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失敗を集める少年  作者: 彩原 綴


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第2話 最初の失敗の種


次の朝。


ユウトは目を覚ますと、真っ先に机の上を見ました。


そこには昨夜、星の精霊にもらった木箱が置かれています。


朝日を浴びた木箱は、まるで生きているようにほのかに輝いていました。


「夢じゃなかったんだ……」


ユウトはそっと箱を持ち上げました。


温かい。


まるで誰かの手に触れているような心地よい温もりです。


昨夜の出来事を思い出しながら、ユウトは首をかしげました。


「失敗は宝物だ、なんて。」


どう考えても変な話です。


失敗してうれしい人なんているのでしょうか。


失敗すれば恥ずかしい思いをします。


怒られることだってあります。


悲しくなることだってあります。


宝物とは反対です。


ユウトは木箱を机の上へ戻しました。


「やっぱり変だよ。」


そうつぶやきながら朝食を食べに行きました。


食卓にはお父さんがいました。


仕事前なので少し急いでいるようです。


「おはよう。」


「おはよう。」


短いやり取りだけで会話は終わります。


お父さんは決して冷たい人ではありません。


でも職人の仕事は忙しく、いつも時間に追われていました。


朝食を終えると、


「行ってくる。」


と言って工房へ向かいます。


ユウトは少しだけ寂しい気持ちになりました。


けれど、その気持ちを言葉にすることはできませんでした。


食事を終えたあと、ユウトは村の広場へ向かいました。


今日も子どもたちは元気です。


広場ではレイやトムたちが走り回っています。


「ユウト!」


レイが手を振りました。


「川へ行こうよ!」


「魚取りするんだ!」


トムも元気いっぱいです。


ユウトは立ち止まりました。


行きたい。


少しだけ興味があります。


でも失敗したらどうでしょう。


魚を捕れなかったら。


川に落ちたら。


笑われたら。


そんな考えが頭をよぎります。


「ごめん。」


結局、ユウトは首を振りました。


「今日はやめておく。」


「そっかー。」


子どもたちは気にした様子もなく走っていきました。


その背中を見送りながら、ユウトは胸の奥が少しだけ痛くなるのを感じました。


自分だけ取り残されているような気がしたのです。


「帰ろうかな……」


そう思って歩き出したときでした。


昨夜の丘へ続く道の途中で、小さな鳥の鳴き声が聞こえました。


チチチッ。


チチチッ。


近くの木からでした。


見上げると、枝の上に小鳥が一羽います。


どうやら巣立ったばかりらしく、羽もまだ小さめです。


ところが次の瞬間。


バサバサッ!


鳥は飛び立とうとして、枝から落ちてしまいました。


「あっ!」


ユウトは思わず声を上げました。


小鳥は地面へ落ちます。


でもすぐに立ち上がりました。


そして羽をぱたぱた動かします。


再び飛ぼうとしました。


また落ちました。


三度目。


四度目。


五度目。


何度も何度も失敗します。


けれど不思議なことに、小鳥は諦めませんでした。


転んでも。


落ちても。


羽を震わせて挑戦し続けます。


やがて。


ふわっ。


ほんの少しだけ身体が浮きました。


小鳥は驚いたように鳴きます。


さらに羽ばたきます。


すると今度は一メートルほど飛びました。


そして隣の茂みへ無事に着地したのです。


「飛べた……」


ユウトは思わずつぶやきました。


そのとき。


ふいに声が聞こえました。


「失敗してたね。」


「わあっ!」


振り返ると、星の精霊が木の上に座っていました。


まるで最初からそこにいたかのようです。


「いたの!?」


「いたよ。」


精霊は平然と答えます。


「見てただけ。」


「びっくりさせないでよ。」


精霊はくすくす笑いました。


そして小鳥が飛んでいった方向を見ます。


「あの子、何回失敗したかな?」


「いっぱい。」


「でも最後は飛べたね。」


ユウトはうなずきました。


「そうだね。」


「最初の失敗がなかったら?」


「飛べなかったと思う。」


「二回目がなかったら?」


「それも。」


精霊は満足そうに笑いました。


「だから失敗は宝物なんだ。」


「まだよくわからない。」


正直な気持ちでした。


頭では少し理解できても、心は納得していません。


精霊はそれ以上何も言いませんでした。


ただ、


「じゃあ、自分で見つけてごらん。」


と言っただけでした。


昼過ぎ。


ユウトは家へ帰ることにしました。


考えながら歩いていると、道端に転がっていた小石に気づきませんでした。


つまずきます。


「あっ!」


どさっ。


派手に転びました。


ひざを地面に打ちつけます。


じんじん痛みました。


「いてて……」


最悪です。


誰にも見られていないのが幸いでした。


服についた土を払いながら立ち上がります。


「また失敗だ。」


その瞬間でした。


カタリ。


胸に抱えていた木箱が小さく震えたのです。


「え?」


驚いて箱を見ます。


ふたが少しだけ開いていました。


恐る恐る中をのぞき込みます。


すると。


何も入っていなかったはずの箱の中に、


小さな金色の粒がひとつだけ輝いていました。


「なにこれ……」


ユウトは目を丸くしました。


粒は種のような形をしています。


小さな小さな種です。


そのとき背後から声がしました。


「見つけたね。」


振り返ると、いつの間にか精霊がいます。


「これが失敗の種?」


「そう。」


精霊はうれしそうにうなずきました。


「転んだから生まれたんだ。」


「でも転んだだけだよ。」


「本当に?」


精霊は尋ねました。


ユウトは考えます。


そして気づきました。


「あ。」


「気づいた?」


「小石があった。」


「うん。」


「次は足元を見ようと思った。」


精霊は満面の笑みを浮かべました。


「それだよ。」


ユウトは箱の中の種を見つめました。


失敗したから気づいたこと。


失敗したから学んだこと。


その証が、この種なのでしょうか。


まだ信じ切れません。


でも。


昨夜よりは少しだけ信じてもいい気がしました。


夕日に照らされた金色の種は、とてもきれいに輝いていました。


そしてユウトは気づいていませんでした。


その種が、ほんのわずかに脈打っていたことに。


まるでこれから始まる長い冒険を喜んでいるかのように。


次回 第3話「鳥の巣箱を作ろう」


ユウトは木工職人のおじいさんから、鳥の巣箱作りに挑戦してみないかと誘われる。しかし、その挑戦は次々と失敗の種を生み出していくことになる。

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