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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
9章 猟師の弾丸は雪原を割って
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仲間が紡いだ物語

 これから、全員でクエストに参加することは決まった。

 とはいえ、じゃあこれからどうしたらいいのか。そんなことを思っていると、公式のアナウンスが鳴り、イベントアイテムが転送されてきた。


「映像用のクリスタルよね?」


 アキラが不思議そうにクリスタルを眺めている。


「まあ、見れば内容もわかるだろうさ」


 錦がそう言いながら、自分の持っているクリスタルを起動した。


 クリスタルから投影されたのは、妖精姫ユーライア。彼女はこれまで通り、真剣な表情で口を開いた。


「冒険者の皆さま。今回はギムレッド王国の解放に向けた戦いへ助力を頂き、本当にありがとうございました」


 それは、この大戦に力を貸してくれた感謝の言葉。

 そして、冒険者への新たな依頼の始まりだった。どうやら、ユーライアは王の結晶化を解くため、もう一度自身を分体へと分けて結晶化し、王の結晶に入り込んでの解除を考えているらしい。


「騎士団の皆さまは此度の戦いで大きく傷ついています。彼らに代わり私を王都の王の間まで運ぶ。これを最後の依頼とさせて頂きたいのです」


 アイラと鉄心はやる気に満ち、すぐにでも準備を始めそうだ。富士やアキラはすでに装備の点検を始めている。その隣では、ヨーシャンクが頷いていた。


「どうしたんだ?」

「いや、すでにクエストが出ていてな。なるほどなと思っていただけだ」


 ヨーシャンクの言葉に、UIを開いて確認する。そこには、2つのクエストが表示されていた。


≪これはあなた達の物語≫

場所:ギムレッド王国 花の都ウィルム

必要成果:ユーライアの分体結晶の輸送完了

挑戦可能期間:1週間

特殊制限:挑戦可能数1回

特殊制限:人数制限なし


皆が紡いだ世界の結末は…。


≪これはあなたの物語≫


結末は、あなたの思うままに。


 1つ目はまだしも、2つ目はなんなんだ。それに、どうやらこのクエストは、クエストボードやギルドに行かず、この場でクエストの受注ができるらしい。

 俺たちは結局、その場ですぐにクエストを受けた。

 そして、転送されてきたユーライアの分体結晶を起動すると、見たこともない街並みへと移動していた。

 転送されたのは、クエスト通りなのであればギムレッド王国にある花の都、ウィルム。

 まあ俺は来たことがないから、本当にそうなのかはわからないんだけどな。

 そして、原理はわからないがここには雪が積もらないらしい。冬だっていうのに、ずいぶんと緑の濃い場所だ。


「ここは、確かウィルムの下町ね。昔、一度だけきたことがあるわ」


 そう言うシルフレアは、過去にここに来たことがあるらしい。記憶とはかなり規模が変わっているらしいが、なんとなくでも案内ができる奴がいると安心感が違う。

 住人は誰もが疲れているようだったが、どこか大戦の終わりを知ってほっとした様子でもある。


「ん?あの先で戦闘してねえか?」


 富士につられて指差した先を見る。遠くに見えるのは、城壁に開けられた門。そこで、亜人種同士が戦っていた。遠いためよくはわからないが、同じような装備をしているように見える。

 シルフレアが近くにいたホークマンに声をかけ、事情を聴いてくれた。


「つまり、城下町じゃあ残った新体制派が暴れがちってことか」


 まずい。どうやら富士に変なスイッチが入ってしまった。盾を確認し、軽く屈伸をして体を動かす。


「ちょっくら行ってくるわ」


 それだけを言い残すと、富士は先に城下町に行っていると駆けて行った。


「であれば、俺達もですね」

「そうですね」

「よし、それでは行こうか」


 槍を手に、東雲が歩き出すと、残ったセントエルモの面々は笑顔を浮かべ、全員で富士を追ったのだった。


「まあ、あいつらは好きにさせたらいいさ。それよりも、ハンドメイドにとっては今回のイベントってどうだったんだ?あったときは装備とかの話がメインだったから、チャットの情報しかなくて」


 俺の質問は少々迂闊だったかもしれない。その証拠に、全員がすごい勢いで俺の方へ向き直ったからだ。


「おぉ、聞いてくれるのかい?カイ」


 それは嬉しそうに語り出したのはウッディだった。


「いいかい。僕らにとっての今回のイベントなんだけど、序盤は量産、中盤は改良、そして後半は一点物。これに尽きたよ」

「なに言ってんだ」


 まとめすぎてて意味が分からない。

 それを見ていた鉄心が笑いながら補足をしてくれた。


「いやあ、序中盤はそのまんまなんだけどさ、大変だったのは後半だね。ふわっとしたイメージで色々な制作を頼まれるんだ。俺ならほぼ擬音で説明された武器の制作とか」

「ああ、小一時間は頭を抱えていたやつか。それも面白かったが、俺としてはアイラのバフ料理がいい味出していたと思うがな」


 話を振られたアイラは顔を真っ赤にして錦に詰め寄っていた。能力にバフが付くレベルならかなり難易度が高かったのか。聞いてみると、アイラは首を振った。


「違うの。効果が難しいんじゃなくて」


 思い出したのか、ウッディがクスクス笑っている。黒べえもそっと口元に手をあて、小刻みに体を揺すっている。


「うむ。あれは見事であった。アイラに来たのは力をみなぎらせる料理の開発。だったのだがな。どこをどうしたのか、筋肉が爆発的に増える料理、ができたのである」

「は?筋肉が増える?」

「ああ、驚くほどの筋骨隆々の肉体を手に入れらるぞ。まあ、能力は向上しないタイプのネタアイテムだった。のだがな」


 アイラはそっぽを向き、両手で顔を仰いでいる。


「噂が噂を呼んでな。VLOの筋肉スキーがそろってレストランに押し掛けた。その時の騒ぎが住人の間で噂になったのだ。最近ではアイラはこう呼ばれるようになった。筋肉の妖精、と」


 その名称はよほど定着したのだろう。筋肉の妖精だけ、なぜか全員の声がそろっていた。

 あと青大将。多分だけど、さすがにポージングはこのタイミングじゃないと思うんだ。というか、お前というサンプルがいたせいで余計人気になったのでは…?

 ウッディは何が思い出したのだろう。思い出し笑いで身をよじりながら教えてくれた。


「だってさっ、食べた瞬間にみんなの肩幅が倍になるんだよっ…ボンってさ!」


 そんな話をしばらくはしていたが、その後はイベントで起きたちょっとした出会いの話に移った。

 新たな客、騎士団の要人に地域の住人。それぞれに物語が詰まっていた。

 会話が落ち着くと、アイラはふと視線を落とす。アイラにも亜人族との出会いがあったらしい。


「実は、この王都から逃げ出してマナウスに保護された子がいるの。私があったのはハーフリングのフェイって言う子なんだけど…」


 逃げてきたハーフリングの女の子と知り合い、一緒にクエストを消化していったらしい。そして、最終決戦を終えた後、王都に戻ると言ってマナウスを去ったそうだ。


「せっかく仲良くなったから、ここに来れるなら会えるかと思ったんだけど…」


 少しだけ、遠くを見るような表情のアイラの声色は、少しばかり寂しそうだった。

 しかしまあ、これまでのそれぞれのプレイログを参照するというのなら、こんなことも起こるんだろう。耳を澄ますと遠くからアイラの名前を呼ぶ声がする。

 声の先にはハーフリングの少女。アイラの顔に笑顔が弾けた。

 ただ、俺としては、その少女の表情が少し気になった。

 友人にあった喜びはない。どちらかというと、切羽詰まったような顔をしていたからだ。

 駆け込み、跳びつくようにアイラの元に跳びこむフェイ。それをアイラはしっかりと受け止めていた。


「フェイっ会えてよかった!それに、どうしたの?」


 アイラに聞かれたフェイは、息を弾ませながらなんとか話そうとし、うまくいかず。感情があふれるままにその場で泣き出してしまった。

 その後、落ち着いたフェイから聞いた話をまとめると、こういうことらしい。


「つまり、今回の大戦でギムレッド側の損耗も激しかったということか。特に衣食住の状況は絶望的で、その上難民まがいの流入まで増えていると」

 

 フェイの話を聞いている間、アイラはずっとフェイの両手を握っていた。表情は見えないが、なにかを迷っているような雰囲気は感じる。

 俺でも気づくんだ。俺以上に一緒に時間を過ごしてきた鉄心たちに気付かないはずがない。

 鉄心は腰にぶら下げている鍛冶用の槌に触れながら、アイラの肩を叩いた。


「ねえ、アイラはどうしたいの?」


 その一言を聞いて、アイラがはっと顔を上げた。

 錦がアイラの頭に手を置き、裁縫道具を取り出した。ウッディは新しい家の作り方を、黒べえは生活魔法をアクセサリーで、と呟いている。青大将はなぜか屈伸を始めたけど、狩りにでも行くんだろう。


「カイ、答えは出たようだ。クエストの結末はこの後の打ち上げででも教えてくれ。…さて、久々に服作りに没頭できるな」

「え、え?」


 錦の言葉にアイラが慌てている。


「そうだね。あ、そうそう。カイは戸建て風とロッジ風、どっちがいいと思う?」

「新しいチャレンジ。いいのが出来たら渡すから。頼むよ、広告塔」


 ウッディは笑顔で、黒べえはいつもの無表情で歩き出していた。

 気づけばアイラの顔にも、晴れやかな笑顔が戻っていた。フェイと手をつなぎ、大丈夫だよ、と声をかけている。


「カイさん、最後まで頑張ってね!」

「困っている者の支援こそが我らの生きる道なのである!…ただ、足りなかったら後で一狩り頼むのである」


 いや、だからポージングはいらないって。


「だから、俺たちはここで必要とする誰かのために物を作るよ。俺たちはこれまでもそうやってきたし、これからもそれは変わらないから!」


 そうして、ハンドメイドの面々は、下町のために走り出した。 




「で、富士はどんなイベントだったんだよ」


 城下町で富士たちと合流したあと、せっかくだからと聞いてみた。


「そうだなあ。基本は全員揃ったら川辺ルートでの連戦だったな。最初はレイド用のパーティー参加リストなんかも有志が取りまとめてたんだけど」


 話し始めた富士だったが、敵を見つけるとあとは頼むと飛び込んでいった。

 振り返ると楓とヨーシャンクが苦笑している。


「そうですね。最初は機能してたんですけど」

「おそらくはこちらの参加者に合わせて敵のポップを調整したのだろうが、途中からはそんなことをしている場合ではなくなった」


 引き絞られた弓から矢が。翳された杖から雷が走る。

 ちょうど前線を入れ替わったアキラが下がってきた。


「ああ、川辺の戦闘?後半はもうしっちゃかめっちゃか!その場にいるパーティーと怒鳴り声でコミュケーションをとって、即席レイドパーティー結成!みたいな」


 敵を倒し終え、東雲も下がってきた。


「そうですね。文字通りに連戦続きでしたが、とても充実していました」

「そういえば、面白いと言えば」


 思い出したようにヨーシャンクが呟いた。

 隣でびくり、と楓が動きを止める。ミリエルが楓の手をそっと握った。

 アキラが思い出したように笑いながら、教えてくれた。


「敵にすばしっこいのがいてさ。楓の矢が富士の後頭部に刺さったの。それでね、富士が気にするな!もう一本!って言って」

「次の射撃も見事に後頭部に突き刺したのさ。一緒に戦っていたパーティが笑いだして壊滅した」


 やめて、と楓が慌てながらアキラとヨーシャンクを捕まえに走っていく。

 戻ってきた富士はそんなこともあったな、と笑っていた。そして小さい声で教えてくれた。


「それ、本当は3本目も当たってんだよな」


 そこまでを言わなかったのは武士の情けだったのでは。とも思うが、楽しそうでなによりだ。


「へえ、カイさんみたいですね!」


 嬉しそうに笑っていたウェンバーの手には赤いクリスタル。

 この後、全力で追いかけたがウェンバーを捕まえることはできず、俺の醜態が晒されたのは言うまでもない。

 そんな賑やかな道中の喧騒がふと途切れた。その直後だった。

 突如として、爆発音のような音が響き渡った。


「まさか、巨人族までいるとは」


 2階建ての建物を優に超える身長。信じられないような肩幅に、筋肉の鎧を身にまとっている。

 その手に握られたこん棒は、一振りで2つの家を吹き飛ばし、まるで地面ごと世界を叩き割るようだった。

 とっさにセルグ・レオンを構えた俺を、富士が腕だけで制止した。

 セントエルモの面々は、全員が笑顔を浮かべている。手には獲物、視線は巨人族を見据えて富士の号令を待っていた。


「きたきたきたぁ!悪いなカイ!俺たちはあいつと戦りに行ってくるわ」


 うん。そうだよな。お前は、お前たちはそういうやつだよな。


「俺たちにとってのイベントってのは、戦闘職としての楽しさを味わいつくことだった。で、そのログを参照したご褒美ってのがあいつってことだろ?知ってるか、巨人族って川辺ルートの上級コース、その最後のボスラッシュでしか出なかったんだよ。なら、このチャンスを逃す手はねえ!」


 ヨーシャンクが続ける。


「今回我々は、カイの報告以外ではほとんど世界の物語に触れる機会はなかった。この先でその物語に触れた時には思うのだろう。なるほど。面白い。そんなことがあったとは、と。…だが、それを超える感覚は生まれないだろうな」


 楓が頷いた。


「それなら、この先はカイさんが行くべきだと思うんです」


 アキラは悪戯な笑みを浮かべて片目を瞑った。


「もし、お宝を見つけたら山分けだからね」


 東雲は真面目な表情で武器を構えている。


「ご武運を」


 ミリエルはちら、とこちらをみて言った。


「がんばって、ください」

「てことで、俺たちは俺たちで、一足先に楽しみ尽くしてくるぜ!」


 俺は武器を変えた。にやりと笑う俺が拳を出すと、富士の拳が荒々しく打ち鳴らされた。


「道を開くだけだ。援護くらいはさせていけ」

「おう!じゃあ頼んだぜ」


 リグMB01から、魔法弾が打ち出される。それは、巨人族までの道を塞いでいた敵を一掃した。

 富士が裂帛の気合で指示を飛ばし、敵に向けて駆けていく。

 まったく、いつのまにあんな戦闘狂に、と呆れつつも、らしいなと思わず笑みがこぼれた。

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