第2話 その⑪
廃遊園地から逃れた陽達は人気のない港に身を潜めた。その中の一隻、スルガ所有のクルーザーでプエラの手当をしている。
隠世はいつものように監視をするためにデッキにいる。
「これでよし。銃弾が掠った痕が残るかもしれないけど日が経てば目立たなくなると思う」
「ありがとうございます」
「……ごめんね」
「え?」
「痕が残るかもしれない怪我させちゃった。ここまでするつもりは無かったんだけど」
陽は本当に申し訳無さそうに言った。
「いえ。SUNさんは裏社会の事情を教えてくれました。それは、私をこっちから遠ざける為……なんですよね?」
陽はその答えを返そうとしたが、その前に外が騒がしくなってきた。
隠世が見張りをしていると遠くからまっすぐこちらに向かってくる人影が見えた。警戒をしていると、それは電菊とスルガだった。
「無事だったのか」
「なんか無事じゃないほうがいいような言い方だな。まあ、ゆーてこれのせいでちょっち危なかったが」
「西瓜は?」
スルガはこれ呼ばわりされたことを気づいてないのか、周りをキョロキョロしている
「待ち人を迎えに行ってる」
「あぁ、そーいやそんな事言ってたな」
そんなことを話していると、西瓜がギャルを連れて現れた。
「お出迎えありがとうなぁ。二人も無事に脱出できて何よりや」
「当ッ然」
スルガはドヤッと胸を張った。
「俺が迎えに行かなかったら、あとちょっとで囲まれる所だったんだぞ」
「そのおかげで遊び足りないんだよぉ」
「あれまぁ、今度は邪魔されないとええね」
三人が話していると「ねぇ」とギャルが口を挟んだ。
「ねえ、ほんとにこんな所にあの子が居るの?」
隠世がギャルを見ると、「ヒッ……」と短く悲鳴をあげた。
「威嚇してやんなよ。大丈夫だよ、お嬢さん。よく躾されてるから噛まないぞ」
「言い方!」
「キャー、コワーイ(棒)」
「で、その人は?」
「言ったやろ? あの子に合わせたい人物や。名前は桃ちゃん」
西瓜は桃をエスコートして船に乗せた。
「SUNちゃん、入るで」
「どうぞ」
陽に招かれ西瓜に続いて桃も中に入る。
桃の視界にプエラが入ると、目を見開いた。
「璃子!」
西瓜を押し退けてプエラに抱きつく。
「ぉ、義姉ちゃん……?」
プエラはまさかの人物に目を丸くした。
「バカ! 半年以上も行方不明になって……ホント、心配したんだから」
「おねぇえええちゃあああん!」
桃とプエラはしばらく抱き合って泣いた。
陽はそれを見ながら後ずさりで西瓜の隣に行った。
「あの人は?」
「桃ちゃん、あの子の姉やよ。といっても義理の、やけどな。ウチの行きつけのママさん所で働いてる子や」
「姉……」
「春ぐらいから行方不明になっとった妹を探してたんやて。前にその子の写真見せてもろてな、会場で見たときどこかでみたことあると思うたんや。ママさん通じて確認したら当たりやった。せやから、ソウトリの邪魔が入らへんここを指定したんやわ」
二人は未だ泣いているが、会話の内容からしてここニ週間の話をしているようだ。
「父親から妹を守る為に働いてお金を貯めてようやく父親から離れて暮らせる準備ができてなぁ。けど迎えに行ったら荒らされた跡があって当人は行方不明。この七ヶ月間、探しとったんやて」
「そう……」
「世間は狭いなぁ」
「本当にね」
気が済んだのかプエラと桃は陽と西瓜に向き直った。
「SUNさん、西瓜さん、ありがとうございます」
「アタシからもお礼を言わせて」
桃は立ち上がって深々と頭を下げた。
「義妹を保護してくれて、教えてくれてありがとうございました」
西瓜は陽に答えさせるように背中に触れた。
「頭を上げて。私はいきなり押し掛けてきたその子をニ週間限定で面倒見ていただけ。保護じゃない」
陽はプエラに顔を向けると続けた。
「さっきの質問の答えだけど、……そうだよ。君は裏社会に居るべき人間じゃない。だからこっちに恐怖を覚えさせるように仕組んだの。こっちに居ても良い事なんて何もないからね」
プエラは涙を拭って陽に告げた。
「私、義姉と一緒に行きます。ちゃんとした手順で創作者になって読んでくれた人の心を温かくする本を書ける作家になります」
陽の中で幼少期の自分とプエラが重なる。
「そう……それなら、今までの記憶を消させてもらうね」
桃はせっかく会えた義妹に危害を与えられると思ったのか義妹を抱きしめた。
「記憶を消すって、どういう事?」
「お義姉ちゃん、大丈夫。……きっと私が危険にならないようにする為だから」
「そう。君は2週間の記憶を失って貰う、私達は犯罪者だからね。犯罪者を知っている事自体、犯人隠避罪に問われかねない。だから忘れてもらう」
「分かりました。でも、その前に隠世さんに伝えたい事があるんです」
「あいつに? 分かった」
陽は隠世を呼びに行って一緒に戻ってきた。
「俺に伝えたい事ってなんだ?」
「私を鍛えて下さり、ありがとうございました。師匠」
「…………師、匠?」
隠世はその言葉がうまく飲み込めない。
「はい。私が男性恐怖症じゃない事を教えてくれました。私に逃げる手段を教えてくれました。隠世さん……否、師匠の言葉と教えが無かったら私、今頃死んでいました。私をここまで引き揚げてくれたのは師匠なんです」
隠世は顔を背けた。明らかに耳が赤くなっている。
「あー……なんだ。お前は教えたことをすぐ実行出来る。教えがいがあった……弟子だ」
プエラは嬉しそうに笑った。
プエラは陽に「もう大丈夫です」っと意味を込めて目を合わせた。
それを察した陽は隠世に桃を外に連れて行くように言った。
「わかった。行くぞ」
桃は抵抗したが隠世は俗にいうお姫様抱っこで連れ出した。
陽は扉が閉まったのを確認すると、鍵を閉めて西瓜と一緒に窓のカーテンを閉めた。
「記憶を消す前に2つ、聞きたいことがある」
「はい」
「私の本は何処で手に入れて、どうやって私の……SUNの家を特定したの?」
プエラは本を手に入れて時のことを思い返した。
「……あの日は、本当に生きることに絶望していました。いっそ人知れずどこかで死んでしまおうかと思って、公園のベンチに座っていたら一人の男性が本を渡して来ました。それがSUNさんの本だったんです。
その男性は英語じゃない異国語で何かを言っていました。死ぬのがちょっと遅くなるだけだしと、その本を読んで、最後のページにこの紙が挟まっていたんです」
リコは自分のバッグから紙を出してきた。
紙には作者は非正規創作だという事と住所が書かれていた。
「……そう。聞きたいことは聞いた」
陽は大きく息をした。
「お別れなんですね」
「SUNちゃん、手伝おか?」
「大丈夫。前、『姉さん』に教わったから」
「……さよか。ほなお手並み拝見やな」
西瓜は数歩下がって見守ることにしたようだ。
陽はもう一度大きく深く息をし、プエラと目を合わせた。
2話をダラダラと続けてしまってすみません
文句は青空に言ってください




