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失敗を集める少年  作者: 彩原 綴


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第4話 曲がった釘と小さな発見


次の日の朝。


ユウトは目を覚ますと、真っ先に木箱を開きました。


箱の中には三つの金色の種が並んでいます。


転んだ失敗の種。


木を欠けさせた失敗の種。


釘で指を打った失敗の種。


どれも小さいのに、不思議な存在感がありました。


「失敗ばっかりだな……」


ユウトはつぶやきました。


けれど以前のような嫌な気持ちはありませんでした。


もちろん失敗はしたくありません。


でも、その失敗が何か意味を持っているような気もするのです。


朝食を食べ終えると、ユウトは急いでおじいさんの工房へ向かいました。


昨日の巣箱作りの続きが気になっていたのです。


工房に着くと、おじいさんはすでに仕事を始めていました。


木を削る音が心地よく響いています。


シャッ、シャッ、シャッ。


まるで木が歌っているようでした。


「おはよう!」


「おう、おはよう。」


おじいさんは振り返って笑いました。


「今日もやるか?」


「うん!」


昨日のユウトなら、こんなに元気よく返事をしなかったでしょう。


でも今は違います。


少しずつですが、挑戦することへの怖さが薄くなってきていました。


「じゃあ続きをやろう。」


おじいさんは机の上に、途中まで作った巣箱を置きました。


ユウトは金づちを持ちます。


今日は屋根を取り付ける作業です。


「昨日よりうまくやるぞ。」


そう意気込んで釘を打ち始めました。


とん。


とん。


とん。


最初は順調でした。


ところが、少し油断した瞬間です。


カンッ!


釘が斜めに曲がってしまいました。


「しまった!」


慌ててもう一度叩きます。


するとさらに曲がります。


ぐにゃり。


まるで釣り針みたいな形になってしまいました。


ユウトは肩を落としました。


「また失敗だ……」


せっかく慎重にやっていたのに。


昨日より上手になったと思ったのに。


悔しくてたまりません。


おじいさんは曲がった釘を見つめました。


そして言いました。


「いい失敗だな。」


「よくないよ!」


ユウトは思わず声を上げました。


「釘がぐちゃぐちゃだよ!」


「そうだな。」


「失敗したんだよ!」


「そのとおり。」


おじいさんは平然と答えました。


それが余計にユウトを困らせます。


「じゃあなんでいい失敗なの?」


おじいさんは木箱から新しい釘を一本取り出しました。


そして机の上に置きます。


「曲がった理由は?」


ユウトは考えました。


「少し急いだ。」


「ほかには?」


「ちゃんと真っすぐ見てなかった。」


「なるほど。」


おじいさんはうなずきました。


「つまり次に気をつけることが二つ見つかったわけだ。」


ユウトは言葉に詰まりました。


たしかにそうです。


もし失敗していなければ、自分の悪い癖にも気づかなかったでしょう。


そのとき。


カタリ。


懐に入れていた木箱が震えました。


こっそり開くと、新しい種がひとつ増えています。


四つ目の失敗の種でした。


「また増えた……」


ユウトは小さくつぶやきました。


おじいさんには聞こえません。


けれど、どこかで見ている気がしました。


案の定です。


工房の窓際に小さな光が見えました。


星の精霊がちょこんと座っています。


こちらを見ると、嬉しそうに手を振りました。


ユウトは思わずため息をつきました。


(見てたんだ……)


精霊はにこにこしています。


まるで自分のことのように嬉しそうでした。


しばらく作業を続けた後、おじいさんは工房の奥へ行きました。


そして古びた木の板を持って戻ってきました。


「これを見ろ。」


板には無数の傷がありました。


切りすぎた跡。


削りすぎた跡。


釘を打ち損ねた跡。


失敗だらけです。


「これ、おじいちゃんが作ったの?」


「ああ。」


「下手だったんだね。」


ユウトが言うと、おじいさんは大笑いしました。


「その通りだ。」


ユウトは驚きました。


おじいさんほど上手な職人でも、こんなに失敗していたのでしょうか。


「昔は毎日失敗してた。」


「本当に?」


「もちろんだ。」


おじいさんは板をなでました。


「でもな。」


「うん。」


「この傷のおかげで今のわしがいる。」


工房の中が静かになりました。


窓から差し込む光が、古い板を照らしています。


「この傷はな。」


おじいさんは続けます。


「失敗の跡じゃない。」


「違うの?」


「成長の跡だ。」


ユウトは板を見つめました。


たしかに傷だらけです。


でも不思議と汚くは見えません。


長い長い時間をかけて積み重ねてきたものが、そこに刻まれているようでした。


「失敗すると。」


おじいさんは言いました。


「人は傷を見る。」


ユウトはうなずきます。


自分もそうでした。


失敗したら、失敗したことしか見えません。


「でもな。」


おじいさんは優しく笑いました。


「後になって振り返ると、その傷は道しるべになる。」


その言葉はユウトの胸に深く残りました。


夕方。


工房を出る頃には、屋根の片方だけがようやく取り付けられていました。


まだ完成には遠い状態です。


でも昨日よりずっと進んでいます。


家へ帰る途中。


ユウトは木箱を開きました。


四つの種が並んでいます。


よく見ると、最初に手に入れた種が少しだけ大きくなっていました。


「え?」


目をこすって見直します。


やっぱり気のせいではありません。


ほんの少しですが確かに成長しています。


その瞬間。


風とともに精霊の声が聞こえました。


「学んだからだよ。」


振り返ると、夕焼け空の中を精霊が飛んでいました。


「失敗すると種が生まれる。」


精霊は言います。


「学ぶと種は育つ。」


ユウトは箱を見つめました。


失敗は終わりではありません。


種を植えること。


そして学びは、その種に水をあげること。


そんな気がしました。


夕日は山の向こうへ沈みかけています。


空は金色でした。


まるで木箱の中の種と同じ色です。


ユウトは箱を胸に抱きました。


まだ失敗は怖い。


でも少しだけ思います。


もし失敗の先に宝物があるなら。


もう少し挑戦してみてもいいかもしれない。


そんな気持ちが、昨日よりほんの少し大きくなっていました。


次回 第5話「魚取り大会」


村の子どもたちが集まる魚取り大会の日がやってきた。参加を迷うユウト。しかし失敗を恐れる気持ちと挑戦したい気持ちが心の中でぶつかり合う。果たしてユウトは一歩を踏み出せるのだろうか。

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