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天啓

 家に戻った後も朝食までにはまだ少し時間があるので、今が好機とばかりにゴランに色々と聞き出すことにする。


 その結果わかったことは、ゴランが何も知らないと言うことだった。

 勿論、何も知らないと言うのは、前世の記憶がないということではなく、今この世界に来ているメンバーについての知識がないと言う意味だ。


 ゴランが言うには、この世界に来るにあたり、アリオンで待っていれば他のメンバーが集まってくるという話を聞いていたらしいが、どういうわけか一向に他のメンバーが集まってくる気配がなかったらしい。

 キャロルも中央に優秀なスカウトがいると言っていたし、その人物が本来アリオンに集まる筈だったメンバーを集めてしまっていた可能性が高いな……。


 中央で有力なギルドといえば《ストルワルツ》くらいしか思い浮かばないが、そのスカウトがギルドに所属しているとも限らない。何処ぞの貴族や王族の類が優秀な人材を抱え込んでいるなんてこともあり得るからな。


 アルマたちには少し悪いが、ゴランだけでも中央に連れて行くのはありかもしれない。彼ならこの世界に来ている他のメンバーを見れば、それが誰なのかわかるだろうし。


「それで、暫くゆっくりできるのか?」

 全員が集まったところで朝食になる。朝食中、酔いを覚ますためか、酒ではなく水を飲む親父が、唐突にそう切り出してきた。


「いつ頃出てくの?」

 親父の言葉に、今度はアルマが俺の方を見てくる。


「今日の昼前には出ていくつもりだったけど、アルマはどうしたい?」

「お兄ちゃんに任せる」

 アルマの言葉に、親父の表情が晴れやかになる。


「そうか!じゃあ──」

「あぁ、昼前には出ていく」

 何か少しイラっときたので、間を置かずにそう告げる。

 俺の言葉を聞いた親父が、信じられないものを見る目で俺を見つめてきていた。


「折角だし、もうちょっとゆっくりしていきなさいな」

「……わかった。荷馬車組合次第だけど、少しゆっくりさせてもらうよ」

 俺の言葉が冗談だとわかっていたであろう、母の落ち着いた言葉に、取り敢えずそう返す。

 アルマたちは荷馬車の護衛を受けたいようだったし、俺も彼女たちのパーティーの動きを見るためにも荷馬車の護衛依頼はなるべく受けておきたかったので、都合も良いだろうしな。


「じゃあ、行こうか」

「お、おう……」

 朝食後は浮き足立つ親父と共に、昔俺が世話をしていた畑へと向かう。

 親父の反応を見る限りだと多少畑を放っておいたのだと容易に推測できるが、まだ昼までには時間もあるし、多少雑草の目立っているであろう畑も、ある程度は見られるようにはできるはずだ。


 俺たちが畑に出向くなか、アルマたちは王都行き、ないしメルゼブルグ行きの荷馬車を探しに、荷馬車組合の方に行っていた。


 親父の様子が明らかにおかしかったし、俺も畑を見ていなかったから何とも言えなかったが、今の畑を目の当たりにして確信した。


「……親父、サボってたろ」

「いや、こいつらなら大丈夫かなって……」

 親父の言葉にため息を吐き、目の前の畑の全貌を見渡す。

 雑草も畑で育てる植物によっては百パーセント害になるわけではないので、親父の言いたいこともわかるが、それにしてもこれは多すぎる。

 ──まぁ、一人で育てるには家の畑は規模が大きすぎるという問題もあるが……。


「親父、少し手間だが、雑草を刈るぞ。カマンアルラも生えてるから、こいつは根ごと引き抜こう。残りの雑草は、刈り取れば良いから」

「やっぱり、そうなるか……」

 ため息混じりにそう言った親父を一睨みし、アルマがハーブを育てていた畑は大丈夫なのかと聞いてみる。


「アルマの畑は大丈夫だ!むしろ、あの畑が今の主な収入源まである」

「は?」

 いや、どんな育て方したんだよ。


「一回見せてもらっても良いか?」

「おう!」

 自信満々な親父と共に、少し離れたアルマの畑へと向かう。


 アルマの畑に着くと、雑草に強いハーブなのにも関わらず、周囲には雑草の姿が全く確認できず、数の増えすぎたハーブは、丁寧に間引きされた跡まであり、完全に成長や採れ高が調整されていることが窺える。


「すげえだろ?」

 親父がしたり顔で胸を張る。


「親父──やりすぎだ……」

 グランドカバーとして使われることもあるこのハーブたちは、本来は雑草よりも強く、状況によってはこれら自体が雑草のようにさえなってしまうので、そもそもここまで世話をする必要はないのだが、親父が満足しているのならこれでいいか。

 こっちの畑は、さっきの畑に比べれば、手入れも行き届いていて見映えも悪くないからな。


「ルシェフさん」

 “女子会”とやらで家に籠っていたレオナが畑の方に顔を出してきた。


「レオナ、向こうは終わったのか?」

「うん、私は。後はオリビア次第、かな?」

「そうか」

 何をしているのかは知らないが、レオナの表情を見る限り、もう暫くはかかりそうだな……。


「ルシェフ、向こうの畑は俺が何とかしておくから、戻っててもいいぞ」

 レオナを見るなり急に真面目な顔になった親父にそう言われ、本人もやる気がありそうだったので、一旦家に戻ることにする。


 何で親父が急にやる気になったのかまではわからないが、動きさえすれば大抵のことは何とかする人だ。今日中にはあの畑も見られるくらいにはなっているだろう。


「良かったの?」

 レオナと二人で一度家の方に戻る。レオナが遠目に親父を見やりながらそう漏らした。


「あぁ、親父もああ言ってたし、本人にやる気があるなら、それでいい」

「……じゃあ、この後って何か用事とかある?」

 家の戸口まで来たところで、慌てたように俺と扉の間に割り込んできたレオナがそう尋ねてきた。


「いや、特にはないけど……?」

「その……昨日来たばっかりで、この村のこともあんまり詳しくないから──」

「なら、少し村を見て回ろうか」

 そう言って、アメリアたちに声をかけようとすると、慌てた様子のレオナに腕を引かれる。


「──出来れば、二人で見て回りたいなって……!」

 中々に嬉しいことを言ってくれたが、明らかに目が泳いでいる。

 どうやら、是が非でも俺を家に入れたくないらしい。


「じゃあ、二人で行こうか。取り敢えず、荷物を取ってこないといけないから……」

「それも私が取ってくるから!」

「お、おう……任せた」

 ここまで頑なな態度をされると、意地でも家の様子を確かめたくなる。

 家には入れはしないだろうが、窓から中の様子とか見れないだろうか?


「間違えても、窓から中の様子を見たりなんてしないでね……」

「わかったよ」

 大人しく待っておくことにしよう。


「はい」

「ありがとう」

 レオナから俺のバッグを受け取り、二人で村へと繰り出す。

 実家は周りが畑に囲まれている関係で、村の集落の外れにあるので、集落までは少し歩く必要があった。


「お兄ちゃん」

 集落へと向かっていると、集落から戻ってくる三人の姿が目に入る。


「どうだった?」

「馬車を借りるなら二日後で、護衛依頼を受けるなら三日後かな」

「そうか」

 この様子だと、出発は三日後になりそうだな。


「お兄ちゃんたちは、どうかしたの?」

「少し集落を見てこようと思ってな」

 レオナも家に入れてくれないし。


「……私たちもついていって良い?」

 レオナと何らかの意思疏通をした様子のアルマは、少し考えた後そう尋ねてきた。


◇ ◇ ◇


 実家に帰省してから四日が経ち、護衛依頼を出していた商隊が無事に到着したことを昨日確認した俺たちは、朝一で家を出た。


 結局、最後まで両親は俺の家出のことは深く追求してはこなかった。もしかしたら、触らぬ神に祟りなしとまではいかなくても、少し気を使わせてしまったのかもしれないな……。


 今回は護衛の定員の関係で、依頼を受けたのはアルマたちだけだ。勿論、何かあれば俺たちも動くが、一先ずは高みの見物とさせてもらおう。

 個人的にゴランの動きも見ておきたいからな。


 ここ一週間以内で森で再び例の魔物と似た魔物が出たためか、今回は森を迂回しながら、三日かけてメルゼブルグを目指すようだ。


 魔物の影響で盗賊や追い剥ぎの姿も見られていないようなので、戦闘になる機会はあまりないだろう。

 それでも、俺たちの通る草原辺りは稀に森から逃げてきたらしい魔物と遭遇することがあった。


 商隊は問題なく草原を進み、夕方頃には夜営の準備を始める。戦闘自体は数回あったが、どれも事前に他の護衛の索敵やリディアの【天啓】で予見できていたため、危なげなく終えていた。

 今回は馬車の配置の問題で、アルマたちの戦闘を見ることは出来なかったが、ダンジョン攻略においての【天啓】の価値を何となく知ることができた。


 アルマたちが話すには、隠された部屋の場所や門の位置、何なら宝箱の場所さえも大体わかるみたいだし、ダンジョン攻略においては地図を持ち込めているようなものらしい。


 実家を発ってから三日が経ち、そろそろメルゼブルグに着くというところで、とうとう待ちに待った機会が訪れる。


 俺たちの商隊は今、十数匹の魔物の群れに狙われていた。まだ少し離れた位置にいるが、この様子だと魔物の群れが追いついてくるのは時間の問題か。


 魔物は、オークやゴブリン、トロルで構成されており、森から追い出されてきた者たちであることがうかがえる。

 喜んでいい事態ではないだろうが、これならアルマたちの動きを見ることができるだろう。

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