒に対しての罪悪感は無くなっていた。
そんな中、当時お客様として接待した人が話を聞いてくれ店長に啖呵を切って桃をヘッドハンティングした。それが今のママだ。ママは桃を引き取った後、自身の店に連れていき思いっきり叱った。あの店長が高確率で悪いが、求人紙に書かれている事に疑問を持たずに騙されたアナタにも非があるわ─と。それから桃は良心的な条件でママの店である『Murmur's Nest』で見習いとしてバイトを始め、『桃』という源氏名を貰った。義妹を父から切り離す為、自立する為に。
それから3年の時が過ぎる。
ママやお店の御姉様方の手助けもあり高校をなんとか卒業し、『Murmur's Nest』の正社員になり、そこからは働きっぱなしで休みなんて考えなかった(ママに強制的に休みを入れられた日はあったが)。
そして卒業して2年目に必要な金額が揃い、義妹を迎えに行った。ちょうどその日は義妹が在籍する中学校の卒業式で友人達と集まりがあるだろうと桃なりに気を利かせた事が、間違いだった。
夕方に久しぶりの実家に帰れば人の気配は無く、警戒しながら義妹の部屋を覗けば部屋の中央に仰向で気絶してる父が居た。しかも何かに殴られた跡がありその証拠に頭部から出血があって、家中探したが義妹が居ない──桃は焦ってママに電話をした。お店の開店時間だというのにママは直ぐに来てくれてまず父を診た。幸いにも皮膚が切れただけで少量の出血だけ既に止まっていた。絨毯に流れた血も乾いて黒くなっている。そして、肝心の義妹だが、どうやら自らの意思で出ていったという結論になった。義妹が部屋に隠していた、桃から与えられていた家出グッズが無くなっていたからだ。たが、義妹がどこに行ったかなんて分からなかった。
ママに慰められながらお店に戻り夜が明けた。
お店の常連客で、信じられる人に義妹の写真を見せ『見かけたら連絡が欲しい』と情報を募りながら地元に行って探したが義妹の姿は見つからず、半年以上が過ぎる。
そして今日、常連客の一人からママに連絡がきて義妹を発見できた。
久しぶりに会った義妹は最後に会った時に比べて背が高くなっていたけれど、体の線が細くなってた。保護してくれた話を聞き、ゾッとした。あのままあの人達に保護されずに路地裏ばっかりで過ごしていたら本当の悪者に何かされて死んでいたかもしれない可能性もあったからだ。だからあの人達には感謝をしている。
己のベットで暗示によって寝ている義妹を見る。
あれからママの言うとおり、涙でぐっしゃぐしゃになった顔を洗って義妹の目が覚めるのを待っている内に眠気がきてベットに肘を付きながら寝てしまった。起きた時は義妹はまだ起きてなくて、時計を見たらうたた寝してたのは1時間程で息を吐き出す。
後方にあるミニテーブルを見るとお盆に乗せられた軽食があった。うたた寝中にママが置いていったのだろうか……開店前後で忙しいから本来はこっちから取りに行くべきなのに、申し訳ない。義妹が起きたら一緒に食べよう。
桃は立ってミニ箪笥の一番上の引き出しを開けた。そこには義母が亡くなる前に託された義妹への手紙。実家を出る時に一緒に持ってきたのだ。
義母と義妹に申し訳ないと思いつつ、手紙の内容を見た。何が書いてあるのか、気になって……好奇心に負けたのだ。好奇心に負けて、義母に2度目の怒りを覚えた。それは父から再婚相手として紹介された時以来の怒りで…………思わず手紙を無かったことにしたかったが、義妹を想うと出来なかった。どんな事でも真実を知る権利を他人(桃)が奪ってはいけないと思ったからだ。この手紙はあの子が20歳になった時に渡さなければ。
桃は改めて決意をして手紙を一撫でして再び箪笥へ仕舞い、義妹が眠るベットに座った。
義妹の頬を手の甲で撫でる。昔は良くこうして面倒を見ていたのが懐かしい。
撫でたのがくすぐったかったのか、義妹のまつげが震えるのが見えて撫でる手が止まる。
「……っ」
ゆっくりまぶたが動いて徐々に焦点があっていく。
不安そうに目玉が動いて桃をとらえた。
「ぉ……ねぇ、ちゃん?」
義妹の目から涙が溢れ流れ出る。
さっきあんなに泣いたのに、桃の目からも涙が流れ始めた。
「おはよう、璃子」
人物紹介
●沼田 ■■■(■■■)(20歳)
女性/『Murmur's Nest』の正社員
・自分と義妹の安全の為に父から自立しようとしている。
・今回、義妹を保護できた事で本格的に父から独立する為にママの手を借りながら動き出す。二人が幸せになるのはもう少し先の話……。
源氏名は「桃」
●沼田 璃子(16歳)
女性/中卒
・2話本編で「プエラ」と呼ばれていた少女。
・暗示は正常に作動中……。
・この度、大好きな義姉と再開しママの元に居候する。愛称は「胡桃ちゃん」
●ママ
ママはママ/ママ(店長)
・四耀町の西方、夜を代表するラウンジを仕切るママ。
・ママの敵になったら西方では生きてはいけないと言われる程影響力がある。
・『Murmur's Nest』は直訳すると『囁きの巣』。
お店の中は中立地帯となっていて表や裏の人間が入り浸っている。
●沼田 博信(65歳)
男性/工場勤め→無職
・前妻とは病死。
・猫被り上手で二人の妻は騙せていた(と思っている)
・後妻が亡くなり、会社を辞め、パチンコに入り浸りになり、スマートな体型から立派なキモデブ体型になった。
・我慢強く、性的対象が育つまで辛抱強く待っていたが、反撃された。
●沼田 かなえ(享年32歳)
女性/大企業勤め
・旧姓:水倉 かなえ
・前夫とは璃子が1才の時に死別。
・博信と再婚。
・6年後、死去(死因:事故死)
・稼いだ金は二人の娘の為に貯めている。
(娘の為の通帳があり博信は真面目にそこから娘達の学費関係を払っていた)
・その他の稼いだ金は亡くなった後、博信がパチンコに溶かしている。
(4年間パチンコで溶かしても余る金額を稼いでいた)
●沼田 菜々(なな)(享年35歳)
女性/パート→専業主婦
・博信の前妻。
・博信とはデキ婚。
・病死。




