↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
REMNANT ― 廃棄予定の旧式兵器は、異世界で家族を得て心を覚える ―  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
81/88

回廊

前書き


歴史は、


本の中だけに残るものではありません。


壁にも。


床にも。


壊れた機械にも。


歩いた者の記憶は残ります。


そして。


誰も歩かなくなった場所ほど、


真実は静かに眠っています。



 第一の門は、完全に開いた。


 黒い環はゆっくりと回転を続け、その中心には、光も闇もない奇妙な空間が広がっている。


 そこには色がなかった。


 ただ、空間だけが存在していた。


 風も吹かない。


 音もない。


 時間すら止まっているようだった。


第二章 失われた文明編


第81話 回廊



 E-01の通信が入る。


 ノイズ混じりだった。


「……七番目。」


「聞こえるか。」


 ノアは即座に応答する。


「受信。」


「隊長。」


「こちらは保持を継続中。」


 背後では今もE-01が都市を守り続けている。


 黒き巨腕はなおも押し続け、盾は限界を超えていた。


 それでも隊長は立っている。


「こちらは任せろ。」


「門を閉じろ。」


 短い言葉だった。


 だが、それだけで十分だった。


「……了解。」



 E-03が大きく息を吐く。


「行くしかねぇな。」


 E-02はライフルを構え直す。


「未知空間。」


「センサー不良の可能性あり。」


 E-05は高速で解析を続ける。


「内部観測不能。」


「通信遅延も予測されます。」


 E-06が重砲を肩へ担ぐ。


「弾薬、七割。」


「十分戦える。」



 ノアは門の前へ立った。


 胸部収納の紙飛行機が、淡く青白く輝いている。


 ユリア。


 自分は帰る。


 そう約束した。


 だから。


 必ず帰る。



 一歩。


 門を越える。



 世界が反転した。



 足元が消える。


 空が下になる。


 床が空になる。


 重力そのものが一瞬だけ意味を失った。



 ピシッ。


 ガラスが割れるような音。


 次の瞬間。


 ノアは静かな床へ着地していた。



 そこは。


 巨大な通路だった。



 左右の壁は見えないほど遠い。


 天井も見えない。


 一本の道だけが、どこまでも続いている。


 床には白い金属。


 壁には青白い結晶。


 一定間隔で古い照明が点灯していた。



 しかし。


 誰もいない。



「……静かだ。」


 E-03が呟く。


 その声だけが長く反響する。



 E-05が驚いた声を上げた。


「待って。」


「この構造。」


「都市じゃありません。」


「一つの建造物です。」


 全員が振り返る。


「何?」


「つまり。」


「今いる場所全部で、一つの施設。」



 ノアは壁へ手を触れた。


 冷たい。


 しかし。


 どこか懐かしい。



【材質照合】


【一致率 九一%】



 ノアの視界へ文字が浮かぶ。



《中央転送回廊》


《第一管理層》



「……読める。」


 E-02が聞き返す。


「何て書いてある。」


「中央転送回廊。」


 E-05が青ざめる。


「転送?」



 エドガー博士が司令室で震えた。


「やはり……。」


「まだ残っておったか。」


 セレナが振り返る。


「博士。」


「転送回廊とは?」


 老人は苦しそうに答えた。


「異世界転移装置じゃ。」


 部屋が静まり返る。


「都市一つが。」


「巨大な転送装置だったのじゃ。」



 誰も言葉を失う。


 ゼルヴァニア=クロノス。


 人類最高の都市。


 その正体は。


 異世界を繋ぐための巨大施設だった。



 E-03が苦笑した。


「……スケールでかすぎだろ。」



 歩き始める。


 静かな回廊。


 誰もいない。


 しかし。


 途中から様子が変わった。



 床に。


 白衣が落ちている。



 その先には端末。


 割れた眼鏡。


 散乱した資料。



 さらに進む。



 人がいた。



 研究員だった。


 壁にもたれたまま座っている。


 白衣は残っている。


 身体もある。


 だが。


 黒い結晶になっていた。



 石像のように。


 最後の姿勢のまま。



 誰も喋らない。



 E-06が静かに近寄る。


 しゃがむ。


「……逃げなかったのか。」



 ノアはその手元を見る。


 黒く結晶化した手。


 最後まで。


 何かを守るように端末を抱えていた。



【対象】


【研究員】


【生体反応 なし】


【推定死亡 四十年前】



 E-05が端末を拾い上げる。


 まだ電源が入る。



 画面が点灯した。



《避難命令》


《第一門閉鎖失敗》


《一般市民を優先》



 さらにスクロールする。



《Eシリーズ起動承認》


《時間を稼げ》



 E-03が目を閉じる。


「……最後まで戦ったんだな。」



 ノアは壁を見る。


 そこには。


 幼い文字で何かが書かれていた。



《おとうさん》


《かえってきて》



 小さな手で書いた文字。


 子どもの落書き。



 ノアの胸部コアが微かに震える。


 リリ。


 ユリア。


 約束。



 家族。



 その時だった。



 回廊全体へ警報が鳴り響く。



《侵入者確認》


《防衛機構起動》



 静かだった通路が一変する。



 壁が開く。



 左右。


 天井。


 床。



 無数の格納庫が姿を現した。



 そこには。


 数百体。


 いや。


 数千体の人型機構兵が眠っていた。



 ゆっくり。


 一体。


 また一体。


 赤い単眼が灯る。



 ノアの内部警告が最大音量で鳴り響く。



【警告】


【旧文明防衛兵器】


【識別開始】



 一体目。



《G-101》



 二体目。



《G-102》



 そして。


 その先。


 最奥の格納庫。


 他より一回り大きな機体。



 胸部には。



《E-00》



 その番号を見た瞬間。


 ノアの全身が止まった。



「……ゼロ。」



 初めて見る番号。


 しかし。


 内部記録が激しく反応する。



【最優先記録】


【封鎖解除開始】



 黄金の瞳の声が、どこからともなく響いた。



「七番目。」


「ようこそ。」


「君たちの。」


「始まりへ。」



後書き


今回は、


* 第一の門の内部「中央転送回廊」への突入

* ゼルヴァニア=クロノスそのものが巨大な異世界転送施設だったこと

* 四十年前に最後まで避難誘導を続けた研究員たちの痕跡

* 数千体の旧文明防衛兵器の眠る格納庫

* そして、Eシリーズの原点である《E-00》の存在


を描きました。


次回、第82話 「零番機」では、ついにE-00が目を覚まします。ノアたちは、自分たちEシリーズがなぜ造られたのか、そして「七番目」であるノアだけに隠されていた本当の役割へと迫っていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。