第49話 灰狼《グレイウルフ》
前書き
街には、“強い人”がいます。
でも。
本当に怖いのは、
強いのに静かな人です。
今回は、
グランヴェイルで出会う新たな冒険者たち。
そして。
ノアたちは初めて、
“組織だった冒険者”の強さを見ることになります。
⸻
ゴォン――
鐘の音が、街へ響いた。
広場の空気が凍る。
人々がざわめく。
「また北区画か!?」
「逃げろ!!」
「衛兵呼べ!!」
市場が一気に混乱した。
荷車が倒れる。
叫び声。
子どもの泣き声。
人の流れが崩れる。
ノアは音の方向を見る。
北。
細い路地群。
煙。
そして。
赤い光。
「……いる」
ピップの顔が引きつる。
「また壊れた存在!?」
黒髪の女――細剣の冒険者が、すでに歩き出していた。
迷いがない。
その後ろを武装集団が追う。
革鎧。
統一された動き。
明らかに普通の冒険者ではない。
マルタが目を細めた。
「灰狼か」
「知ってるの?」
ピップが聞く。
「北方じゃ有名だ。討伐専門の連中だよ」
ベラスも頷く。
「都市防衛依頼も受けています。実力派ですね」
その時。
黒髪の女が振り返った。
真っ直ぐノアを見る。
「お前」
「?」
「来るなら死ぬな」
それだけ言って、走った。
ピップがぽかんとする。
「なにあの人怖……」
ノアは静かに呟く。
「……強い」
⸻
北区画。
そこは市場中心部より古い街並みだった。
石造りの建物。
狭い路地。
洗濯物。
だが。
今は異様だった。
扉が閉まり。
窓が塞がれ。
人の姿がない。
代わりに。
赤い目が動いていた。
「三体確認!!」
灰狼の男が叫ぶ。
「奥にも反応あり!」
ノアが見る。
「七」
灰狼の女が目を細めた。
「見えるのか?」
「……分かる」
その瞬間。
壊れた存在たちが一斉に飛び出した。
路地裏。
屋根上。
窓。
全部から。
「散開!!」
灰狼が動く。
速い。
統率されている。
前衛二人が盾を構え。
後衛が槍。
さらに。
黒髪の女が消えた。
「え」
ピップが目を見開く。
次の瞬間。
赤い閃光。
ザンッ!!
壊れた存在の腕が飛んだ。
女はすでに背後へ回っていた。
速い。
静か。
無駄がない。
「……すご」
ピップが呟く。
ノアも見ていた。
動きが洗練されている。
ガルドとは違う。
もっと実戦寄り。
“殺すため”に最適化されている。
⸻
だが。
壊れた存在は止まらない。
腕がなくても襲ってくる。
「ちっ……!」
灰狼の一人が舌打ちした。
「数が多い!」
別方向。
屋根から二体飛び込む。
ピップが叫ぶ。
「上!!」
矢。
命中。
一体が崩れる。
だがもう一体。
子どもを抱えた女の方へ。
「きゃっ……!」
ノアが動いた。
地面が割れる。
一瞬で距離を詰める。
壊れた存在の腕を掴み。
回転。
石壁へ叩きつける。
ドゴォン!!
壁が砕ける。
周囲が静まる。
「……なんだ今の」
灰狼の男が呆然とする。
黒髪の女だけが静かにノアを見ていた。
観察するように。
「人じゃない動き」
ノアは女を見る。
「……壊したくない」
女の目がわずかに揺れた。
「は?」
その瞬間。
路地奥から悲鳴。
「まだいるぞ!!」
今度は。
巨大な影。
ノアの目が細くなる。
「……大きい」
壁を壊しながら現れたのは。
壊れた存在の集合体だった。
人。
獣。
肉。
骨。
無理やり繋がったような異形。
赤い目がいくつも光っている。
ピップの顔が真っ青になる。
「うわぁぁぁ気持ち悪っ!!」
灰狼の連中も顔を変えた。
「融合個体……!?」
ベラスが震える。
「そんな段階まで進行してるのか……!」
異形が咆哮する。
路地全体が震えた。
灰狼の前衛が吹き飛ばされる。
「ぐぁっ!!」
女が細剣を構える。
だが。
ノアが前へ出た。
「止める」
異形が突進。
ノアが正面から受け止める。
衝撃。
石畳が砕ける。
だが。
止まらない。
重い。
複数の力が混ざっている。
ノアの腕が軋む。
内部警告。
黒髪の女が目を細めた。
「……受け止めてる?」
ノアは異形を見る。
中。
まだ人がいる。
苦しんでいる。
「……分ける」
ノアが呟いた。
女が反応する。
「何?」
「核がある」
異形の中央。
赤く脈打つ塊。
そこから全部繋がっている。
「そこを止めれば」
女は一瞬だけ考え。
すぐ理解した。
「……なるほど」
次の瞬間。
女が消えた。
高速移動。
異形の側面を駆け上がる。
斬撃。
赤い線。
異形が暴れる。
ノアが押さえる。
「今!!」
女が核へ細剣を突き刺した。
ギィィィィッ!!
異形全体が絶叫する。
赤い光が暴走。
ノアが咄嗟に周囲を庇う。
爆発。
衝撃波。
石畳が吹き飛ぶ。
煙。
静寂。
そして。
異形が崩れ落ちた。
⸻
北区画が静まり返る。
灰狼の連中が息を吐いた。
「終わった……」
ピップがへたり込む。
「街怖すぎる……」
黒髪の女が剣を払う。
血ではなく。
黒い液体が飛ぶ。
そして。
ノアを見る。
「お前」
「?」
「名前は」
「……ノア」
「私はヨランダ」
ピップが止まる。
「え?」
ヨランダ。
灰狼の女。
細剣使い。
彼女はノアを見て、小さく笑った。
「面白いな、お前」
ノアは少し首を傾げた。
「……変?」
「変だ」
ヨランダは即答した。
「だが嫌いじゃない」
風が吹く。
グランヴェイルの夕暮れ。
街の奥では、まだ鐘の余韻が残っていた。
⸻
後書き
今回は、
* 初の都市戦
* 灰狼との共闘
* ヨランダ初登場
を描きました。
ヨランダはまだ“街で名の知れた冒険者”程度ですが、
この先かなり重要な立ち位置になっていきます。




