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【番外編】押しかけ花嫁さんと田舎のおっさん男爵、街道を行く・後編


 番外編、後編です。


 と、まあ、こんな具合に行きずりの捕物の助太刀をする事になったクライバンだが、歴戦の戦士『鍛冶屋のマルカム』の武勇は、押しかけ花嫁さんと田舎のおっさん男爵のゆるふわほのぼのライフには全く関係がないので、いちいち記す必要はないだろう。



 ひと仕事終えたクライバンが夜明け前に尼僧院へオリビアを迎えに行くと、オリビアはむっつりと押し黙って門から出てきた。


 何だか、様子が変だ。


「オリビア殿、昨晩は良くお休みになれましたか?」


 クライバンが尋ねると、オリビアは堰を切ったように訴えた。


「恐ろしい尼僧様に聖堂でおこもりをさせられて、一睡もしていません。ごはんもいただけませんでした。」


「??? それはお気の毒でしたね。実を言うと、俺も久しぶりに同時に四人の相手をしたのでいささか疲れました。」


「よ、よ、四人ーっ!?」


 嬉々として昨晩の出来事を話すクライバンにオリビアは絶叫した。


 "相手をしてくれるなら、宿代はオマケしてやる。" あの時、女はクライバンにそう持ちかけていたが、四人同時とは!


「中のひとりに、あんな仕事をさせておくのは惜しいくらいにずいぶん熟練した技を持っている奴がいて。」


「じ、熟練……!?」


「いやあ、夢中になっていたら気がつけばこんな時間ですよ。結局、一睡もできませんでした。まあ全員腰砕けにしてやりましたがね。」


「腰ぃーっ!? 」


 旦那さまに限って……!!


 昨日からの疲労も手伝い、オリビアはその場にふにゅー、っと、へたり込んでしまった。


「オリビア殿、元気を出して。さあ、船着場へ行きましょう。良い事がありますよ。」


「うわーん! 旦那さまの裏切り者! 信じていましたのに! 」


 クライバンの励ましにも耳を貸さず、オリビアはついに泣き出した。


「尼僧院の宿坊は俺のせいではありませんよ。あそこはファン・シアーの紹介ですから。」


「もういいです! 私は尼僧院に帰ります! 出家して尼僧になって一生聖堂でおこもりしています!」


「お、オリビア殿、急にどうしたのですか? 先代の聖女様をお迎えに行くのでしょう?」


「もうほっといて下さいー! うえーん……。」


「オリビア殿……。」


 泣き続けるオリビアに、クライバンは訳がわからず途方に暮れる。


 昨日は一日中歩かせてしまったし、いくら母親が戦士だったとは言え、聖都の公爵令嬢のオリビアには少々きつかったのだろうか。




「おーい、おっさん。何やってるんだよ、なかなか来ないから迎えに来たぜ。」


 クライバンが振り返ると、通りの向こうから入れ墨だらけの男が駆けてきて手を振っている。


「おお、バブズ殿。」


「殿はよしてくれよ。全く、おっさんも人が悪いよ。ほんもののマルカム・クライバン様だったとはなあ。」




 下っ端の騎士のバブズがクライバンを知らないのは当然だが、騎士団長ともなれば流石にクライバンを見知っていたようだ。


 取り押さえられた罪人達を仮牢へ連行してきたクライバンを見るや、大慌てに慌て、顎で使っていたバブズの無礼を幾重にも詫びたのだった。




「あの魔導士の畜生どもを四人まとめて相手するなんて、度肝を抜かれたぜ。」


 バブズは昨晩のクライバンの大立ち回りを思い出し、興奮して捲し立てる。


 うずくまって泣いていたオリビアがぴくっと、反応した。


「ひとり、ずいぶん腕の立つのが混じってたがな。あんな熟練者が何だって悪事に手を染めたりなんか。もったいねえな、本当に。」


 オリビアは涙とハナミズでぐちゃぐちゃの顔を上げる。


「最終的にはおっさんが手を出さずとも魔導士どもが勝手に倒れちまって、ああ言うのを腰砕けって言うんだっけ。ザマミロだ。ともかく、おっさんのおかげで、密売組織を一網打尽に出来た。礼を言うよ。」


 バブズはニンマリと笑った。夜道で出くわしたのと、入れ墨のせいで昨夜は恐ろしかったが、夜明け前の薄明かりで見る彼はまだ若く、人懐こい顔をしている。


「いや、いや、俺も大助かりだよ。報酬もたんまり金貨でもらえたし、宿代も出さずに済んだ。」


 クライバンも笑って応えた。

 



 騎士団長は自分の屋敷に泊まるよう何度も進めたが、クライバンは丁重に辞退した。


「なに、ちょっとそこの空いてる所を使わせていただければ、それで。」


「な、何と言う事を! マルカム様を仮牢に入れる訳には参りません!」


 騎士団長は懇願する。


「なんの、野宿に比べれば宮殿ですよ。この街の悪党どもは幸せ者ですなあ。」


 クライバンはそう言って自分からさっさと檻の中へ入っていったのだった。




「団長がそれじゃあんまり申し訳ないって言うんで、おっさんがこれから乗る船の特等客室を用意してくれたんだぜ。なのに、待てど暮らせどおっさんが波止場に現れないからこうして迎えに来てやったんだよ。さ、早くしないと、船が出ちまうよ。」


 急かすバブズにクライバンは申し訳なさそうに頭を掻いた。


「いやあ、その話だが、実は……連れの者が船には乗らないと言うので、せっかくだが無かったことに……。」


「参りましょう!」


 クライバンの言葉を遮り、後ろからオリビアの元気な声がした。


 振り返ると、さっきまでへたり込んで泣いていたオリビアがひと足早い朝陽の訪れの如く明るい顔をして立っている。


「オリビア殿? 良いのですか?」


「何がですか? さあさあ、参りましょう。 バブズ様とやら、案内をしていただけますか?」


「はい、こっちです。」


 オリビアは意気揚々とバブズの後に続いた。


「???」


 クライバンは頭を捻りながら二人の後を追った。




 騎士団長が用意してくれた特等客室は魔法の結界のおかげで船酔いとは無縁の快適な部屋で、船上だと言うのにお湯も使い放題だった。


 テーブルの上には、新鮮な果物と共に、この街の名物、ルビー色のチョコレートが品良く盛られている。


 一日中歩き通しだった上に、飲まず食わすでおこもりまでさせられたオリビアは、歓声をあげて武装も解かずにベッドに身体を投げ出した。


「オリビア殿、サンダルくらいはお脱ぎなさい。」


「疲れてしまったので面倒臭いです。」


「やれやれ。」


 クライバンは溜め息をつくが、オリビアの機嫌が直ってほっとしている。


甘やかしてはいけないと思いつつも、今日は特別だ、と、オリビアのサンダルを紐をほどいた。


(あっ……。)


 クライバンの指がくるぶしに触れ、オリビアはびくんと身体を固くした。


 続いて、脛当て、腰当て、小手、胸当てと順々に防具を外してゆく。


 オリビアの脛、腰、腕、胸元と、順々にクライバンの指が触れる。


(……っ、……っ。)


「ほら、泥だらけの足でベットを使っては、船の方にご迷惑ですよ。」


 クライバンはオリビアの白い足を湯に浸した柔らかい布で丁寧に拭いてやった。


(……っ、……ん、……。)


 オリビアは両手で口を押さえて声が漏れないようにするのに必死だ。


「初めての徒での遠出は疲れましたか? 少しマッサージしてあげましょうか。」


 クライバンは、ごつごつした両手で足を包みこみ、太い指をオリビアの細い足の指に絡ませて、優しく揉みしだいてやった。


(〜〜〜っ!)


「失礼しました、痛いですか?」


「い、いいえ。」


 あるかなきかの声でオリビアは答えた。



 どうしよう、どうしよう。


 昨日の尼僧様のおっしゃる通り、私ったら、レディにあるまじきいけない考えで頭の中がいっぱいだわ。旦那さまが知ったら軽蔑されちゃう。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう……。



 どうしよう…………。




 ふと、クライバンが顔を上げると、オリビアはすうすうと寝息を立てていた。


 その愛らしい姿に思わず目を細める。


 この俺に寝顔を見守る特権を与えてくれたオリビアに、聖女様に、精霊達に、勇者殿に、この世界の全てのものに感謝を捧げたい。



「おやすみなさい、俺の花嫁。」


 

 クライバンは愛する人の額に唇を押しつけた。



  【番外編・おわり】





 最後までお読みいただきありがとうございました。


 たくさんの方々の(私にとっては本当にたくさんです!)お目に触れ、こうして最後まで読んでいただいたばかりか、いいね、ブックマーク、評価、感想、レビュー、たくさんいただきありがとうございました。オリビアもおっさんも喜んでいます。


 お読みいただいた皆様がほんの少しでも幸せを感じていただけたら、こんなに嬉しい事はありません。


 また別の機会にお会いできることがありましたらよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 心地良い読了感でした。その後が有るというのは余韻が有って良いものですね。 聖女様に会えるかと思いきや会えないのは少々残念でした。
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