回廊
前書き
歴史は、
本の中だけに残るものではありません。
壁にも。
床にも。
壊れた機械にも。
歩いた者の記憶は残ります。
そして。
誰も歩かなくなった場所ほど、
真実は静かに眠っています。
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第一の門は、完全に開いた。
黒い環はゆっくりと回転を続け、その中心には、光も闇もない奇妙な空間が広がっている。
そこには色がなかった。
ただ、空間だけが存在していた。
風も吹かない。
音もない。
時間すら止まっているようだった。
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第二章 失われた文明編
第81話 回廊
E-01の通信が入る。
ノイズ混じりだった。
「……七番目。」
「聞こえるか。」
ノアは即座に応答する。
「受信。」
「隊長。」
「こちらは保持を継続中。」
背後では今もE-01が都市を守り続けている。
黒き巨腕はなおも押し続け、盾は限界を超えていた。
それでも隊長は立っている。
「こちらは任せろ。」
「門を閉じろ。」
短い言葉だった。
だが、それだけで十分だった。
「……了解。」
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E-03が大きく息を吐く。
「行くしかねぇな。」
E-02はライフルを構え直す。
「未知空間。」
「センサー不良の可能性あり。」
E-05は高速で解析を続ける。
「内部観測不能。」
「通信遅延も予測されます。」
E-06が重砲を肩へ担ぐ。
「弾薬、七割。」
「十分戦える。」
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ノアは門の前へ立った。
胸部収納の紙飛行機が、淡く青白く輝いている。
ユリア。
自分は帰る。
そう約束した。
だから。
必ず帰る。
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一歩。
門を越える。
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世界が反転した。
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足元が消える。
空が下になる。
床が空になる。
重力そのものが一瞬だけ意味を失った。
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ピシッ。
ガラスが割れるような音。
次の瞬間。
ノアは静かな床へ着地していた。
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そこは。
巨大な通路だった。
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左右の壁は見えないほど遠い。
天井も見えない。
一本の道だけが、どこまでも続いている。
床には白い金属。
壁には青白い結晶。
一定間隔で古い照明が点灯していた。
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しかし。
誰もいない。
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「……静かだ。」
E-03が呟く。
その声だけが長く反響する。
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E-05が驚いた声を上げた。
「待って。」
「この構造。」
「都市じゃありません。」
「一つの建造物です。」
全員が振り返る。
「何?」
「つまり。」
「今いる場所全部で、一つの施設。」
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ノアは壁へ手を触れた。
冷たい。
しかし。
どこか懐かしい。
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【材質照合】
【一致率 九一%】
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ノアの視界へ文字が浮かぶ。
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《中央転送回廊》
《第一管理層》
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「……読める。」
E-02が聞き返す。
「何て書いてある。」
「中央転送回廊。」
E-05が青ざめる。
「転送?」
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エドガー博士が司令室で震えた。
「やはり……。」
「まだ残っておったか。」
セレナが振り返る。
「博士。」
「転送回廊とは?」
老人は苦しそうに答えた。
「異世界転移装置じゃ。」
部屋が静まり返る。
「都市一つが。」
「巨大な転送装置だったのじゃ。」
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誰も言葉を失う。
ゼルヴァニア=クロノス。
人類最高の都市。
その正体は。
異世界を繋ぐための巨大施設だった。
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E-03が苦笑した。
「……スケールでかすぎだろ。」
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歩き始める。
静かな回廊。
誰もいない。
しかし。
途中から様子が変わった。
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床に。
白衣が落ちている。
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その先には端末。
割れた眼鏡。
散乱した資料。
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さらに進む。
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人がいた。
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研究員だった。
壁にもたれたまま座っている。
白衣は残っている。
身体もある。
だが。
黒い結晶になっていた。
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石像のように。
最後の姿勢のまま。
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誰も喋らない。
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E-06が静かに近寄る。
しゃがむ。
「……逃げなかったのか。」
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ノアはその手元を見る。
黒く結晶化した手。
最後まで。
何かを守るように端末を抱えていた。
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【対象】
【研究員】
【生体反応 なし】
【推定死亡 四十年前】
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E-05が端末を拾い上げる。
まだ電源が入る。
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画面が点灯した。
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《避難命令》
《第一門閉鎖失敗》
《一般市民を優先》
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さらにスクロールする。
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《Eシリーズ起動承認》
《時間を稼げ》
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E-03が目を閉じる。
「……最後まで戦ったんだな。」
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ノアは壁を見る。
そこには。
幼い文字で何かが書かれていた。
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《おとうさん》
《かえってきて》
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小さな手で書いた文字。
子どもの落書き。
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ノアの胸部コアが微かに震える。
リリ。
ユリア。
約束。
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家族。
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その時だった。
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回廊全体へ警報が鳴り響く。
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《侵入者確認》
《防衛機構起動》
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静かだった通路が一変する。
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壁が開く。
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左右。
天井。
床。
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無数の格納庫が姿を現した。
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そこには。
数百体。
いや。
数千体の人型機構兵が眠っていた。
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ゆっくり。
一体。
また一体。
赤い単眼が灯る。
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ノアの内部警告が最大音量で鳴り響く。
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【警告】
【旧文明防衛兵器】
【識別開始】
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一体目。
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《G-101》
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二体目。
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《G-102》
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そして。
その先。
最奥の格納庫。
他より一回り大きな機体。
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胸部には。
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《E-00》
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その番号を見た瞬間。
ノアの全身が止まった。
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「……ゼロ。」
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初めて見る番号。
しかし。
内部記録が激しく反応する。
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【最優先記録】
【封鎖解除開始】
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黄金の瞳の声が、どこからともなく響いた。
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「七番目。」
「ようこそ。」
「君たちの。」
「始まりへ。」
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後書き
今回は、
* 第一の門の内部「中央転送回廊」への突入
* ゼルヴァニア=クロノスそのものが巨大な異世界転送施設だったこと
* 四十年前に最後まで避難誘導を続けた研究員たちの痕跡
* 数千体の旧文明防衛兵器の眠る格納庫
* そして、Eシリーズの原点である《E-00》の存在
を描きました。
次回、第82話 「零番機」では、ついにE-00が目を覚まします。ノアたちは、自分たちEシリーズがなぜ造られたのか、そして「七番目」であるノアだけに隠されていた本当の役割へと迫っていきます。




