↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失敗を集める少年  作者: 彩原 綴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/5

第3話 鳥の巣箱を作ろう


失敗の種を手に入れた翌日。


ユウトは朝から何度も木箱を開いていました。


箱の中には、小さな金色の種がひとつ。


昨日と変わらず、静かに輝いています。


「本当に失敗の種なのかな……」


指先でつついてみます。


もちろん何も起こりません。


食べ物の種のように見えますが、不思議な温かさがありました。


まるで生きているようです。


「ユウトー!」


そのとき、家の外から大きな声が聞こえました。


聞き慣れた声でした。


おじいさんです。


ユウトのおじいさんは村でも有名な木工職人でした。


家具や机はもちろん、おもちゃまで何でも作ります。


村の子どもたちは皆、おじいさんのことが大好きでした。


「おはよう。」


工房へ行くと、おじいさんは大きな木の板を前に立っていました。


木の香りが漂っています。


ユウトはこの匂いが好きでした。


何だか安心するのです。


「今日は暇か?」


「うん。」


「じゃあ手伝ってくれ。」


「何を?」


すると、おじいさんは机の上から紙を広げました。


そこには簡単な絵が描かれています。


四角い箱。


丸い穴。


小さな屋根。


「鳥の巣箱だ。」


「巣箱?」


「森の小鳥たちのためにな。」


ユウトは少しわくわくしました。


昨日見た小鳥を思い出したのです。


うまく飛べなかったあの小鳥。


もし自分が巣箱を作れたら、あの鳥たちが使ってくれるかもしれません。


「やる!」


思わず大きな声が出ました。


おじいさんはにっこり笑います。


「よし、それじゃあ挑戦だ。」


その言葉を聞いて、ユウトは少しだけ緊張しました。


挑戦。


その言葉は、失敗とセットになっています。


うまくできなかったらどうしよう。


途中で壊してしまったらどうしよう。


そんな考えが頭をよぎります。


けれど。


木箱の中の種が、かすかに光った気がしました。


「失敗は宝物だよ。」


星の精霊の言葉が浮かびます。


ユウトは大きく息を吸いました。


「やってみる。」


おじいさんはうなずきました。


「それでいい。」


まずは木の板を切るところから始まりました。


おじいさんが線を引きます。


「この線に沿って切るんだ。」


「簡単そう。」


ユウトはのこぎりを持ちました。


ぎこちなく動かします。


ギコギコ。


ギコギコ。


最初は順調でした。


ところが途中から少し曲がり始めます。


ユウトは慌てました。


まっすぐ戻そうと力を入れます。


すると。


バキッ!


木の端が欠けました。


「あっ!」


ユウトの顔から血の気が引きます。


「ご、ごめん!」


おじいさんを見ると、怒られると思いました。


けれど。


おじいさんは笑っていました。


「失敗したな。」


「うん……」


「じゃあ次はどうする?」


ユウトはぽかんと口を開けました。


怒られないのですか?


捨てるのですか?


そう思いました。


ところがおじいさんは欠けた部分を指差しました。


「どこで失敗した?」


「力を入れすぎた。」


「なるほど。」


「それで割れちゃった。」


「じゃあ次は?」


ユウトは少し考えました。


「ゆっくりやる。」


「正解。」


おじいさんは満足そうです。


まるで失敗を喜んでいるみたいでした。


そのとき。


カタリ。


木箱が震えました。


ユウトがそっと開けると、金色の種がもうひとつ増えています。


「増えた……」


思わず声が漏れました。


「どうした?」


「な、なんでもない!」


慌てて箱を閉じます。


星の精霊のことは秘密にしているのです。


作業は続きました。


今度は釘打ちです。


ユウトは慎重に釘を持ちました。


とん。


とん。


とん。


最初は順調でした。


ところが。


ガン!


「あいたっ!」


釘ではなく、自分の指を叩いてしまいました。


痛みで涙が出ます。


おじいさんは大笑いしました。


「職人なら誰でも通る道だ。」


「痛いよ……」


「わしも何百回もやった。」


「そんなに!?」


「もっとだ。」


ユウトは驚きました。


おじいさんほど上手な人でも、そんなに失敗したのでしょうか。


そのとき、ふと思いました。


もしかすると。


上手な人は失敗しない人ではないのかもしれない。


上手な人とは。


失敗しながら続けた人なのかもしれない。


午後になる頃には、ユウトの服は木くずだらけになっていました。


手も少し痛みます。


でも不思議と嫌な気持ちではありませんでした。


失敗はした。


たくさんした。


板も欠けた。


釘も曲げた。


指も打った。


けれど、そのたびに少しだけできるようになっている気がしたのです。


作業の終わり頃。


おじいさんが言いました。


「今日はここまでだ。」


机の上には、まだ完成していない巣箱がありました。


どこか歪んでいます。


屋根も傾いています。


でも昨日までのユウトには作れなかったものです。


「完成しなかったな。」


ユウトは少し残念そうに言いました。


するとおじいさんは首を振りました。


「違う。」


「え?」


「今日は立派に完成したぞ。」


「でもまだ途中だよ?」


おじいさんは笑います。


「今日は『失敗する勇気』が完成した。」


ユウトは言葉を失いました。


失敗する勇気。


そんなものを考えたこともありませんでした。


夕方。


家へ帰ったユウトは木箱を開きました。


中には三つの種が入っています。


最初の種。


板を欠けさせた種。


指を打った種。


どれも小さく輝いていました。


その光を見つめながら、ユウトは思いました。


失敗すると嫌な気持ちになります。


それは変わりません。


でも。


失敗しても終わりではない。


そこから何かが始まることもある。


そんな気がしてきたのです。


その夜。


窓の外に小さな光が浮かびました。


星の精霊です。


「どうだった?」


「いっぱい失敗したよ。」


精霊は嬉しそうに笑いました。


「おめでとう。」


「変な祝い方だなあ。」


「だって宝物が増えたから。」


ユウトは木箱を抱えました。


まだ信じ切れてはいません。


けれど、少しだけ。


本当に失敗が宝物なのかもしれないと思い始めていました。


そして、その箱の中で。


三つの種がわずかに光を強めていることに、ユウトはまだ気づいていませんでした。


次回 第4話「曲がった釘と小さな発見」


巣箱づくりを続けるユウト。しかし何度挑戦しても釘は曲がり、板はずれてしまう。落ち込むユウトだったが、おじいさんは一枚の古い木板を見せてくれる。そこには、失敗の本当の意味が刻まれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。