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リンドウは手を伸ばす  作者: 長坂青空 加良奈志翠 山葵大福
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第2話 その⑫

隠世はまたデッキで怪しい影が近づいてこないか見張りをしていた。

桃は扉の前で不安そうにウロウロしている。

頭の中ではプエラに言われた「師匠」がぐるぐると回っている。

「師匠、か……」

自分でも知らないうちに漏れてしまった。

「らしくない顔してどうした?」

いつもの少し笑みを浮かべた顔で話しかけてきた。

「スルガは?」

「あいつなら海中を見てる」

電菊の奥にスルガが座り込んでいるのが見えた。

柵の間から頭を出して海を見ている。

「相変わらずマイペースだな」

「いーや、あれは不貞腐れてるだけだな。何せ遊び(・・)が中断になったからな」

電菊は柵にもたれると切り出した。

「で? あの()に師匠って呼ばれたのか?」

「聞いてたのか……」

「いや? 口の動き方からなんとなく」

それを聞いていたというのではないのか、と隠世は溜息をついた。

「すまんなぁ。物書きなると人の感情の機微に嫌でも敏感になるんだ」

電菊は微笑した。

「…………男性恐怖症じゃない事、逃げる手段を教えた事。俺の言葉があいつを『生』に引き揚げたんだと」

「それで師匠、か」

「この俺が『師匠』って、似合わないだろ」

「似合う似合わないの問題じゃないだろ。何かを教えればそれは先生だ。そこに恩義を感じれば師匠もおかしくない」

「そういうもんなのか?」

「少なくとも俺はな。ま、そういう意味では俺にとってもお前は『師匠』だ。俺もプエラ同様、お前やSUNに出会わなきゃ今ごろソウトリ様にこの世から卒業させられただろうよ」

「……」

「ま、そんな師匠論争するよりも、どうだった?」

「あの男への俺のライフル銃。ピンポイントだっただろ?」

隠世は遊園地での狙撃を思い返した。

「……ライフル、教えたことあったか?」

「触ったこともない。だから西瓜にライフル銃渡されてアシストして撃った」


「話がついたわ。電菊はんはあの男の足元スレスレをこれで狙うてや」

西瓜が差し出してきたのはそのへんに落ちていたライフルた。

「ライフル……未履修なんですが……」

「大丈夫や。ウチがアシストする」

「外しても知らんぞ」

電菊は渋々ライフルを担いだ。

「まず、足は肩幅に開きい。銃は骨格──肩で支えるんや。利き手の反対側で銃身前方を下から支えぇそうすれば安定するさかい…………視線は照準器を通してラインを合わせて見ぃ。頭は垂直に」

電菊は言われた通りに体勢を正していく。

「風が出てきたなぁ。照準を五センチ左に。ウチが合図したら撃ってぇな」

「お前はどうするだ?」

「ちょうどここにソウトリ達の落しもんがあったさかい、あっちの銃撃部隊にちょっかい出そうと思てな」

「わー、ソウトリさん、かわいそー」

二人はそれぞれ構えてその時を待った。

火山の腕が動いた瞬間、西瓜が「今」と発してそれと同時に引き金を引いた。

一拍遅れて西瓜も、次々と銃専門隊の銃を撃ち抜いていく。

電菊も試しに何発か撃ってみたが、西瓜にアシストして貰った奴以外は的外れな場所に当たった。

「あら、こらまずいな」

火山がプエラの後頭部に銃を構えている。

「どうするんだ、西瓜」

「まあ、大丈夫やろ。電菊はんは銃口を右に三センチ、下に一センチ動かして。あの赤腕章(火山)の発砲と当時に撃ってな」

「はいよ」

返事の前に西瓜が発砲し、電菊の返事と同時に火山が発砲した。

西瓜の弾は火山の弾の軌道をずらす形となり、電菊の弾は火山の銃を撃ち落とす結果となった。

「そろそろ俺等も行くか」

「そやな」


「西瓜のアシスト有りとはいえよく撃てたな」

「だろ?」

電菊はドヤアと胸を張った。

「だが、あと〇・五センチ左に弾が着弾すれば男の靴に当たっていただろうな。牽制(けんせい)ならそっちがよく効く」

「え、厳しいお言葉なんですけど。初めてであれだけ撃てたらすごくね? もっと褒めてくれてもよくね?」

「褒めて伸びるタイプだったか?」

「褒められて嬉しくない人間はいないだろ。だいたいお前は」

二人がそう話していると西瓜が船内から出てきた。

「桃ちゃん、終わったで」

桃はそれを聞き終わる前に船内に駆けだしていた。


プエラはソファーの上で穏やかに寝息を立てていた。

陽がカーテンを開けて回っていると、桃は不安そうに寄り添った。

「璃子……」

「三時間は目を覚まさないよ。彼女が来てからの二週間の記憶を一気に消そうとすると、脳にダメージが遺っちゃうからね。それが起きないように三時間かけて消去するようにした。消すって言っても、ただ記憶に蓋をしただけだから、あんたも私達の事は話さないでね。助けに行って安心から寝ちゃったとか説明しといて」

「……分かった」

陽はプエラの傍に座ると囁いた。

「あの絵本…………お母さん(・・・・)が作った絵本を大事に持っててくれてありがとね」

陽はプエラのボストンバックから自身のデビュー作である本を出した。

後ろには住所が書かれた紙が挟まっていた。

「この本は回収するよ。私に繋がる物は一つも残さない」

桃は黙って頷いた。

「さてと、帰るまでの移動手段ある?」

「近くで、お世話になってるママが車で待機してる。けど」

「なら、ウチが妹ちゃんを運ぶで。ママさんの顔、久しぶりに見たいしな」

「じゃあ、西瓜、あとはお願い」

「ああ、SUNちゃん」

デッキに出で行こうとする陽を西瓜は呼び止めた。

「何?」

「その本、貰ってええ? 住所の紙もあるし持ってても処分に困るやろ?」

「ああ、そうだね。じゃあ、これもお願い」

陽は本を挟んだ紙ごと渡した。

「おおきに」

西瓜は本を衿に挟み込むように入れた。


「終わったか?」

「うん。帰ろう」

そういう陽の顔はどこか寂し気だった。

船から降りると、電菊が見送りに来てくれた。

「んじゃ、またなー。SUN、隠世」

「おう」

「じゃーねー」


ハロウィンBCMから一週間後、またも電菊は手合わせに来ていた。

「電菊、いらっしゃーい」

「これ、いつもの。今日は西瓜チョイスだ」

「ありがとー。わっ、月餅(げっぺい)だ」

手見上げを受け取った陽はお茶を淹れにキッチンに向かった。

「んじゃ、やるか」

「お手柔らかにな? しーしょーお」

そういうと隠世の動きがピタリと止まった。そして、何の合図もなく、拳を向けてきた。

拳はしっかりと電菊の顔をめがけて飛んできている。

「危なっ!」

ギリギリ視認が出来たので避けることができた。しかし、二発目、三発目と次々に飛んでくる。

「ちょっ、ま、」

視認して避けること、流すことは出来るが反撃が出来ない。

そして何発目の拳が避けきれないと思っていると

「あれ、もう始めてるの?」

お茶を淹れ終えた陽が声をかけると、狙いが外れたのか拳が電菊の頬を掠った。

掠った所は摩擦により若干の熱をおびた。

「ッスー……」

攻防の間、息をつく暇がなく、やっと電菊は息を吐いた。

掠った拳を見ながら隠世は小さく舌打ちをした。

「電菊ぅ、何したのお?」

「原因、俺か? 隠世を師匠と呼んだだけだが?」

「あ、じゃあ、それだ」

「なあ、電菊。俺が師匠ならもっと厳しくても良いよなあ? 俺が師匠だもんなあ?」

「え、超嫌な予感」

陽はその様子を見て笑った。


都内でも有名な高級マンションの最上階で、プエラに本を渡した金髪の男は階下を見下ろながら呟やいていた。

「Darum, ist jemand in christo, so ist er eine neue Kreatur; das Alte ist vergangen, siehe, es ist alles neu geworden」

「『だれでもキリストのうちにあるなら、その人は新しく造られた者です。古いものは過ぎ去り、見よ、すべてが新しくなりました』。ルター訳の聖書 「コリント人への手紙 第二 5章17節」の一節だね。……君が見つけた子羊は私のメタトロンに導かれたかい?」

長髪の男は金髪の男にワイングラスを差し出しながらこの国の言葉に訳す。

グラスには白ワインが注がれている。

金髪の男はワイングラスを受け取ると答えた。

「残念ながら。子羊は別の道に進んだよ」

「それは子羊にとって災難だったね。……良い駒になりそうだったのに」

長髪の男がソファーに座ると、金髪はその反対のソファーに座った。

「その代わり、とても良い情報を手に入れた」

金髪の男はワインを口に含んだ。柑橘系の風味に加えて少しの塩気を感じた。

「おや、君が『良い情報』と判断したのかい? それはよほど『良い情報』なんだね」

「ああ。けどこの情報はまだ君には早い」

「何れ(いずれ)聞けることを楽しみにしておくよ…………その情報に、乾杯」

「乾杯」

人物紹介


 井戸口(いどぐち) (はる)

女性/22歳/非正規第2等級

・本作の主人公。

・ペンネームはSUN(サン)

・母親は正規の絵本作家だったらしい。

・BCMから帰った後、プエラの痕跡を1つ残らず消した。



 隠世(かくよ)

男性/28歳

・陽の護衛。第三者がいる時は陽の事を「主」「SUN」と呼び、陽の名前を絶対に言わない。

・毎週土曜日に電菊と手合わせをしている。

・プエラには【身を守る術】を教えた。



 プエラ(家出少女)

女の子/15~16歳

・義父から逃げる為、衝動的に家を出た。

・約7ヶ月間彷徨い、外国人にSUNのデビュー本を与えられ生きる活力を得る。

・SUN(陽)に約半月間保護された。

・義姉と再会後、耳に銃槍が残ったが義姉と共に幸せな生活を送る。



 甘藍(あまあい) 電菊(でんぎく)

男性/28歳/非正規第3等級

・ミステリー作家。

・スルガ,伯西瓜と共に活動しており裏社会ではまとめて「駿伯電(すんぱくでん)」と呼ばれている。

・1話の「照本と名乗る男」。

 仮面パーティーへの報酬は現金(ピー万)

 三田さんへ送った本を書いた報酬は隠世の一日貸出

・毎週土曜日に隠世と手合わせをしている。隠世の弟子。



 スルガ・ラブカ

女性/29歳/非正規第3等級

・主に歴史上の人物のBL本を書いている。

・伯西瓜,電菊ともに活動しており裏社会ではまとめて「駿伯電」と呼ばれている。

・1話の「酔い潰れていた女」。

 仮面パーティーへの報酬は元正規創作者(故人)の資料。

・日野紗也香をおもちゃとして定めた。



 伯西瓜(はくすいか)

女性/30歳/非正規第2等級

・宮廷ラブロマンス作家。

・スルガ,電菊ともに活動しており裏社会ではまとめて「駿伯電」と呼ばれている。

・1話の「京都弁の女」。

 仮面パーティーへの報酬は暗器。

・電菊の手土産は本人が用意しているが時たま、スルガor西瓜が用意して前日に渡してる。



 桃

女性/20歳/バーの店員

・「桃」は源氏名。

・プエラの義姉。

・高校時に「ママ」に出会いママの保護下にいる。

・ママの下でお金を貯め義妹を引き取る準備をしていた。

・いざ義妹を迎えに行ったら行方不明で顔面蒼白。見つかるまでは生きた心地がしなかった。



 宮森(みやもり) 誠吾(せいご)

男性/45歳/文警局 裁定室 捜査部 第2班長。

・朔陽の上司。



 桜井(さくらい) 麗羅(うらら)

女性/34歳/文警局 裁定室 捜査部 第3部隊 隊長

・宮森を上司としている部隊を率いている。

・バリッバリのキャリアウーマンで上品。



 藤池(ふじいけ) 朔陽(さくや)

男性/23歳/文警局 裁定室 捜査部 第4部隊 隊長

・宮森を上司としている部隊を率いている。

・火山がプエラごと銃殺という命令を出した時に陽の両親の事を思い出してしまった。

彼もまたその光景がトラウマになっている。



 日野(ひの) 紗也夏(さやか)

女性/23歳/文警局 裁定室 捜査部 第4部隊 副隊長

・1話でスルガにロックオンされ、おもちゃになってしまった。



 篠田(しのだ) (たき)

男性/文警局 裁定室 捜査部 第4部隊 係長1

・隊長,副隊長と藤池隊部隊員を繋げる連絡係の役目を持つ。隊長の補佐とも。



 火山(ひやま) 鷹春(たかはる)

男性/39歳/文警局 裁定室 捜査部第6部隊 隊長

・第3班長を上司としている部隊を率いている。

・何故か藤池朔陽を目の敵にしている。

・常に何かに怒っている。



 飛鳥(あすか) (りゅう)

男性/27歳/文警局 裁定室 捜査部 第6部隊 副隊長

・火山の部下。

・火山とは阿吽の呼吸で部隊を率いている。が、何故 火山が怒っているのか分からない。

・年上年下に関わらず女性を〜ちゃんと呼ぶ。

・間延びした話し方が特徴。



 堀河(ほりかわ) 涼子(りょうこ)

女性/30歳/文警局 裁定室 捜査部 第9部隊 副隊長

・第5班長を上司としている部隊を率いている。

・毎回大事な時に上司である隊長が体調不良等で席を外す為、隊長と副隊長の業務を兼任している事がほぼ。



やっと二話が終了しました。

三話はキリよく六月からです。

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