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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
9章 猟師の弾丸は雪原を割って
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戦いの果てに

 戦場に、白い息が揺れた。

 静寂が広場を包む中、倒れ伏したガイルの拳が、ゆっくりと空へ突き上がる。


「……勝った、のか……」


 静かな雪原で、耳を澄まさなければ聞こえないようなかすれた声。それでも、確かに生きている。


「ガイル!」


 声を聞き、駆け寄っていた。雪を蹴り、膝をつき、ポーションをかける。

 そのすぐ後ろから、ウェンバーとシルフレアもふらつきながら歩いてくる。

 すでに2人の姿はもとに戻っている。疲労の色は濃い。

 でも、やりきったという晴れやかな表情を浮かべていた。


「よかったです!本当に…!」

「本当に、4人でやり遂げたわね…」


 ウェンバーが最後の力を振り絞り、倒れるように飛び込んでくる。

 後に続いたシルフレアは、静かに、俺たちを抱きしめた。

 ガイルも笑みを浮かべた。


「ふふ、お前たちなら、できると信じていたさ……」


 四人で肩を寄せ合う。

 張りつめていたものが、ふっと抜けていく。

 雪の冷たさが、今はひたすらに心地よかった。

 ふと視線を向けると、木にもたれかかって座るシュトーバーが、静かにこちらを見ていた。

 その顔は、何かを確かめているような。何かを見たいと願っているかのような。そんな様子だった。

 そして、何かしらの結論を得たんだろう。瞳に、戦いの最中にはなかった“安堵”の色がかすかに宿る。


「最後に、やるべきことがあるな」


 俺の言葉に3人が頷き、立ち上がる。肩を貸し、支え合い、それでも時折よろけながら、シュトーバーの元に歩み寄った。


「……シュトーバー」


 俺たち以上にボロボロとなっていたシュトーバーは、何かを隠すように、皮肉な笑みを浮かべた。


「まさか、本当に我が試練を超えてみせるとは」


 風のざわめきにかき消されるような、小さな声。呼吸は浅く、今にも崩れ落ちそうだ。

 しかし、その目はまっすぐ俺たちを見つめている。


「我は、自分が間違えたとは思っていない。我にできるすべてを、全力をもって成し遂げてきた。それが、まさかな。貴様等のような、青く、歪な集まりに破れようとは」


 呼吸を置くように、一拍が空く。そして、どこか満ち足りたように口角を上げた。


「人間、コボルト、エルフ。そして冒険者。どれも我が忌避した存在だ。…それが、どうだ。互いを支え、補い、共に並び立つ。その姿に、見えてしまった。我らが求め続けた……未来が……」


 弱々しくも、芯のある声。俺以外の3人も、一言も漏らすまいと聞き入っている。

 誰もがわかっている。これが、シュトーバーとかわす最後の会話になるという事が。


「己が力を御せず、力を暴走させた愚者。その果ては決まっている。…我はもう長くは持たぬ。だからこそお前たちに、託さなければならない。残されたものに罪はない。……王国に残された同胞たちのこと……頼んでもよいだろうか」


 手は震えている。もはや起き上がることすら適わない体で、その瞳だけが力を残していた。


「任せろ、とは言えない。でも、俺たちにできる最大限の努力をすると誓うよ」


 そろった目線、交錯する思い。NPCと呼ばれる彼(シュトーバー)は、今、何を思っているのだろうか。

 やがて、用は済んだとばかりに、瞼が落ちていく。


「エルフ族の娘。人間族の騎士。不死の呪いをもつ冒険者。そして、未来を作り出した我が親愛なる同胞よ。その誓い、果たせぬ時は化けでも出向き、その命をもらいに行くと心得よ。我はいつでも、お前たちを見ているぞ…」


 ウェンバーが小さな手を伸ばす。シュトーバーの手を握る、それは、同族を送る、愛情に満ちたものだった。


「これ、を」


 震える手で、シュトーバーは自身の剣を差し出す。

 黒い刃は、雪の光を受けて淡く輝いていた。


「この剣は、ドワーフ族が鍛え、妖精族が祝福し、数多の種族を超え、誇りある戦士が継いできた、戦士の証。力の象徴であり……願いの形だ」


 これを受け取るということの意味。それがわからないわけではない。だが同時に、それを託すべき相手は俺じゃないような気がした。


「約束は果たす。でも俺は剣を使うタイプじゃない。そんな大事なもの、俺が受け取っていいのか」


 自然とそう言っていた。

 だがそれに言葉をくれたのは、ガイルだった。


「違うぞカイ。剣を渡すという行為にこそ、意味があるのだ。まさか、我らと似た文化を貴公らももっていようとは」


 高潔であろうと生きる者。2人だからこそ通じる考えなのだろう。シュトーバーも静かに頷いている。


「剣とともに思いは託される。お主は誓った。ならば、剣に残るは力の象徴。後は、お前が認める者に……託せばよいのだ」


 その言葉に、脳裏に浮かぶ姿があった。

 思いは受け取るが、それは1人でなければならないというわけじゃない。なら、その思いごと、受け取れる奴に継ぎにいく。それが、『世界の物語(ワールドストーリー)』に踏み入った俺の役目なんだろう。


 剣を渡したシュトーバーは四人を見渡し、どこか懐かしむように目を細めた。


「……思い出す。共に戦った……仲間たちを…。ああ、そうだ。我も、かつては…」


 そのまま、穏やかな表情で目を閉じる。

 淡い光が体を包む。シュトーバーの体は静かにポリゴンへと変わっていった。


 雪が舞い落ちる音だけが、戦場に残る。


 静寂を破るように、システム音が響いた。


『公式イベントクエスト≪???≫の攻略を完了しました』


「……終わったんだな」


 達成感が胸に広がる。

 だが同時に、胸の奥で何かが引っかかっていた。


「あ、王都の解放。イベントで解放されるものと思ってたけど、違うのか?」


 その瞬間、アナウンスが続く。


『19時より、全プレイヤーへ向けた特殊クエストが開始されることをお知らせします。詳細は、公式情報をご確認ください』


 公式イベントは終わる。でも、『物語』はまだ終わりじゃない。

 その時、メッセージウィンドウが点滅した。


『カイ、話したいことがある。セントエルモのクランハウスに来てくれ』


 富士からの連絡だった。


「……行かないとな。3人はどうする?」

「なにか、大切な用事があるのだろう?我らは、マナウスでカイを待つ。さらなる先へ進むなら、必ず声をかけてくれ」


 そうして、長い戦いを終えた俺は、いったんの別れを経て、マナウスへと帰還した。


 


 クランハウスに集まったメンバーの前で、錦がウィンドウを開く。


「最終クエストの概要が出た。最大一週間、その中で一度だけ挑戦できる特殊クエストだ」

「1週間の間で、1度だけ?」


 楓の呟きに頷く錦。ヨーシャンクが補足してくれたことをまとめると、今日ログインできていないプレイヤーも一定数はいる。そのプレイヤーたちにも物語の結末を届けるための措置じゃないか、とのことだった。


「そして、クエストの内容は全プレイヤーの個別対応型。参加者のこれまでのプレイログを参照し、内容にそったクエストが作成される。つまり、俺たち全員が辿った『物語』が反映されるということだ」


 その言葉に、アイラは首を傾げた。


「みんなで参加したら、私たちも戦うってこと?」

「いや、それはないだろう。あるとしたら、戦場の只中で何かを作る。くらいだろうな」


 富士が勢いよく立ち上がる。両の拳を打ち合わせ、やる気に満ちている。


「だったら今日、時間になったらすぐにでもやるべきだろ。全員そろってるんだし!」


 俺は仲間たちを見渡し、静かに頷いた。


「そうだな。俺もみんながどんなイベントを辿ったのか、詳しく知りたい」

「おうよ!王都ってやつの奪還、最後まで堪能させてもらおうじゃねえか!打ち上げはその後だ!」


 その言葉に全員が頷き、立ち上がった。

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