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リンドウは手を伸ばす  作者: 長坂青空 加良奈志翠 山葵大福
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第2話 その⑦

通報を受けた文警局 裁定室 捜査部は廃遊園地から少し離れたビルの屋上に集合していた。

「うーわっ。あそこにうじゃうじゃいるじゃーん」

象徴である白いコートを着た男は双眼鏡を覗いていた。腕には赤地に渦巻の刺繍がされた腕章をしている。

「あっちもこっちも。よくもまあこんなに集まったもんだねー。まるでゴキ──」

「それ以上、それの名前を口に出さないで下さい。飛鳥副隊長」

男――飛鳥琉(アスカ リュウ)の言葉を遮って女性が言った。腕には淡い青地に水が流れているような刺繍がされた腕章をしている。

「ほりちゃん、そんなに嫌いなん?」

飛鳥は双眼鏡から眼を放して訊いた。

「当然です。アレを好きな人なんて居ないかと」

ほりちゃんーー堀河(ホリカワ)涼子(リョウコ)は苦虫を噛み潰したような顔で言った。

「私も大ッキライです、アレ。想像するだけで悪寒がします」

日野は自隊の部下に指示を出しながら二人の会話に入った。

「女の子は本当に虫嫌いだよねー。なんでー?」

「そんな事、今はどうでもいいです。日野副隊長、隊長方はなんと?」

堀河は飛鳥の話をぶった切って本題に入る。

各隊の隊長は同日行われた別案件のため、後程合流ということになっていた。

「あと一時間程でこちらに到着されるそうです。隊長方と合流したら情報のすり合わせをして規定時間に突入します」

「分かりました。それでは各部隊へ三十分以内に階下に隊列を作るように伝達します」

「お願いします。あと……」

いつもはつらつとしている日野の歯切れが急に悪くなる。

「どうかしましたか? 日野副隊長」

「火山隊長から堀河副隊長に伝言というか、なんと言うか……」

「あれかなー? 『今回も第九部隊隊長は姿を現さないのか? やる気が無いなら隊長やめろ』なんじゃない?」

飛鳥は日野の言葉の続きを想像して言った。

「……そうです。よく分かりましたね」

「僕んとこの隊長だしー? 口癖の一つになってるし。隊長がほりちゃんに言う事ってそれしか無いっしょ。お、あいつ最近非正規に堕ちたやつだ」

飛鳥は再び双眼鏡を覗いている。

「返す言葉もありません。私の隊長は本番に弱くて……こういう場は役に立たないんですよ、あの人は」

本番に弱いのはいかがなものかと思うのだが、それが自分のところの隊長なので諦めるしかない、と堀河はため息をついた。

「お二人が羨ましいです。自分の隊長と任務に(おもむ)けるなんて」

「私は堀河副隊長の事、同じ副隊長として尊敬しています。副隊長の仕事をこなしながら隊長としての仕事も両立されているんですから」

「僕は逆にほりちゃんが羨ましいけどなー。僕んとこの隊長、いっつも何かに怒ってて気を緩めれないんだよー。いっその事さ、第六部隊(僕んとこ)第九部隊(そっち)の副隊長の席、交換しない?」

堀河は苦笑しつつも即答した。

「しません。第九部隊の副隊長として、隊長代理の責務を預かっている者として今を誇りに思っていますから」

「ちぇー。じゃあ、ひのちゃん」

「しませんよ? 私は居心地いいので」

堀河はふふっと笑いを漏らした後、顔を切り替えた。

「余計な話はここまでです。私は伝達に伝えてきますね」

「分かりました」

堀河は部下が待機している階に向かうため階段に向かった。


「ありがとー」

陽はピエロが出しているキッチンカーで買った飲み物を受け取るとお礼を言った。

「毎度のことながらおいしー。何が入ってるんだろー。隠世」

「無理」

「まだ何も言ってないじゃん」

「いつでも飲めるように味を解読してー、だろ? 複雑すぎて無理だ。訊いたら案外答えてくれるかもしれないぞ」

「それにしても今日、新作多くない?」

今日買ったのは新作十作に続編二作。いつもなら新作と続編の数が逆転する。というか単純に創作者の数が多い。

「ハロウィンだから浮かれてるんだろ。久々に呼ばれた奴もいるしな」

「ふーん……」

「あの、訊いても良いですか?」

プエラがそろりと手を挙げて言った。

「いいよー」

「普段は今日みたいにたくさん本を出してはないんですか?」

「そうだねぇ……いつもはこの半数以下ってとこだね」

「多いのは、ハロウィンだから?」

陽は笑って、隠世が代わりに答えた。

「今日は『掃除機』が来るからな。だから多いんだ」

「『掃除機』……ですか? 掃除機ってあの電化製品の?」

「まあ、隠語ってやつだよ」

「プエラは掃除機ってどんなときに使う?」

「床に広範囲にゴミが落ちている時、でしょうか」

「ま、つまりはそういうこと」

屋外に、しかも廃遊園地に落ち葉などのゴミが落ちているのは当たり前だ、屋外用の掃除機でもさすがに落ち葉は範囲外では? そもそも電化製品である掃除機が『来る』とはどういうことなのだろう、とプエラの頭にはハテナがいっぱいだ。

「どういう──」

「二分前」

隠世はプエラの言葉を遮ってカウントダウンを始める。

それを聞いた陽はプエラの手を取りさっき飲み物を買ったキッチンカーに駆け込む。

店番のピエロはいつの間にかいなくなっていた。

隠世も続いて入り、扉を閉めて鍵をかける。

「えっ!? 勝手に入ってだいじょ……」

陽はプエラの口を塞ぐと早口で言った。

「今からソウトリが私達を捕まえに来る」

プエラは驚いたのか目を見開いている。

陽はプエラに帽子を被せて続ける。

「今から君がすることは三つ。一つ、ソウトリに顔を見られない事。二つ、ソウトリに捕まらない事。三つ、私と隠世と絶対に離れない事。万が一、私達と逸れたらさっきの三人と合流する。これ、三人の電話番号。良いね?」

捲し立てる様に言ったが、プエラは「っはい」と返事をした。

「一分前」

「あと、ここから生き延びるコツは自分の周りにあるものは全て盾にする事。今の君なら、私の言いたい事が分かるね?」

「はい」

「三十秒前」

そこから十秒ごとに告げた。

「五、四、三、二、一」

隠世がゼロと告げるのと同時に空に赤の照明弾が上がった。

近くいる非正規創作者は「なんだ、なんだ」と口を揃えて狼狽えている。

「二人とも、出来るだけ気配を消せ。もう来る」

三人が気配を消していると大量の足音が近づいて来て、少しすると怒号が飛び交う。

しばらく次々にソウトリが非正規創作者を捕縛している音が続いた。

音がしなくなってからも暫くは気配を消した。

「行くぞ。観覧車の横を突っ切る」

周囲に人間の気配がなくなったのを確証した隠世は小声で二人に話しかけた。

二人は頷いたのを確認した隠世はキッチンカーの扉を開けた。

一応周囲の確認をしてから手招きをする。

「行くよ」

陽はプエラの手を握って観覧車の方向に走り出した。


観覧車までは旧フードコート広場やいくつものアトラクションを抜けなければならない。

通路のあちこちに空の薬莢や整理対象の非正規創作者が落としていったであろうゴミが散乱している。

「居たぞ!」

物陰から淡い青色腕章が飛び出してきた。

陽が気づいたのと同時に隠世が一撃で沈めた。

物音に気がついたのか、続々と各隊の人間がパラパラと寄ってくる。

せめてもの救いは一人一人はそんなに強くないことだ。しかし

「キリがねえな」

観覧車まであと半分のところまで来ていた。

最初の方こそ隠世だけで対応できていたが、流石に増えてきて陽も応戦した。

プエラは邪魔にならないように避けに徹している。

「捕まえたぞ!」

観覧車まであと百メートルというところで、プエラがソウトリの男に腕を掴まれた。

プエラは持っていた飲み物を男に向けてぶっかけた。

「わぷっ!」

中身は温かかったコーンスープだ。

スープに気を取られている隙に男の急所を思いっきり蹴る。

「がっ……」

痛みによって男の力が緩んだ。

それを見た隠世は、感心したように口笛を吹いた。

「上出来だ。よくやった」

隠世が褒めてやるとプエラは嬉しそうに小さく笑った。

「ありがとうございます」

「観覧車までもうすぐだ。行くぞ」

「はい」



「そろそろだな」

目を閉じて集中していた電菊は静かに目を開いて言った。

「そうやねぇ」

スルガ・西瓜・電菊はブースの片付けを始めた。といっても各々作品は完売。特に片付けるものはない。

そうこうしていると、空に信号弾が上がった。

「西瓜あ、付けてー」

スルガはサングラスを外して狼狐面を西瓜に渡す。

西瓜は無言で面を受け取ると手際よく組紐を結んでいく。

「激しう動いても取れへんようにしとるけど、視界が狭うなるさかい気ぃつけてな」

「はーい」

電菊は首を回したりその場で跳んだりして身体の準備を始めた。

「ん?」

スルガは一方向をジッと見ている。その方向からは大量のソウトリが向かって来ている。

「どうした?」

「私、ちょっと遊んでくるね」

そういってスルガは歩き出した。

「おー捕まるなよ」

「スルガはん、程々にやで。時間にぃはポイントで待ち合わせやからね」

「分かったあ」

返事と共にすうっとスルガの影が薄くなる。

影はまもなくソウトリ集団に紛れたが、誰も横を通っても気がついていない。

「相変わらず気配を消すのが上手いな。あいつホントに足あるのか?」

「まあ、それがスルガはんやからなあ」

電菊は面が入っていた木箱を鞄にしまった。

「さあて、俺らもやりますかー」

「なあなあ、電菊はん」

「あ?」

「あれだけ真っ白な服を着てる人らが固まって動いてるとまるでシローー」

「それ以上言うな。見えるだろうが」

電菊は西瓜の言葉を遮った。

西瓜は帯の間から鉄扇を取り出すと小さく笑った。

「まぁ……ウチもあんまり好かへんわ。建物を腐らせてしまうからなぁ」

電菊は腰のホルダーから銃を取り出してクルクル回した。

見た目はフリントロック式だが、ちゃんとオートマチック式だ。加えて弾を無駄にしないようにセミオートだ。

「それ、弾入っとるん?」

「安心安全のヤオさん特性だ。殺傷能力は無い。ただ当たるとだいぶ痛い。痣くらいにはなる、らしい」

「ほぉ……さすが、ヤオさんやな。弾切れしたらどないすんの?」

「そんなの決まってるだろ。ソウトリから銃ごとお借りするんだよ」

「それはまぁ……可哀想になぁ、ソウトリの皆さん」

「微塵も思ってないだろ」

電菊は鼻で笑った。

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