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リンドウは手を伸ばす  作者: 長坂青空 加良奈志翠 山葵大福
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第2話 その⑥

陽と隠世は来慣れているのかどんどん奥に進んでいく。

プエラは早歩きでついて行くが次第に二人との距離が開いていく。

「嬢ちゃん、カワイイねぇ」

どこかの誰かに付いてきたのであろうチンピラに前を塞がれた。

「どう? あっちで一杯やらない?」

会場ではピエロがキッチンカーで飲食を販売している。当然酒類も売られている。このチンピラはまだ始まって一時間も経っていないのに既にかなり酒臭い。

「すみません。急いでいるので……」

「あ? オレサマの誘いがノれねぇってのか?」

チンピラが肩を抱き寄せようとしてきたがなんとか避けた。

その間にも陽と隠世は進んでいく。

「はあ……はあ……」

自分に向けられる視線から近づいてきそうな者は距離をとり、来なさそうな者はそのまま通った。

「あっ──」

途中石に躓いて転んだ。

きっと二人はプエラが転んだ音は聞こえていただろうが、目もくれずに先に進む。

膝に痛みが走る。きっと擦りむいたのだろう。しかし、ここで立ち止まっていても二人は助けてくれないとわかっているプエラは立ち上がった。

「あ、新作」

陽は道中のブースに並んでいる本を何冊か購入した。

購入した本は隠世に渡して、隠世はそれをリュックに仕舞う。

そんなことをしてくれたのでプエラはやっと二人に追いついた。

「はあ……はあ……」

プエラは陽の二歩後ろで息を整えていると、左肩に生暖かい気配を感じた。

「グルル……ガゥッ!」

「きゃっ!」

気配がいきなり耳元で唸るので思わず、悲鳴を上げてしまった。

プエラが左耳を抑えて振り向くと、長身の人物が立っていた。

黒地に金で模様が描かれた狼狐面で顔全体を隠し、口の部分をパカパカさせて笑っている。

服装は和装をベースに中華と洋風を上手い具合にミックスさせており、黒の半着(はんぎ)、灰色の武者袴(むしゃはかま)、黒の長羽織(ながはおり)を身に纏っている。それだけ見れば男性と見間違えるのだが、靴は女性物だ。

靴は底の厚く踵の高い編み上げブーツで、そのせいで更に長身に見える。手袋は黒のハーフグローブをつけており、その上から、黒地に金の装飾が施された指甲套(しこうとう)を付けていた。そして何より印象に残るのは焦げたクローブが強く香っている。

狼狐面の人間はプエラの耳元で唸った時の体制をしており数拍かけて身体を起こした。

ゆっくりと手を振るのをみてプエラは言い知れない恐怖を感じた。

「何やってん、だ!」

それを遮ったのは海賊の格好をした人物だった。

海賊は持っていた銃の尻で狼狐面の後頭部を叩いた。

「ぃたっ」

「よお、電菊。相変わらずスルガのおもりか」

「ああ、見ての通り、だ。くあ、かふ……」

電菊は海賊風の要素を最低限に抑えたシンプルな仮装をしている。

ポエットスリーブの白シャツに黒ベスト。片目をレザー調の眼帯で隠している。また腰には銃を仕舞うホルダーがパンツのベルトに付けられていた。

電菊曰く銃は特殊な銃弾のみ発射可能のモデルガンらしい。髪型は少しウェーブを付けて遊ばせていて石鹸の香りが風に乗って香っている。

「電菊、ひどーい。いきなり殴るなんてー」

「初心者脅かすお前が悪い。とっととそれ外せ」

「はーい……西瓜(スイカ)ー取ってー」

狼狐面──スルガは西瓜と呼んだ女性の所に向かった。

西瓜は夜盗蛾(よとうが)をイメージした仮面を着けていた。黒と(にぶ)い金色で中華風の意匠を施された蝶々の仮面だ。それで目を中心に顔の上半分を隠している。

服装は赤を基調とした漢服(かんふく)に、黒色の切り替えしがある袖口と襟は鈍い金銀白の糸で刺繍を施し、靴は衣に合わせて黒のチャイナシューズ。それには金の糸で植物が細かく刺繍されている。

髪型は高い位置に結った団子にポニーテールリングのポイントウィッグを付けていて毛先が腰の当たりで揺れていた。

「そこ、座りぃや」

西瓜は慣れた様子で組紐を解いていく。

勝手に進んでいく会話にプエラは呆気にとられている。

「ったく。悪いな、プエラ。俺の仲間が」

「……えっと」

「あれ? わからない? 俺、甘藍電菊」

初手でスルガが脅かしたのでおそらく隠世との会話を聞いていなかったのだろう。名乗ってやっと海賊が電菊だとわかったようだ。

「あ……甘藍さん……お久しぶりです……」

「久しぶりー」

「あれ? 電菊って名字あったの?」

スルガが初めて聞いたような顔をする。

「俺にだって上の名前くらいあるわ。スルガ・ラブカ、伯西瓜」

「確かにそんな名字やったなぁ。今まで忘れとったわ」

「えー、私、初知りぃ」

「それと、伯は名字じゃあらへんよ?」

「え、そうなのか? てっきり名字かと」

「まあ、普段から西瓜ぁ呼んではるからそう思いはるのもわかるけどなあ」

「まあ、スルガはどうせ忘れてると思ってたよ。

あ、でSUN、何か買ってくか?」

「あ、SUNじゃん。やほ」

戻って来たスルガは面の代わりに色付きサングラスをかけている。手には何故かピクニックにでも行くようなカゴを持っている。

「いえーい」と陽とスルガはハイタッチした。

「SUNにこれあげるー」

スルガはカゴから知育菓子を出して渡した。

「え、懐かしっ。ありがとー」

スルガは隠世にも同じものを渡したあと陽に訊いた。

「で? こっちは?」

じっと見つめられたプエラは先ほどのことが忘れられず、思わず一歩下がった。

「うちで預かってるプエラだよ」

「へぇー……はい」

スラガはプエラにも同じものを差し出した。プエラは恐る恐るそれを受け取った。

「あ、ありがとうございます」

「てか、スルガ、お前はさっさとブースに戻れ。西瓜に店番させんな」

「はーい」

スルガがブースに戻るのと一緒に陽も向かう。隠世は電菊と話し込んでいるようだ。

西瓜に近づくとスルガと同じようにお香の香りがしている。西瓜の場合は白檀だろうか。

「西瓜、こんにちは」

「こんにちは、SUNちゃん」

陽は取り置きしておいた今回の和綴じ本を西瓜に渡した。

「これ、今回の」

「あれ。今回は出さんと思うてたけど、出したんやなぁ。ほなありがたくもらうわ」

西瓜が受け取ると横からスルガが入って来た。

「え、何。SUNの新作?」

スルガは西瓜から本を受け取るとパラパラと中身を見た。

「へぇー三題噺」

速読でもしたのか、「なかなか面白いね」と短く感想を述べた後本を返した。

「それでそんな格好なのか」

「スーツにサングラスでSPにしようと思ったら二人(スルガ・西瓜)にやられた」

話しながら隠世と電菊が合流したところで陽はお礼を言った。

「スルガ、西瓜、電菊、この前はありがとう」

この前とは、仮面パーティーのことだ。

照本は電菊、蝶面が西瓜、狐面がスルガだった。

あの時、ヤオに頼んだ追加三組の宛先だ。

「別にええよ。あの後、SUNちゃんからちゃーんと報酬を貰えたからねぇ」

「それに、西瓜の家で会場よりも上手い酒を飲み直したし」

「ウチが帰ったときは、用意したお酒の半分を飲み干してたなぁ。ツマミはあんまり手ぇ付けへんかったけど」

スルガは誇らしげにピースサインをした。

「会場と西瓜宅で推定五リットルは飲んでたな。しかも度数がバカ高いの」

それを聞いた隠世は失笑した。

「それぞれ、ソウトリと対峙したんだろ?」

「あー、したな。俺とスルガは観察眼が鋭い男だった。通された休憩室が建物の高い所でちょっと焦ったけどな」

「そのせいで脱出の時に窓から落とされたんだよー。酷くなーい?」

「ちゃんとキャッチしただろうがい」

「あ、そういえば廊下で会ったソウトリの女の子。あの子、可愛かったな」

「聞けよ!」

「可愛かったなあ」と呟くスルガの顔は気味悪く笑っていた。

「スルガはんの新しいおもちゃやな」

「一体、なんの話を……? ソウトリって」

話に一向についていけていないプエラが訊いてきた。

「あー、もう時効かな?」

「やね」

「まあ、いいんじゃね?」

陽は三人の了承を取ると、話しだした。

「一ヶ月ぐらい前、創作者のトイフェルが捕獲されたのは知ってる?」

プエラは一ヶ月前の記憶を掘り出した。確か街頭ニュースで創作者が捕まったと報道されたことを思い出した。

「ちょっと事情があってソウトリがトイフェルを捕獲出来るようにお膳立てしたんだよ。その時に正規創作者主催のパーティーに潜入したんだよね。私と隠世じゃあ手が足りなさそうだったから三人に頼んだんだよ。可能なら陽動もして欲しいって。おかげですっごい金額を請求されたけど」

「ソウトリに対峙するんやからそれなりの対価を貰わんとねぇ」

西瓜は片方の口角を上げて悪い顔をする。

「試したい武器があったし、ちょうど良かったわ」

「怪我とか、正体がバレたりとか……」

陽は思い出したように訊いた。

「西瓜宅に着くなり早々に四十パーを開ける奴がいるから怪我は一切ないぞ。会場では仮面取ってないし、そもそもその時使っていたペンネームさえ告げてない。結構面倒だったけど、手にのりつけて指紋も極力残らないようにしたからモーマンタイ」

「良かった……」

陽は心の底からホッとした。

「んで、西瓜は誰と対峙したんだ?」

「ウチ? ウチは隊長さんやな。男の」

「それって──」

「その人と少ーし話したんやけど、まだまだ隊長として甘いところがあったわぁ。まぁ、武器の実験台にちょうど良かったんだけどなぁ」

話が一段落したところで西瓜はじいっとプエラの顔を見た。

「あの、何か……?」

「あんさん、どっかで会うたことあらへん?」

「えっ……?」

「……気のせえか。すまんなぁ」

「い、いえ」

西瓜はプエラに気づかれないように端末で写真を撮ると、ある人にメールを送った。

「それで? SUN。本、買ってくれるの?」

「今回は何にしたの?」

「石田三成と大谷吉継のBL」

陽のスルガ・ラブカ評価は、『かなり読みづらい』だ。しかし、それはオリジナル作品に限ったことで、BLは読みやすいので腹が立つ。

「じゃ、貰う」

「まいどー」

電菊と西瓜も出しているようだ。

「ウチは前回出した本の解説が主やな。前回は解説を乗せるととんでもない厚さになりそうやったから」

伯西瓜。時代背景と内容の構成がしっかりとしていて面白い。でもあとがきと解説の情報量がおかしい。なんならあとがきが本編といってもいい。

「俺は時間がなかったから、今書いてるメインキャラ達の何にもない日常を突貫で書いた」

甘藍電菊。正規創作者のミステリに対するアンチテーゼだけど、犯人があまりにもかっこよく書かれているのでやっぱり変態だと思った。

西瓜・電菊の本も購入した。

「それじゃ、もう少し他の所を見回ろうかな」

「SUNちゃん、例のアレ(・・・・)、時間的にもう少しやない? 気ぃつけるんやよ」

「みんなもね」

陽、隠世は三人に別れを告げて元飲食店コーナーの方に歩いて行った。

プエラは三人に頭を下げるとすぐに陽、隠世の後を追った。

「ちょっとあの子(プエラ)もいいな」

「やめんか!」

「いたっ!」

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