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リンドウは手を伸ばす  作者: 長坂青空 加良奈志翠 山葵大福
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第2話 その⑤

五日後―――

陽はいつも通り、プエラが書いた三題噺を読んでいる。

いつもはリビングだが、今日は書斎で行った。

「……うん。最初の頃と比べてかなり良くなってるね。伝えたい事がはっきり伝わるようになってきてるし、登場人物の心理描写も入れてる。今日は手直し無しかな」

プエラはパアッと顔を明るくした。

「SUNさんのおかげです」

「私はアドバイスしただけ。プエラが自分で、ものにしたんだよ」

陽は引き出しから紙の束を出した。

それは何十枚毎にパンチで穴を開けられて紐で括られていた。

それらは全てプエラがここに来て書いた三題噺だ。

「じゃ、明後日の話しようか」

「明後日?」

「そ。明後日……十月三十一日はハロウィンだけど偶然にもBCMが廃遊園地で午後に開催される」

「びぃーしーえむ?」

プエラはハテナを浮かべた。

「ブラック・カルチャー・マーケット、略してBCM。裏社会の闇市だよ。非正規創作者(私達)は普通の手段で作品を売れないからね」

「……なるほど」

「でもさ、せっかく書いたなら誰かに見せたいじゃん? だから特級の、あー、私達って文警局に勝手に階級分けされてるんだけどね? それの一番の上の特級さんたち主導で作品を売る機会を作ってくれるの。最近じゃあ裏世界の娯楽にもなってるんだよ」

「そんなイベントがあるんですね……」

「そ。で、今回プエラが書いた三題噺を、私が書いた三題噺に混ぜて出そうと思う」

「えっ!?」

さらりと告げられる事実にプエラは目を丸くする。

「とは言っても、これから製本する時間は無いからね。今から今日のを印刷して和綴じしてSUNの名義で出す予定ー」

「そ、そんな事していいんですか⁉」

「別名義で出すなんてザラにある事だよ。昔の人なんて「誠実用」「変態用」って使い分けてたらしいし。それに人が違えば書き方も違う。本当にファンなら見分けつくし、たまには違う文体も混ぜて刺激を与えないとね。特に今回(・・)は気にしてる余裕ないと思うし」

「今回……?」

プエラの頭の中はハテナでいっぱいだ。

「最近、何故か正規創作者が無申請ペンネームで作品を作ってる人が多いんだよ。BCMは来るもの拒まずだから、そういう人達も出店するんだけど、抑圧されてる反動なのか軒並みマナーが悪いんだよね。裏だから何やってもオッケーとか思ってるんだろうけど。まあ、だからプエラが出しても問題ないってこと。それに小遣い稼ぎが出来るしね」

「小遣い稼ぎ?」

「明後日はBCMだけど、何の日でしょう」

「……あ」

明後日で最初に提示した二週間が経過する。二週間経てば無条件で出ていく、プエラはそれを思い出した。

「BCMが終わったらその場でさよなら。その時に儲けの半分渡すよ」

「……っはい……」

「あと悪いけど、原本はこっちで処分させて貰う。明後日は昼にはここを出るから。プエラがここに居た証拠も指紋含めて消させてもらうね」

「わ、かりました」

プエラはきっと納得していない。が、それは二週間前から決まっていたことだと飲みこんだようだ。

「じゃ、今から三題噺集の和綴じしようか。今日のは今から打ち込むとして、うーん」

陽はこの二週間でプエラが書いた三題噺を全てパソコンに打ち込んでいた。その中からもう、二つほど選んで印刷を開始する。

プリンターが動き出して、次々に用紙を吐き出していく。

「印刷しながら和綴じの仕方、教えるね。工程は多いけどそんなに難しくないから。一応、これやり方」

「は、はい」

「お手本も含めてこの辺の廃棄でやってみようか」

手順の紙を見ながら説明をしつつ、やってみる。

プエラは教えるとすぐにできるようになった。

(うま)いねえ。これなら任せられるね」

そうこうしているうちにプエラ著①の印刷が終わった。

プリンターは普通の家庭用だが、ヤオによって改造され、数千枚の紙が背面にストックできるようになっている。

印刷物が出てくる部分は落とせば不要とされたので、下には常に箱が置かれている。そこに今プエラ著①が収まっている。

「えーっと、十部印刷したからページごとに分けて、印をつけておいて」

プエラは返事をすると箱から紙を出した。

陽はプエラ著②の印刷を開始した。

「じゃ、私は今日の分をパソコンに移しちゃうね。わからないことがあれば声かけて」

「はい!」


当日―――

三人は玄関で最終チェックしていた。

「今回出す本は?」

「俺が持った」

プエラ作が三つに陽著が一つ。厚さは二センチほどになった。

丈夫が売りのリュックに十冊の和綴じ本が入っている。

「君は荷物を持ったね。忘れ物はない?」

「はい!」

プエラはここに来た時と同じ格好をしている。といっても全く同じというわけではなく、陽が少し手直しした。それと度無しの眼鏡もつけている。

陽は三角帽子とマントで簡易的に魔女、隠世は犬耳と爪と肉球がついた手袋で簡易的に狼男にした。顔は以前パーティーで使った仮面を着けることにした。

「あのSUNさん」

プエラが不安そうに言う。

「何? 何か忘れ物?」

「あ、いや、それはないと思います。私達、仮装してますけど目立ちませんか? まだお昼ですよ?」

「今日はハロウィンでしかも土曜日。仮装してる人達で溢れてるよ。木を隠すなら森の中っていうでしょ?」

それでもプエラは不安そうだ。この二週間、プエラは全くいうほど外に出ていない。そこからも不安、加えて緊張は来ているのだろう。

「堂々としてれば良いんだよ。おどおどしてると逆に怪しまれるよー」

「は、はい!」

「じゃ、行くよ」


目的の廃遊園地には二時間ほどで到着した。

「ここが……」

経年劣化で剥げた塗装、土埃……。全てがかつての賑やかさを打ち消している。

「行こうか」

入園ゲートは城門のようで、きっと客で賑わっていた時であれば朝から晩まで開かれていたであろうそれは、閉ざされている。

三人が門の手前まで来ると、中からピエロの格好をした人間が出てきた。

「『カボチャの中身は捨てらレタ。外側はどこに飾ル?』」

この問いは合言葉だ。合言葉は毎回変わり、自分のペンネームと同伴者を告げることになっている。

「『そこら辺の入り口。店の出入り口とか映えるんじゃない? SUN屋さんとか隠世専門店とか期間限定のお店も良いね』」

「入ってイイヨ」

ピエロがそういうと門が大きく開いた。

「おじゃましまーす」

「好きなトコ使うとイイ」

「はーい」


陽一行はしばらく中を進んで中央広場に鎮座している噴水前にすることにした。

「水が出てない噴水ってなんていうんだろうね? 噴?」

隠世が備え付けの長机に何か仕掛けされていないか確認している間、陽は時間潰しでプエラに話しかけた。

「普通にオブジェなんじゃないですか?」

「えー、もうちょっと想像膨らませようよお」

仕掛けがないことを確認した隠世はリュックから和綴じ本を出して並べた。

「あの、勝手に置いていいんですか?」

「うん。入口のピエロも言ってたでしょ? 好きなとこ使えって。そもそもBCMでの出店は基本申請無しだからね。だから、決まった場所もないしテキトーに置かれた長机に勝手に置くんだよ」

「そう、なんですね……」

出店して数分後、ピエロがくるくると踊るように回りながら近づいてきた。

風船でも差し出してきたのは万札だ。

陽はそれを受け取ると一冊、ピエロに渡した。

「まいどお」

本を受け取ったピエロはまた踊るように回りながら去った。

「SUNさん、今のは、一体……?」

「あー、『ピエロ救済』だよ。ここで出店すればあのピエロが必ず一冊、最低価格で買ってくれるんだよ。最悪、一冊も売れなくても最初にピエロが買ってくれたあおの一冊は売上になるからね。だから『ピエロ救済』」

「なるほど……って最低価格? それって一万円札ですよね?」

「BCMに出す本はどんなに内容や厚さが薄くても一万が最低ラインだ。業者に頼んで製本すれば倍の二万からになる。加えて購入者がチップで更に払う事もある。SUNみたいに人気な奴の本は二桁万だしても欲しい奴もいる」

今までコミックは税込み五百円、高くても千円、専門書でも三千円程度のものしか見たことがないプエラは、自分の常識と違うことに驚愕した。

「すごい、ですね……。内容・厚さに関わらず、最低一万円って……」

「当然だ。非正規、つまり犯罪者が一ヶ所にこれだけ集まるんだ。いつ捕まっても可笑しくない……正直日々の買い物さえ命がけなんだ。それにソウトリに捕まれば例外なく死刑だ。そういうリスクを背負ってここに来てるんだ、一万が最低ラインだろうよ」

プエラは隠世の言葉で気が引き締まる思いになった。

「すみません。少し浮かれてました」

「私か隠世から離れないでね。命落としても知らないよ」

陽は机と一緒に置かれていたパイプ椅子に座った。これも隠世が確認済みだ。

「しばらくはここにいるから座りなあ」

「……はい。失礼します」

プエラはもう一つのパイプ椅子に座った。

陽は鞄から本を取り出して読み始めた。

「俺はちょっと全体を見てくる」

「いってらっしゃーい」

陽は隠世に手を振って見送った。


体感で十五分ほど経ったろうか、隠世が何冊かの本を手に戻って来た。

「おかえり。どうだった?」

「目星は何ヶ所かついた。あいつらはメリーゴーランドの前にいたぞ」

「三人も出したんだねえ」

「例のごとく眠そうにしてたぞ」

「だろうね(笑)」

陽は売り物を一冊、鞄に入れた。

「終わったら挨拶にいこうか」

「そうだな」

隠世は陽の斜め後ろ、プエラと陽の間に立った。

「門前が騒がしかったから、もう開くと思う」

「りょーかい」

開門を告げるブザーと、多数の足音が近づいてくる。

「やぁ、SUN。今回も出したのかい?」

「いらっしゃい。そうなんだよ。作品が溜まっちゃって。それで息抜きに今回は趣向を変えてみたんだけど、良かったらどう?」

一人目の客はぴしっとスーツを着た男性だ。何回も来てくれているので、名前はわからないが顔は覚えた。職業はヤクザの参謀だと言われた。

男性はパラパラと中身を見始めた。

「ほぉ……三題噺集か。珍しいな、そのうちに流行るんじゃないか?」

「三題噺が? 何で?」

「君は非正規創作者の期待の星だからね。数年前に君が来てから、君の書いた物が後で流行っていることが多いんだよ。気づいてなかったのかい?」

「知らなかったよー」

「一冊貰おう。これから三題噺が流行るのが楽しみだ」

男性は懐の財布から万札を五枚出して机に置いた。

「珍しいね、貴方がこんなに出すなんて。いつもは最低の倍額しかくれないのに」

男性は笑った。

「おや、手厳しい一言だ。なぁに、簡単なことさ。あのSUNの三題噺集なのと、今後の流行りになるであろう火付け役の本という価値を見積もっただけだよ。だからこれが私の適正価格だ。それに私は君のデビューからのファンでね。お布施も兼ねている。受け取ってくれるかい?」

「それはまた随分ですね。じゃ、ありがたく貰っとく」

陽の代わりに隠世が回収した。

「やあ、君は相変わらず番犬かい? そのコスプレ、良く似合っているよ」

「早くどけ。次が待っている」

「おー怖い。ではSUN、ハッピーハロウィン」

男性の後ろには、赤いチャイナドレスをきた女性が並んでいた。

「勝手ながらお話を聞いておりました。SUN様、今回は三題噺集なのですね。(わたくし)にも一冊いただけますか?」

「はーい。どーぞー」

この二人を皮切りに入れ代わり立ち代わり客が来て三〇分が経つ頃には売り切れた。

「完売ですね」

「最短じゃないか?」

「まあ、今回は十冊だけだったしねぇ。もうちょっと擦っとけばよかったかなあ」

陽と隠世は片付けを始めた。といっても片付ける物は代金くらいだが。

「十三……十四……十五。んー、はい」

売上金を数えて五万は隠世に残りを封筒に入れてプエラに渡した。

「それだけあれば当分は凌げるでしょ」

「本当に、良いんですか……?」

「良いよ。今回の本、半分以上プエラの作品だしね」

プエラは遠慮がちに封筒を受け取った。

「さてと、少し回ろっか」

陽と隠世はテキトーに歩き始めた。プエラも慌てて後ろをついて行く。

「あ、プエラ、ここからは私も隠世も君を守ったりしないから。自分に向けられる悪意は自分で対処しなよ」

「はい……」

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