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失敗を集める少年  作者: 彩原 綴


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第5話 魚取り大会


朝早くから、村はいつもよりにぎやかでした。


広場にはたくさんの子どもたちが集まり、大人たちもどこか楽しそうです。


今日は年に一度の魚取り大会の日でした。


村の川には、この季節になるとたくさんの魚が集まります。


子どもたちは網やかごを持ち、誰が一番たくさん魚を捕まえられるか競争するのです。


ユウトは家の窓から、その様子を眺めていました。


「楽しそうだなあ……」


思わず口から言葉がこぼれます。


本当は参加したい。


でも参加したら失敗するかもしれません。


魚が一匹も捕れなかったらどうでしょう。


転んで川に落ちたらどうでしょう。


みんなの前で恥をかくかもしれません。


そう考えると、足がすくんでしまいます。


そのとき、机の上の木箱が小さく光りました。


ユウトは箱を開きます。


中には四つの種が並んでいました。


最近では毎日眺めるのが習慣になっています。


「失敗は宝物か……」


まだ完全には信じられません。


けれど以前ほど否定する気持ちもありませんでした。


すると突然、窓の外から声が聞こえました。


「ユウトー!」


レイです。


広場へ向かう途中らしく、大きく手を振っています。


その隣にはトムもいました。


「早く来いよ!」


「今日は魚取り大会だぞ!」


ユウトは慌てて窓を開けました。


「ぼ、僕はいいよ!」


「えー?」


レイが残念そうな顔をします。


「去年も来なかったじゃないか。」


ユウトは返事ができませんでした。


去年も参加しませんでした。


その前の年も。


そのまた前の年も。


いつも遠くから眺めるだけでした。


「じゃあ行ってくる!」


二人は元気よく走っていきました。


ユウトは窓を閉めます。


胸の中に、なんとも言えない気持ちが広がりました。


参加したい。


でも怖い。


挑戦したい。


でも失敗したくない。


二つの気持ちがぶつかり合っています。


そのとき。


ふわり。


部屋の中に金色の光が現れました。


「おはよう。」


星の精霊です。


ユウトは驚くこともなくなっていました。


「また来たの?」


「来たよ。」


精霊は宙に浮かびながら笑います。


「魚取り大会だね。」


「うん。」


「行かないの?」


ユウトは黙り込みました。


精霊はしばらく待っています。


やがてユウトは小さな声で言いました。


「失敗したくない。」


精霊は意外そうな顔をしました。


「魚が捕れないかもしれないから?」


「うん。」


「川に落ちるかもしれないから?」


「うん。」


「笑われるかもしれないから?」


ユウトはうつむきました。


精霊は少し考えたあと、優しく言いました。


「でもね。」


「なに?」


「参加しなかったら、失敗もしないけど成功もしないよ。」


ユウトははっとしました。


その言葉は、おじいさんの言葉によく似ていました。


失敗を避ければ傷つかない。


でも成長もしない。


「どうする?」


精霊は尋ねます。


「決めるのはユウトだよ。」


部屋は静まり返りました。


外からは子どもたちの笑い声が聞こえます。


楽しそうな声です。


その声を聞いていると、胸の奥が少し熱くなりました。


行きたい。


やっぱり行きたい。


失敗してもいいから。


挑戦してみたい。


ユウトは立ち上がりました。


「行く。」


精霊はにっこり笑いました。


「いいね。」


川へ着く頃には、大会はもう始まっていました。


子どもたちが夢中になって魚を追いかけています。


「ユウト!」


レイが気づきました。


「来たのか!」


「うん!」


レイは嬉しそうに網を渡しました。


「一緒にやろう!」


ユウトは川へ入りました。


水は思ったより冷たくて気持ちがいい。


最初は慎重に魚を探しました。


銀色の魚が泳いでいます。


「いた!」


網を振ります。


しかし魚はするりと逃げてしまいました。


空振りです。


「逃げた!」


レイが笑いました。


でも馬鹿にするような笑いではありません。


楽しそうな笑いでした。


ユウトはもう一度挑戦します。


今度こそ。


そう思って網を振った瞬間。


つるっ。


足が滑りました。


「わああっ!」


どぼん!


派手な水しぶきが上がります。


ユウトは川の中へ座り込んでしまいました。


全身びしょ濡れです。


周りの子どもたちは驚きました。


そして次の瞬間。


わっと笑い声が上がりました。


ユウトの顔が真っ赤になります。


やっぱり失敗した。


やっぱり恥ずかしい。


胸がぎゅっと締め付けられました。


帰りたい。


そう思った、そのときです。


レイが手を差し出しました。


「大丈夫か?」


「え?」


「川の底、ぬるぬるしてるだろ?」


トムも言います。


「俺もさっき転んだぞ。」


「僕もだよ!」


別の子も笑いました。


「二回転んだ!」


「三回転んだ!」


笑い声が広がります。


でも誰もユウトを馬鹿にしていませんでした。


みんな失敗していたのです。


みんな転んでいたのです。


それでも笑っていたのです。


ユウトは呆然としました。


今まで、自分だけが失敗すると思っていました。


でも違いました。


挑戦する人はみんな失敗するのです。


そのとき。


カタリ。


懐の木箱が震えました。


こっそり開くと、新しい種が入っています。


五つ目の失敗の種です。


けれど、その種は今までより少し明るく輝いていました。


「どうしてだろう……」


ユウトはつぶやきます。


すると風の中から精霊の声が聞こえました。


「勇気の種だから。」


姿は見えません。


でも近くにいるのでしょう。


ユウトは立ち上がりました。


服は濡れています。


足も泥だらけです。


でも不思議と笑顔になっていました。


「もう一回!」


網を握り直します。


失敗するかもしれない。


また転ぶかもしれない。


魚を捕れないかもしれない。


それでもいい。


挑戦したからこそ見えたものがありました。


そして夕方。


大会が終わるころ。


ユウトのかごの中には、小さな魚が一匹だけ入っていました。


たった一匹。


けれどユウトにとっては、とても大きな一匹でした。


それは魚だけではありません。


勇気も一緒に捕まえた気がしたのです。


次回 第6話「一匹の魚と大きな自信」


初めて大会に参加したユウト。たった一匹の魚でしたが、その経験は小さな自信となって心に残ります。しかし、新たな挑戦がまた新しい失敗を連れてくるのでした。

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