七機、再集結
第二章 失われた文明編
第90話 七機、再集結
前書き
帰ってくる者がいる。
待っている者がいる。
その二つが揃って、
初めて「帰還」になります。
兵器には、
必要のない言葉でした。
けれど。
七機の鋼鉄は、
もうただの兵器ではありませんでした。
⸻
巨人の内部。
壁が震えていた。
外から響く爆発音が、一つ。
また一つ。
近付いてくる。
ノアは顔を上げた。
【外部衝撃】
【距離:縮小】
来る。
六機が。
自分のために。
その事実を処理しようとして。
ノアは途中でやめた。
今は。
分析しなくていい。
「……来る。」
ダニエルが笑った。
「嬉しいか?」
ノアは少し考える。
「不明。」
「そうか。」
一拍。
「じゃあ、その胸の光がいつもより強いのは何だ?」
ノアは自分の胸部を見る。
確かに。
コアの青い光が、いつもより強く脈打っていた。
【出力異常:なし】
【理由:不明】
「……故障ではない。」
「ならいい。」
ダニエルは静かに目を閉じた。
「大事にしろ。」
「そういう分からないものを。」
⸻
その瞬間だった。
ドォォォォン!!
巨人内部の外殻が、大きく内側へ歪んだ。
黒い結晶が砕け散る。
穴。
外の光。
その向こうから。
「いたぞ!」
E-03の声。
青い残光。
高速機が真っ先に飛び込んできた。
着地。
刃を振るい、周囲の触手を切り払う。
「七番!」
ノアを見る。
「……生きてるな。」
「生存中。」
「見れば分かる!」
その直後。
別方向から砲撃。
黒い触手がまとめて消し飛ぶ。
E-06。
「侵入口確保。」
さらに。
E-02。
E-04。
E-05。
次々と内部へ。
最後に。
重い足音。
一歩。
また一歩。
壊れかけた盾。
傷だらけの装甲。
E-01が現れた。
⸻
ノアとE-01。
二機は。
数秒。
ただ互いを見ていた。
E-01の視界。
【E-07】
【損傷率:34%】
【稼働:正常】
【生存確認】
ノアの視界。
【E-01】
【損傷率:68%】
【盾耐久:12%】
【戦闘継続:危険】
「E-01。」
ノアが呼ぶ。
隊長は。
静かに答えた。
「……遅い。」
ノアの処理が。
一瞬止まる。
「?」
「帰還予定時間を超過した。」
「予定時間?」
「設定していない。」
E-03が。
横から吹き出した。
「隊長!」
「それただの文句だろ!」
「違う。」
「帰還遅延に対する戦術的指摘だ。」
「それを文句って言うんだよ!」
E-06。
「同意。」
「お前まで!?」
ノアは。
E-01を見ていた。
遅い。
その言葉。
怒っている。
でも。
違う。
待っていた。
【推定感情】
【心配】
ノアは。
ゆっくり。
言った。
「……ただいま。」
全機。
停止。
⸻
E-03。
「……は?」
E-02の照準器が僅かに下がる。
E-05の処理が一瞬だけ停止する。
E-01は。
ノアを見たまま。
何も答えない。
「何だそれ。」
E-03が聞く。
「帰った時に」
ノアは答える。
「言う言葉。」
「誰に?」
「待っていた人。」
一瞬。
静寂。
ダニエルが。
小さく笑った。
「なら。」
E-03。
「返す言葉もあるんだろ。」
「ある。」
「何だ?」
「おかえり。」
E-03は。
少し黙る。
「……そうか。」
そして。
ノアへ背を向けながら。
小さく言った。
「おかえり。」
ノアの胸部。
光。
強くなる。
「……ただいま。」
E-06。
「おかえり。」
E-04。
「おかえり。」
E-05。
一拍。
「……おかえり。」
E-02。
「帰還確認。」
E-03が振り向く。
「お前だけ何でそうなるんだよ!」
「語彙未登録。」
「今登録しろ!」
E-02。
「登録。」
一拍。
「おかえり。」
最後。
E-01。
隊長機。
全員が。
見る。
「……」
E-01は。
数秒。
動かなかった。
そして。
「帰還を確認。」
E-03。
「あぁぁもう!」
「隊長!」
「何だ。」
「そこは!」
「おかえり!」
「必要性不明。」
ノアは。
ほんの少し。
E-01を見る。
「……言ってほしい。」
E-01。
停止。
完全に。
数秒。
E-03が。
笑いをこらえている。
E-06は無言。
E-05はなぜか解析を始めた。
【E-01処理遅延】
【通常比:437%】
「解析するな。」
E-01が即座に言った。
E-05。
「了解。」
そして。
隊長は。
ノアを見る。
「……おかえり。」
小さかった。
本当に。
聞き逃すほど。
だが。
ノアには。
はっきり聞こえた。
「ただいま。」
⸻
ダニエルは。
その光景を見ながら。
目を閉じた。
「……ユリア。」
「見てるか。」
「七機とも。」
「ちゃんと変わったぞ。」
⸻
だが。
穏やかな時間は。
ほんの数秒しか続かなかった。
巨人内部が。
大きく震える。
ドクン。
赤い中枢核。
強く発光。
【第一門開放率】
【83%】
【87%】
【91%】
E-05が叫ぶ。
「急上昇!」
「何が起きた!?」
ノアが。
アベルとの接触を思い出す。
「アベル。」
「誰だ?」
E-03。
「向こう側。」
ノア。
「門の向こうにいる。」
ダニエルが。
顔を上げる。
「名前を聞いたのか?」
「アベル。」
男の顔色が変わる。
「……まさか。」
「知っている?」
「名前だけ。」
ダニエルは苦しそうに言う。
「第一門計画で。」
「最初に観測された存在。」
「こちらから話しかけたんじゃない。」
「向こうから」
「我々へ声をかけてきた。」
⸻
四十年前。
門。
暗闇。
声。
『こんにちは。』
たった一言。
人類は。
歓喜した。
異世界知性体。
意思疎通可能。
歴史的発見。
だが。
ダニエルは。
震えていた。
「我々は」
「勘違いした。」
「何を?」
「会話できるから。」
「同じように考える存在だと。」
一拍。
「違った。」
「アベルにとって。」
「我々は。」
「人間も。」
「機械も。」
「都市も。」
「情報も。」
黒い結晶。
「全部。」
「同じだった。」
「何が?」
ダニエルは。
静かに言った。
「材料。」
⸻
E-03の表情が。
変わる。
「……材料?」
「奴は」
「壊しているんじゃない。」
「組み替えている。」
ノア。
「侵食。」
「そうだ。」
「人間を。」
「機械を。」
「建物を。」
「一つにして。」
「向こう側の法則へ」
「作り直している。」
E-05が。
即座に情報と照合。
「整合率……高。」
ダニエル。
「侵食体が混ざっているのはそのせいだ。」
「人間。」
「機械。」
「動物。」
「記憶。」
「全部が。」
「境界を失う。」
⸻
E-04が問う。
「停止方法。」
ダニエルが。
赤い核を見る。
「第一門中枢を切断。」
「それで閉じる?」
「一時的には。」
「一時的?」
E-05。
「門そのものは。」
「すでに別世界座標を取得している。」
ノアが。
村の映像を思い出す。
「自分の世界。」
ダニエル。
「何?」
「アベルが」
「もう見つけたと言った。」
全機。
沈黙。
E-01。
「対象世界。」
「ノアが現在滞在する世界?」
「そう。」
「なら。」
E-01は。
即座に決めた。
「閉鎖する。」
ノアを見る。
「方法。」
ダニエル。
「中枢を切る。」
ノア。
「あなたが死ぬ。」
六機。
ダニエルを見る。
E-03。
「……そうなのか。」
「俺が今。」
「中枢の一部になっている。」
「切断すれば。」
「たぶん終わる。」
ノア。
「別の方法を探す。」
「時間が――」
「探す。」
E-05が。
すぐに言った。
「同意。」
ダニエルが驚く。
「何?」
「未知構造解析開始。」
E-04。
「補助する。」
E-06。
「物理構造確認。」
E-02。
「周囲防衛。」
E-03が。
刃を構える。
「俺もそっち。」
E-01。
「全機。」
一拍。
「ダニエル・クロウ救出。」
ダニエル。
「……待て。」
E-01。
「同時に第一門を閉鎖する。」
「無茶だ!」
「認識している。」
E-03。
「俺たち最近。」
「無茶しかしてないだろ。」
E-06。
「同意。」
ダニエルは。
七機を見る。
そして。
ノアを見る。
「お前……。」
涙。
「何をしたんだ。」
ノア。
「?」
「こいつら。」
ダニエルは。
笑った。
「完全に。」
「お前に似てきてるじゃないか。」
⸻
ノアは六機を見る。
E-01。
E-02。
E-03。
E-04。
E-05。
E-06。
兵器。
同型。
仲間。
ノアは。
少しだけ。
「……良いと思う。」
E-03。
「だろ?」
E-01。
「任務を開始する。」
「照れた。」
「違う。」
「絶対照れた!」
「E-03。」
「何だ。」
「戦闘行動へ移行。」
「はいはい隊長。」
⸻
その時。
アベルの声。
七機全員へ。
初めて。
同時に。
『興味深い。』
全機。
停止。
「聞こえた?」
E-03。
「聞こえた。」
E-05。
『七つ。』
『同じ器。』
『異なる選択。』
黒い壁。
無数の眼。
一斉に開く。
『なら。』
『試そう。』
『どこまで。』
『互いを選べるのか。』
巨人内部が。
変形し始めた。
壁が割れる。
床が隆起。
黒い結晶。
人型へ。
一体。
二体。
十体。
その姿。
Eシリーズに似ている。
【敵性個体】
【模倣構造】
【Eシリーズ戦闘データ使用】
E-02が。
静かに武器を構える。
「こちらを模倣。」
E-03。
「最悪。」
E-06。
「だが。」
「?」
「本物は。」
重砲を構える。
「こちら。」
E-03。
一瞬。
「……お前。」
「今のカッコいいな。」
「意味不明。」
「褒めたんだよ!」
⸻
E-01が前へ出る。
壊れかけた盾。
それでも。
七機の前へ。
「隊形。」
「デルタ。」
七機。
同時に動く。
だが。
以前とは。
少し違う。
命令通りに。
ではない。
互いが。
互いを見る。
E-02が射線を作れば。
E-03が理解する。
E-06が前へ出れば。
E-01が隙を埋める。
E-04が通信。
E-05が解析。
そして。
ノアが。
真ん中。
誰も言わない。
だが。
分かる。
七機は。
もう。
一つの部隊だった。
⸻
アベルが。
笑う。
『いい。』
『実に。』
『いい。』
『だから。』
第一門。
【開放率】
【94%】
『全部。』
『欲しくなった。』
ノアが。
構える。
「拒否。」
E-03。
「俺も。」
E-06。
「同意。」
E-05。
「拒否。」
E-04。
「同じく。」
E-02。
「却下。」
最後。
E-01。
「Eシリーズ。」
一拍。
「全機。」
七つの瞳。
青。
「帰還する。」
「誰一人。」
「残さない。」
ノアの胸部で。
紙飛行機が。
小さく。
揺れた。
⸻
そして。
七機は。
同時に。
走り出した。
倒すためではない。
閉じるため。
救うため。
そして。
帰るために。
⸻
後書き
今回は、ついにEシリーズ七機が再集結しました。
特に重要なのは、再会直後の、
「遅い。」
そして、
「ただいま。」
「おかえり。」
です。
以前なら、Eシリーズにとって帰還とは単なる任務終了でした。
しかし今は違います。
待っている仲間がいる。
だから「帰る」という言葉に意味が生まれています。
また、侵食災害の性質もさらに判明しました。
アベルは人間や機械を単純に殺しているのではなく、すべてを“材料”として境界ごと組み替えている可能性があります。
そのため侵食体には、
人間。
機械。
動物。
記憶。
さまざまなものが混ざっている。
そして今回、七機はダニエルを犠牲にする最短手段を拒否しました。
第一門を閉じる。
ダニエルも助ける。
その両方を選びます。
次回、第91話――
「偽物と本物」
アベルが生み出した、Eシリーズの戦闘能力を完全模倣する七体の侵食機構体。
E-01にはE-01。
E-02にはE-02。
そしてノアには――
感情を持たなかった頃のE-07。
つまりノアは次回、
「もしユリアと出会わなかった自分」
と戦うことになります。




