第50話 灰狼の拠点
前書き
強い人たちにも、
帰る場所があります。
武器を置く場所。
息を抜く場所。
そして。
“弱さ”を見せられる場所。
今回は、
灰狼の拠点回です。
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グランヴェイル北区画。
戦闘が終わった後も、街はざわついていた。
衛兵たちが封鎖線を張る。
野次馬。
怒鳴り声。
運ばれていく負傷者。
そして。
崩れた石畳の真ん中で。
ピップは完全に座り込んでいた。
「……都会こわい」
マルタが吹き出した。
「まだ一日目だぞ」
「情報量が多いんだよ!!」
ベラスも苦笑している。
ノアは異形が崩れた場所を見ていた。
黒い液体。
肉片。
そして。
中心に残った、小さな赤い結晶。
「……残ってる」
ヨランダが隣へ来る。
細剣を肩へ乗せたまま。
「触るな」
「危険?」
「たぶんな」
ヨランダは結晶を見る。
その目は鋭かった。
「最近こういうのが増えてる」
「知ってる?」
「少しだけ」
ノアが見る。
ヨランダは少し考えて。
「ここじゃ話しづらい」
そして振り返る。
「来るか?」
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灰狼の拠点は、
北区画外れの古い石造り倉庫だった。
見た目は地味。
だが。
中へ入った瞬間、空気が変わる。
武器。
地図。
依頼書。
治療道具。
食料。
完全に“戦う集団”の空間だった。
「うわぁ……」
ピップが周囲を見回す。
「本物の冒険者って感じ」
「ガキ臭ぇ反応だな」
ヨランダが笑う。
だが少しだけ楽しそうだった。
灰狼の他メンバーも戻ってきていた。
大盾使い。
弓手。
双剣使い。
全員が疲れている。
でも。
動きが無駄なく洗練されている。
ノアは見ていた。
この人たちは。
“死ぬ場所”を知っている動きだ。
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「座れ」
ヨランダが机を指した。
ピップは緊張しながら座る。
ノアも座る。
その瞬間。
椅子がミシッと鳴った。
全員がそっちを見る。
ノアが止まる。
「……壊れた?」
灰狼の連中が吹き出した。
「なんなんだコイツ!」
ピップが頭を抱える。
「最近ずっとこれなんだよ!!」
ヨランダも笑っていた。
初めてちゃんと笑った。
「安心しろ。安物だから元々だ」
ノアは少し考えて。
「……ならよかった」
「お前、面白いな」
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しばらくして。
食事が運ばれてきた。
黒パン。
肉の煮込み。
豆。
かなり豪快な飯だった。
ピップが目を輝かせる。
「うまそ……!」
灰狼の大男が鼻を鳴らす。
「戦った後は食え。死ぬぞ」
「それガルドさんも言いそう……」
ノアはスープを見る。
湯気。
匂い。
温かい。
最近、こういう時間が増えた。
旅。
火。
食事。
少しずつ。
好きになっている。
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食事の後。
ヨランダが赤い結晶を机へ置いた。
部屋の空気が少し変わる。
「これが最近の原因の一つだ」
ベラスが身を乗り出す。
「やはり……」
「知ってるの?」
ピップが聞く。
ベラスは頷いた。
「古代制御核です」
ノアの内部が反応する。
「……核」
「古代文明の遺物。元々は魔導機構や防衛設備の制御に使われていた」
ヨランダが腕を組む。
「だが今は暴走してる」
「暴走」
「壊れた存在の中に埋め込まれてるケースが増えてる」
ピップが顔をしかめる。
「誰かがやってるってこと?」
沈黙。
誰も即答しない。
ヨランダが静かに言った。
「たぶんな」
ノアは結晶を見る。
嫌な感じがした。
同系統。
鐘。
谷。
全部繋がる。
「……命令」
ヨランダの目が細くなる。
「お前、それ本当に何者だ?」
ピップが慌てる。
「ノアだよ!!」
「だからそれは名前だろ」
部屋に笑いが広がる。
ノアは少し困る。
でも。
前ほどではない。
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その夜。
拠点の屋上。
グランヴェイルの夜景が見えていた。
無数の灯り。
煙。
遠くの鐘。
ノアは街を見ていた。
「眠れないのか」
ヨランダだった。
酒瓶を持っている。
ノアは頷く。
「音が多い」
ヨランダが笑った。
「都会向いてねぇな」
風が吹く。
しばらく沈黙。
だが嫌な沈黙ではなかった。
「……なんで冒険者」
ノアが聞いた。
ヨランダは少し止まる。
「食うため」
「それだけ?」
「最初はな」
酒を飲む。
夜風。
「でも長くやると、色々増える」
「色々」
「守りたい場所とか。借りとか。意地とか」
ノアは聞いていた。
「お前は?」
ヨランダが逆に聞く。
「なんで戦う」
ノアは少し考える。
リリ。
エルナ。
ガルド。
ピップ。
旅で会った人たち。
「……止めたい」
「何を」
ノアは街を見る。
「壊れるの」
ヨランダはしばらく黙っていた。
それから小さく笑う。
「難儀な性格してんな」
「変?」
「かなりな」
だが。
ヨランダの目は少し柔らかかった。
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その時だった。
下の階で騒ぎ声。
「ヨランダ!!」
灰狼の弓手が飛び込んでくる。
「東水路でまた出た!!」
ヨランダの顔が変わる。
「数は!?」
「確認だけで十以上!」
ピップが青ざめる。
「多くない!?」
だが。
弓手の次の言葉で空気が凍った。
「しかも――」
息を切らしながら言う。
「“人を喋ってる”」
ノアの目が細くなる。
「……進化してる」
グランヴェイルの夜風が強く吹いた。
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後書き
今回は、
* 灰狼の拠点
* 古代制御核の存在
* ヨランダとの距離感
を描きました。
そしてラスト。
壊れた存在は、
さらに“人に近づき始めて”います。




