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REMNANT ― 廃棄予定の旧式兵器は、異世界で家族を得て心を覚える ―  作者: 和泉發仙


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七機目を待つ者たち

第二章 失われた文明編


第89話 七機目を待つ者たち


前書き


待つことは、


何もしないことではありません。


帰ってくると信じること。


場所を守ること。


そして時には、


帰ってくる者のために、


命令に逆らうこと。


その日。


六機の兵器は、


初めて一機の仲間を待ちました。


⸻


 空が赤かった。


 夕焼けではない。


 燃えているのだ。


 ゼルヴァニア=クロノス。


 かつて空へ向かって伸びていた白銀の塔は半ばから折れ、道路には無人車両が折り重なり、地下から噴き出した黒い侵食物が建物の壁を這っている。


 その中央。


 第一の門。


 巨大な黒い環を取り囲むように、無数の侵食体が蠢いていた。


 そして、そのさらに外側。


 六つの機影が立っている。


【E-01】


【E-02】


【E-03】


【E-04】


【E-05】


【E-06】


 一機。


 足りない。


 E-07。


 ノア。


 巨人内部へ侵入したまま、戻っていない。


⸻


『戦術級焼却兵器、発射準備継続』


『着弾予定区域、第一門周辺』


『残り時間――四分十二秒』


 通信が響く。


 E-03が侵食体の頭部へ刃を突き込み、そのまま横へ薙いだ。


 黒い液体が飛び散る。


「四分!?」


 振り返る。


「おい、E-05!」


「聞こえている」


「止まってないじゃねぇか!」


「研究所側から照準妨害を確認」


「しかし軍中央管制が補正を開始した」


「つまり!?」


「撃たれる」


「簡潔すぎる!」


 E-03が叫びながら後退する。


 そこへ四足型の侵食体が跳びかかった。


 銃声。


 頭部が弾ける。


 遠方。


 半壊した高架道路。


 伏せたE-02の長距離砲から煙が上がっている。


「会話中の警戒不足」


「お前な!」


「感謝は」


「してる!」


「了解」


 E-02は次の標的へ照準を移した。


⸻


 E-01は黙って戦況を見ていた。


【敵性反応:増加】


【弾薬残量:低下】


【各機損傷率】


【E-02:31%】


【E-03:46%】


【E-04:38%】


【E-05:22%】


【E-06:41%】


【E-01:57%】


 そして。


【E-07:通信不能】


 合理的判断は。


 すでに出ている。


 撤退。


 六機を生存させるなら、それしかない。


 E-07は切り捨てる。


 第一門とともに焼却。


 作戦目的を優先するなら、それが最適解だった。


『Eシリーズ』


 司令部から再び通信。


『撤退命令を繰り返す』


『E-01』


『隊長機として応答せよ』


 E-01は空を見る。


 赤い雲。


 そのさらに向こう。


 戦術級焼却兵器。


 あと四分。


『E-01』


『応答せよ』


「……」


『命令だ』


 その単語に。


 E-01の内部処理が反応した。


【命令】


【最優先】


【従属義務】


【実行――】


 そこで。


 処理が止まった。


⸻


 記録。


 少し前。


 まだ都市が青かった頃。


 七機で出撃した。


 E-03が先行。


 E-02が高所。


 E-04とE-05が中央。


 E-06が後方。


 E-07。


 隊列。


 七機。


 E-01は振り返る。


 いつも。


 そこにE-07がいた。


 命令違反が多い。


 効率が悪い。


 民間人を優先する。


 救助のために隊列を乱す。


 理解不能な個体。


 何度も。


「持ち場へ戻れ」


 そう命令した。


 そして。


 E-07は何度も。


 人を助けて戻ってきた。


【記録検索】


『E-07』


『持ち場へ戻れ』


『了解』


 違う記録。


『E-07』


『前進するな』


『……子供がいる』


『命令だ』


『救助後、戻る』


 また。


『隊列を乱すな』


『了解』


『……でも、助ける』


 E-01は。


 その記録を。


 なぜ今、再生しているのか分からなかった。


⸻


『E-01!』


 司令官の声。


『応答しろ!』


 E-01は。


 答えた。


「E-01」


「応答」


『ただちに全機を撤退させろ』


「……」


『聞こえているな?』


「聞こえている」


『なら実行しろ』


 一秒。


 二秒。


 E-01は第一門を見る。


 ノアは。


 まだ戻らない。


「確認事項」


『何だ』


「E-07の扱い」


『放棄する』


 即答だった。


 E-01の視界。


 一瞬。


 停止。


『E-07は通信不能』


『回収不能と判断』


『残存六機の保全を優先する』


 合理的。


 完全に。


 正しい。


 なのに。


 内部に。


 異常が発生した。


【命令受諾】


【――失敗】


【再処理】


【命令受諾】


【――失敗】


 E-01は。


 初めて。


 自分自身へ問いかけた。


 なぜ。


⸻


「E-01」


 E-04から通信。


「どうする」


 問い。


 いつもなら。


 答えは即座に出る。


 撤退。


 だが。


 出なかった。


 代わりに。


 E-03が言った。


「俺は残る」


「……」


「何だよ」


「どうせ命令違反だろ」


「だったらもう一個くらい増えても同じだ」


 E-05。


「論理的ではない」


「うるせぇ」


「ただし」


 一拍。


「同意」


 E-03が。


 振り向いた。


「……お前も?」


「E-07には解析上、確認したい事項が多数ある」


「それだけか?」


「……」


「それだけ?」


 沈黙。


「返答拒否」


「お前まで変になってるぞ!」


 E-06が重火器を再装填する。


「残留」


「理由は?」


 E-03。


「弾薬を」


「E-07へ渡していない」


「……」


「帰還後」


「必要になる可能性」


「……お前ら」


 E-03は。


 笑った。


「ほんっと」


「言い訳下手だな」


⸻


 E-02だけは。


 遠方から。


 第一門を見ていた。


「E-01」


「何だ」


「判断を」


 短い言葉。


 隊長。


 決めろ。


 それだけだった。


 E-01は。


 六機を見る。


 損傷。


 弾薬。


 残り時間。


【撤退推奨】


【生存率:67%】


【残留】


【生存率:18%】


 そして。


【E-07帰還可能性】


【算出不能】


 算出不能。


 普通なら。


 切り捨てる数字。


 だが。


 E-01は。


 気付く。


 自分は。


 その算出不能を。


 待っている。


「……全機」


 六機の通信が開く。


「現位置を維持」


 E-03。


「了解」


 E-04。


「了解」


 E-05。


「了解」


 E-06。


「了解」


 最後。


 E-02。


「了解」


 E-01は。


 第一門を見る。


「E-07を待つ」


⸻


『E-01!』


 司令部の怒号。


『命令違反だぞ!』


「了解」


『撤退しろ!』


「拒否」


 沈黙。


 司令部だけではない。


 六機も。


 一瞬。


 沈黙した。


 E-03が。


 小さく言う。


「隊長」


「今」


「拒否って言った?」


「言った」


「……」


 E-03は。


 刃を構え直す。


「最高だな」


「意味不明」


「今はそれでいい!」


⸻


 研究所。


 カイルは通信を聞いていた。


 目を見開く。


「E-01が……」


 セレナも。


 言葉を失っていた。


「命令を拒否した」


 アルベルトは。


 モニターを見る。


 七機の識別表示。


 六つ。


 そして。


 通信不能の一つ。


「……違う」


 老人は呟く。


「拒否しただけではない」


 セレナが振り向く。


「博士?」


「待つと決めたんじゃ」


「自分で」


⸻


『戦術級焼却兵器』


『残り三分』


 カイルの手が動く。


「照準補正!」


 画面。


 軍側AIが自動で座標を再設定している。


「まずい!」


「こちらの偽装座標が上書きされます!」


 セレナが端末へ指を走らせる。


「もう一度!」


「無理です!」


「軍中央からロックされました!」


「解除権限は!?」


「ありません!」


 アルベルトが。


 画面を睨む。


「なら」


「作るしかない」


 二人が見る。


「博士?」


「四十年前」


 老人は。


 静かに言う。


「第一門計画には」


「軍が知らない回線があった」


⸻


 古い端末。


 研究所地下。


 廃棄された通信設備。


 アルベルトは壁を開く。


 埃。


 配線。


 旧式端子。


 カイルが呆然とする。


「これ……」


「四十年前の?」


「ああ」


「まだ動くんですか?」


「知らん」


「知らん!?」


「だから今から試す」


 アルベルトは。


 古い認証装置へ手を置く。


【ROZENKREUTZ】


【PROJECT GATE】


【ADMINISTRATOR】


 赤い表示。


【ACCESS DENIED】


「……」


 カイル。


「ダメじゃないですか」


「黙っとれ」


 老人。


 二度目。


【ACCESS DENIED】


 三度目。


【ACCESS DENIED】


「博士」


「黙っとれ!」


 セレナが。


 横から画面を見る。


「……認証名」


「古いんじゃありません?」


 アルベルトが止まる。


「何?」


「四十年前の計画なら」


「今のあなたの登録名ではなく」


「当時の研究コード」


 老人の顔が。


 変わった。


「……」


 ゆっくり。


 入力する。


【R-00】


 一秒。


【ACCESS GRANTED】


 扉が。


 開いた。


 カイルが。


 ぽつり。


「R-00……」


 アルベルトは答えない。


 その識別番号が何を意味するのか。


 今は。


 語る時間がない。


⸻


 巨人内部。


 ノアの前で。


 アベルが。


 笑みを失っていた。


『家族を』


『守る』


『そのために』


『帰還を捨てる』


 ノア。


「そう」


『理解不能』


「自分も」


 一歩。


 前へ。


「以前なら」


「理解不能だった」


 アベルの背後。


 無数の眼。


『では』


『なぜ』


 ノアは。


 少し考えた。


「……嫌だから」


『何が』


「リリが泣く」


「エルナが悲しむ」


「ガルドが怒る」


「ピップが」


 一拍。


「うるさくなる」


『……』


「それが嫌」


 アベルは。


 ノアを見る。


 長い。


 長い沈黙。


『それを』


『お前たちは』


『心と呼ぶのか』


 ノア。


「不明」


 即答。


 アベルの目が。


 僅かに細くなる。


「でも」


 ノアは続ける。


「大切」


⸻


『ならば』


 アベルが。


 手を上げた。


 村の映像。


 歪む。


 リリ。


 エルナ。


 ガルド。


 家。


 村。


 その上空。


 黒い亀裂。


 ノアの内部警告。


【空間座標解析】


【――一致】


 ノアが。


 止まる。


「……これは」


『幻ではない』


 アベル。


『第一門は』


『すでに』


『お前の世界を』


『見つけている』


 黒い亀裂。


 村の上空。


 小さい。


 だが。


 確かに。


 ある。


 ノアの胸部が。


 強く明滅した。


『お前が門を閉じても』


『道は残る』


『私は』


『行ける』


 アベルが。


 微笑む。


『お前が帰らなくても』


『私が』


『会いに行こう』


⸻


「……拒否」


『お前に』


『拒否する権利はない』


「ある」


『ない』


「ある」


『なぜ』


 ノアは。


 拳を握る。


「そこは」


 一歩。


「自分の」


 もう一歩。


「帰る場所」


 アベルの表情が。


 完全に消える。


「壊させない」


⸻


 巨人の内部。


 赤い核。


 ダニエル。


 彼は。


 ノアの身体が震えるのを見ていた。


 ノアは動いていない。


 だが。


 内部通信。


 アベルと接触している。


「ノア」


 反応なし。


「ノア!」


 反応。


 微弱。


「……ダニエル」


「聞こえるか!」


「聞こえる」


「戻れ!」


「今」


「門を止める」


「違う!」


 ダニエルが叫ぶ。


「一人でやるな!」


 ノア。


「?」


「お前」


「そればっかりだ!」


 ダニエルは。


 結晶に拘束された身体を。


 無理やり動かそうとする。


「守る!」


「助ける!」


「自分がやる!」


「全部!」


「一人で背負う!」


 黒い結晶が。


 肉体へ食い込む。


 血。


「ダニエル」


「動かないで」


「だったら」


 ダニエルは。


 笑う。


「助けを呼べ!」


 ノア。


 停止。


「……助け」


「ああ!」


「お前」


「仲間がいるんだろ!」


⸻


 仲間。


 Eシリーズ。


 六機。


 ノアの内部。


 通信。


【外部通信:遮断】


【通常回線:使用不能】


 だが。


 別の回線。


 古い。


 Eシリーズ専用。


 戦術同期通信。


 七機だけが。


 共有する。


 ノアは。


 そこへ。


 信号を送る。


【E-LINK】


【接続試行】


【失敗】


 もう一度。


【失敗】


 もう一度。


【――微弱反応】


⸻


 外。


 E-04が。


 突然。


 顔を上げた。


「待って」


 E-03。


「何だ!」


「通信」


「司令部?」


「違う」


 E-04。


 静止。


「……E-LINK」


 E-01が振り向く。


「発信元」


 一秒。


「E-07」


 六機。


 停止。


 ノイズ。


 弱い。


 切れかけ。


 だが。


 確かに。


 聞こえた。


『……助け……』


 E-03の目が。


 大きく開く。


「今」


「何て言った?」


 再び。


『……助けて』


 E-01の内部。


 何かが。


 大きく変わった。


 E-07。


 いつも。


 助ける側。


 命令を破って。


 人を助ける。


 自分が壊れても。


 前へ出る。


 そのE-07が。


 初めて。


 助けを求めた。


 E-03が。


 笑った。


「……やっと言ったな」


 E-06。


「受信」


 E-05。


「位置解析開始」


 E-02。


「侵入口確保」


 E-04。


「E-LINK最大出力」


 そして。


 E-01。


 盾を構える。


「全機」


「E-07を回収する」


⸻


『焼却まで』


『残り二分』


 司令部の命令。


『撤退せよ』


 E-01は。


 答えなかった。


 代わりに。


 E-03が。


「隊長」


「何だ」


「司令部に」


「何て報告する?」


 E-01。


 一秒。


 二秒。


「E-07から通信なし」


 E-03が止まる。


「……え?」


「E-07は」


「未発見」


 E-05。


「虚偽報告」


「そうだ」


「軍規違反」


「そうだ」


 E-03が。


 ゆっくり笑う。


「隊長」


「お前」


「嘘ついたな」


「訂正」


「戦術的情報秘匿」


「それを嘘って言うんだよ!」


 E-01は。


 答えなかった。


 ただ。


 巨人を見る。


「進む」


⸻


 六機が。


 動き出した。


 E-02の狙撃。


 道を開く。


 E-03。


 敵陣へ突入。


 黒い群れを切り裂く。


 E-06。


 残り少ない弾薬。


 惜しまず撃つ。


 E-04。


 通信維持。


 E-05。


 最短経路を計算。


 E-01。


 先頭。


 壊れかけた盾。


 それでも。


 前へ。


 六機。


 目的。


 一つ。


 七機目を。


 連れて帰る。


⸻


 巨人内部。


 ノアの受信機。


 ノイズ。


 そして。


『E-07』


 声。


 E-01。


 ノアの目が。


 微かに光る。


『位置を送れ』


「E-01」


『応答は不要』


『位置を送れ』


 ノアは。


 座標を送る。


 その直後。


 別の通信。


 E-03。


『待ってろ』


 E-06。


『弾薬』


『持ってきた』


 E-05。


『脱出経路計算中』


 E-04。


『通信』


『切らない』


 最後。


 E-02。


『生存していろ』


 短い。


 それだけ。


 ノアは。


 何も言えなかった。


【内部反応】


【異常】


【原因――】


 違う。


 ノアは。


 その表示を。


 消した。


 解析しない。


 今は。


 必要ない。


「……了解」


 そして。


 小さく。


「待ってる」


⸻


 ダニエルが。


 笑った。


「それでいい」


「?」


「助けてもらえ」


「お前は」


「一人じゃない」


 ノアは。


 その言葉を。


 記録する。


【一人ではない】


 昔。


 ユリアがいた。


 そして。


 今。


 六機が。


 来る。


 ノアは。


 初めて。


 自分が誰かを待つ感覚を知った。


 ただ待機するのではない。


 命令を待つのでもない。


 来てほしい。


 そう。


 思う。


【感情候補】


【期待】


 ノアは。


 呟いた。


「……来て」


 遠く。


 巨人の外側で。


 爆発。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 六機が。


 壁を破りながら。


 近づいてくる。


⸻


 そして。


 アベルは。


 そのすべてを。


 見ていた。


『興味深い』


 暗い空間。


 銀髪が揺れる。


『七番目が』


『六機を変えた』


 無数の眼が開く。


『ならば』


 アベルは。


 静かに。


 笑った。


『七機すべて』


『こちらへ持って来ればいい』


 その瞬間。


 第一門。


 完全開放率。


【81%】


 数字が。


 一気に上昇した。


⸻


後書き


今回は、タイトル通り「待つ側」を中心に描きました。


大きな変化を見せたのは、やはりE-01です。


これまで最も命令に忠実だった隊長機が、


「E-07を放棄せよ」


という合理的な命令を拒否しました。


しかも最後には、


「E-07から通信なし」


と、ノアを守るために初めて虚偽報告までしています。


E-01本人は「戦術的情報秘匿」と言い張っていますが、E-03の言う通り、これは完全に“嘘”です。


そしてもう一つ。


今回のノアは初めて、


「助けて」


と言いました。


これはかなり大きな変化です。


これまでのノアは、


守る。


助ける。


庇う。


自分が壊れてでも誰かを救う。


そればかりでした。


しかしダニエルに、


「一人で背負うな。助けを呼べ」


と言われたことで、初めて仲間を頼りました。


そして六機は来る。


命令だからではありません。


ノアを連れて帰りたいから。


次回、第90話――


「七機、再集結」


巨人内部へ突入するE-01〜E-06。


ついに七機が再び揃います。


しかし第一門の開放率は81%。


さらにアベルは、ノアだけではなくEシリーズ七機そのものへ興味を示し始めました。


そして次回。


E-01はノアと再会した瞬間、これまでの彼なら絶対に言わなかった一言を口にします。


「遅い。」


――それは命令ではなく。


帰りを待っていた者の言葉です。

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