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報告

「ゴラン!」

「わかってます」

 迎撃するために、アルマとゴランが馬車から飛び降りる。

 二人が飛び出していくのを馬車の中から確認したリディアは、そっと立ち上がり、自身の首に提げていた十字のネックレスを両手で握って両ひざを床につく。


 アルマとは違い、ゴランは着地の際の音が殆どない。剣を持っている時点で何となくわかっていたが、それなりに動けるようだ。


「リディア?」

「アメリア、待ってくれ」

 アメリアがそっと目を閉じたリディアに声をかけようとしたので、一旦それを止める。


 リディアが【天啓】持ちだということはわかっていたので、今回も何か特別な能力を使うつもりなのだろう。

 これは勘ではなく、リディアの周囲に集まり始めた精霊や魔素の動きを見ての推測だ。


 向こうの方では、ゴランがトロルの棍棒と自身の大剣をぶつけ合っており、アルマが脇にいたゴブリンの胸部を細剣で貫き、すぐさま引き抜きながら後退、彼女に迫る次のゴブリンも危なげなく仕留める。

 アルマ辺りは、【ロニギスメイシュ】と相性が良さそうだ。──本人に使いこなせればだが。


 アルマとゴラン以外にも、六人ほどの冒険者が撃退に出ている。魔物の数も多くないし、俺たちの出る幕はなさそうだな。


「お疲れ様」

「ありがとう」

 戦闘が終わり、目を開けたリディアが戻ってきた二人を労い、アルマが快活な笑みを浮かべる。


「リディア、さっきは何をしてたんだ?」

「魔物たちの冥福を祈っていただけだよ?」

「いや、そうじゃなくて、戦闘中のあれだ」


「あぁ、あれがリディアなりの補助魔法なんだよ」

 不思議そうに俺の顔を見ていたアルマが、やっと得心がいったという感じにそう答えた。


「補助魔法?」

「うん。いくつか種類はあるけど、今回は二人に簡易的な天啓を付与しただけ。後は、周囲の馬車に、簡単な守護を張ってたくらいだよ」

 アルマに続き、リディアからの解説が入る。少し様式は違うが、セレイナに近い能力を持っていそうだ。


「そうなのか」

 何か物質的な壁や盾で馬車が覆われていた感じはしなかったし、精霊が馬車の周りに集まっているのも確認できから、どちらかと言うと召喚や降霊に近い能力なのかもしれないな。


 それよりも、個人的には他人に【天啓】を付与するという謎の能力の方が気になるところだが。


「リディア、さっ──」

「話す前に、お昼にしませんか?そろそろメルゼブルグに着いてしまいますし」

 俺の言葉を遮るように、オリビアがそう告げる。


「そうだな……」

 先の能力については食事中に聞けばいいか。


 直前で小さな戦闘があったものの、無事にメルゼブルグに着いた俺たちは、荷馬車組合で商隊と別れ、アルマたちは宿の確保に、俺たちはウィルの鍛冶屋へと向かう。


 昼食中、リディアと話す中でいくつかわかったことがあり、リディアの話す【天啓】をもたらす存在というのは、この世界を管理する天使の一人、アーカムからの啓示らしい。

 リディアが望めば、アーカムとも連絡を取ることができ、先の【天啓】を付与する能力というのは、リディアがアーカムに頼んで、彼?から対象に、彼の持つ未来を見通す能力を一時的に与えるものであり、一種の未来予測に近いものなのだそうだ。


「……何か、嫌な予感がするな。ここまで来て悪いが、また時間を改めて来ないか?」

 ウィルの店の目の前まで来たところで、一度立ち止まる。

 別に、リディアに【天啓】を付与してもらったわけではないが、鍛冶屋の扉に手をかけたところで、何か嫌な圧迫感というか、“圧”を感じて扉を開けることが躊躇われた。


「奇遇だな、ルシェフ──せっかく来たんだ、少しくらい寄ってくといい」

 俺が扉から離れたところで、無造作に扉が開き、西の国の国家公認冒険者であり、西の国最強の男とも言われる《勇者(せんとうきょう)》、アドルフ・ベッカーが姿を見せた。

 アドルフからは、好意的な圧力が向けられてきている。


「ここはお前の店じゃないだろ……?」

「別に、奴は構いやしないだろう。待ち人もいるしな」

「……それなら寄るが、今回は使い捨ての安価な魔剣を持ってないから、いきなりの奇襲とかは止めてくれよ」

 アドルフは戦闘狂だが、根が悪いやつではないため、言えば分かってくれるはずだ。──多分。


「ウィル、いるか!」

 外で話し込んでいてもあれなので、店内に入り、姿を見せないウィルに声をかける。


「お久しぶりです。彼なら、少し試したいことがあるからと、席を外してますよ。今回は貴方たちが来るので、合鍵を預からせてもらっていたんです」

 奥の扉から姿を表した金髪の少女が、鍵を片手に掲げて柔和な笑みを浮かべる。


 だから、何で俺たちの来ることがわかるんだ──なんて、以前の俺ならそう思っていたかもしれない。

 だが、さっきリディアの話を聞いたばかりということもあり、もしかしたら、王女がそういった【天啓】のような能力を持っているのか、或いは、【天啓】を持つ冒険者を秘密裏に抱え込んでいる可能性に気づく。

 もしかしたら、これはあまり触れない方がいい内容なのかもしれないな……。


「っと……お久しぶりです、王女」

 いけない、いけない。王女が突然現れたから、少し反応が遅れてしまった。

 一先ず、その場で慌てて片膝をついて右手を握りこぶしにし、それを心臓部へと運ぶ。


「止めてください、他のお客さんが来たら、不審がられてしまいます」

 アメリアが俺に続こうとしたところで、慌てた様子の王女にそう止められる。


「──ところで、この後の時間は大丈夫ですか?」

 俺たちにこの後の予定がないことは絶対に知っていた筈だが、それでも王女はそう尋ねてくる。こういうところが逐一丁寧なのは、彼女の美徳の一つか。


「はい、大丈夫です」

「なら良かったです。《青薔薇の女王》の件もありますし、良かったら、(むこう)で少し話をしましょう。アルマさんたちの方は、剛が迎えに行っているので、向こうで合流できますし」

 そんな王女の一声で、しっかりと戸締まりをしてウィルに置き手紙を残し、アドルフの転移で王城へと向かった。


 【天啓】もかなり便利な能力だが、この転移系の能力もあきらかに他の能力とは規格外の利便性がある。

 一瞬見えた転移陣を読んだ感じだと、俺の使う【四次元空間】にも似た、所謂精霊融解を応用したものであることはわかったが、俺の前にいた世界には存在しないものだったし、この世界にはそもそも精霊融解の概念がないので、何故このような能力が存在するのかさえわからない。


 俺の専門ではないが、この転移の仕組みを知ることが、ダンジョンの入り口である門にまつわる、いくつかの謎を解くきっかけにもなりそうだっが、いかんせんわからないことだらけだな……。


 昔何度か訪れたことのある、王城の客間に着いた俺たちは、急な王女の登場に慌てて片膝をつくアルマとリディアを見つけた。二人が膝をつく中、ゴランだけは立ったままで右手を握り拳にして左胸辺りにあてる。

 ゴランの性格的に、王女相手に礼を欠くことはしないはずなので、王女とは知り合いである可能性が高そうだ。


「頭を上げてください。妹さんにこんなことさせてたら、お兄さんの方に何をされるかわかったものではありません」

 王女がおどけるように小さく苦笑し、アルマたちに頭を上げさせる。


 いや、俺は特に何かをするつもりはないんだが。

 ……止めろ、アドルフ。そんな俺と戦えるみたいな、期待に満ちた圧を送ってこないでくれ。別に、王女に手を出すつもりはない。


「──!」

 ほら、見てみろ。アルマたちが恐がってんじゃねぇか。アルマたちの前に剛が歩み出てこなかったら、このレベルの反応じゃすまなかったぞ。


「ねぇ、お兄ちゃん……今、どういう状況なの?」

 そっと俺の元に駆け寄ってきたアルマが、少し不安そうにそう尋ねてくる。


「以前、王女からの依頼を受けたんだ。その報告だけだから、心配しなくても良いよ」

 なるべく優しい声で言いながらアルマの頭を軽く撫でると、彼女は少しだけ眉間にシワを寄せ、不安げな顔を難しい顔へと変えて手をどけられた。


「先ずは、《青薔薇の女王》の討伐証明をいただけますか?」

「はい」

 自身のバッグに手を入れ、【四次元空間】から討伐証明を取り出す。


「ありがとうございます」

「ところで、王女。《青薔薇の女王》から、買取額の高い謎の薬品がドロップしたのですが、あれはどういった代物なんですか?」

 王女に討伐証明を渡したところで、気になっていたことを聞いてみた。

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