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沿線のおと  作者: ゆずさくら


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7/11

迷走する捜査

 山道沿いの家に住んでいた夫婦は白石(しらいし)(いわお)澄江(すみえ)と言った。

 俺に血をかけた娘は由衣(ゆい)と言う名だった。

 娘は都心に出てから職場の人間関係に悩み、ノイローゼになっていたと言う。

 二人の夢の中に、娘が現れて俺がやってくることを告げたのだという。

 夫婦で同じ夢を見たという経験がなかったから、二人でどういうことだろうと話していた時、俺が来たのだという。

 俺は娘さんの幻影を見たとだけ告げて、それが殺されるところを見たとか、目のまえで首が取れたとか、そう言う話はしなかった。

 俺が見たのは現実では無い『はず』で、あたかも確定した情報のように伝えるのはおかしいと思ったからだ。

 俺は警察の久世さんに連絡して、この白石由衣さんの話をした。

 由衣さんは、このご夫婦から捜索願いが出ている状況だという。

 由衣さんの持ち物からDNAを取りたいと言っていた。

 俺と友達は、これ以上いても仕方ないので白石家をでた。

 車の中で、友達が言った。

「お前、犯人じゃ無いよな」

「なんだよ、どういうことだよ」

「俺とあっているときは別人格で、本当はお前がさっきの女性を殺していて…… って可能性だよ」

 だったらどうするんだ。

 俺はあの押入れの音をきっかけに別人格にでも変身しているのか。

 別人格が行ったことが、まるで夢のように思えているとでも?

「本当にそう思ってたら、本人に言わないよな」

「なんだよそれ」

「もし俺が殺人鬼だったらさ…… 今捕まって刑が確定している犯人ってなんなんだよ」

 そう考えて、何か寒気のようなものが背筋に走った。

 俺のアパートで起きた連続殺人事件は犯人が捕まっている。

「待って、さっき言ってた由衣さんの失踪時期って覚えてるか?」

「あの夫婦、はっきりとは言ってなかった気がするけど」

「久世さんに聞いた方が確実だった」

 俺はメッセージアプリで久世さんに連絡を入れた。

 もし、失踪届が犯人が捕まった後だったら……

 全く無関係な殺人事件の被害者の『霊』に苦しんでいることになる。

「霊障ってやつは、論理的だと思うか?」

 運転しながらのためか、反応が少し遅い。

「どう言う意味で言ってるんだ」

「あのアパートにも、俺個人にも、何もかも無関係なのに、俺に霊的な現象が起こるってことがあるのかな」

 運転のせいじゃない。きっと真剣に考えてくれているんだ。

「大抵の場合、社会や世の中は理不尽で、よく分からないことで被害を受けることがあるけど、こう言う現象って、ちゃんと『因果』があると思うよ」

 俺は期待していた答えを得ることが出来て、嬉しかった。

 もし、因果が正しいなら。

「聞いてくれるか?」

 ああ、とハンドルを握り、前を見ながらも返事をしてくれた。

「白石さんの件が、今捕まっている犯人がした殺人でないとしたら、俺に霊障が起こる理由として…… 一つ、アパートの告知が間違っていて、俺の部屋でも事件があった。二つ、今捕まっている犯人とは別の人が『現在進行形で』殺人を行なっている、んじゃないか?」

 車が信号で止まって、しばらく黙っていた。

 信号が青に変わり、車は走り出す。

 友達は喋り出さない。

「警察は、何を調べているんだろう」

「捜査上の秘密は言ってくれないんだよ」

「簡単に考えると、お前のアパートの近くで起こっている『霊障』について探っている。もし、それが現在捕まっている犯人が行ったことだとしても、刑は変わらない。死刑が確定しているからな。だとすると、警察が求めているものは、なんだ」

 そこを考えろ、と言うことなのだろう。

 同じ犯人の別の被害者、その考え方でいいのだろうか。

 もしタイミングが違えば、刑の確定した犯人が、過去、裁判を受けている時に、別の事件を起こしていたことになる。

「……」

 流石にこの連続殺人鬼の裁判中は、拘置所にいるだろう。

 外に出てきてまた殺人を繰り返すなど、ありえない。

「警察が追っている『霊障』は、別の殺人事件」

「まあ、それが妥当じゃないか」

 だとすれば、隣の事故物件側ではなく、俺の部屋の押入れがあやしい。

 だが、俺の部屋で事件が起こっているとすると友達が言ったように『俺』が二重人格で、俺が犯人ということになる。

「本当に不動産屋は何か告知を間違ってないか」

「まあ、間取り図を手に入れときな。確かめるんだな。実際の寸法とあってるか、とかね」

「妙に壁が厚いとか、そういうことか!」

 俺は何か興奮していた。

 友達にアパートまで送ってもらうと、俺は間取りを調べた。

 入居者募集のため、間取りを載せた広告がいくつかあった。

 部屋ごとのサイズを足して、建物の大きさとどれくらい違うかで壁の厚みがわかる。

 外に出て建物全体の長さを測った。

 パソコンを使ってプロットしてみたが、人が隠せるような壁厚はなかった。

「……」

 壁に人の遺体を隠せたとして、どうだというのか。

 俺はよく分からなくなっていた。

 不動産屋が俺に告知しなくてもいい、つまりまだ犯人が捕まっていない事件。

 人の遺体も出ていないし、犯人もわかっていない。

 この近辺で起こる霊障だけが頼りだとして、そんな事件の捜査方法があるか?

 警察は何か情報を隠しているんじゃないだろうか。

 電車が近づいてくる気配を感じた。

 俺はなんとなく隣の部屋の方に意識を向けていた。

 やっぱり変な『音』が混じっている。

 誰もいないというのは本当なんだろうか。

 だが、電車が通り過ぎるとそんな音は聞こえてこない。

 俺は押入れを開けて耳を澄ましてみた。

 その時、俺のスマホにメッセージが来た音がした。

「!?」

 いや、壁の向こうから何か別の音が一瞬、混じった気がする。

 ただ別の音は、考えても分からない。

 押入れの壁を見つめながら、俺はスマホを手に取った。

 メッセージは久世さんからだった。

『行方不明者届の受理日時を君に教えることは出来ないが、そのアパートの連続殺人に関係しているか知りたいみたいだから、前後関係だけ教えるね。白石さんが行方不明となった、正確にいうとご両親がそう認識したのは、犯人の裁判中だよ』

 俺は思い出していた。

 全ての夢が事実ではない、はずだ。事実だとすると、俺の部屋の戸口で彼女は手足首を落とされたことになる。

 だが、遺体を捨てるために切り刻んだという連続殺人犯の行動とは一致する。

 では、死んだ後に犯されていた夢は?

 両親と俺が会う夢は?

 俺に『殺して』と言う夢は?

 夢が暗示するのは、ほとんどが隣の連続殺人犯のことだ。

 共犯者が残っているのか、あるいは白石さんは行方不明になるもっと前から犯人と知り合っていたのではないか。

 疑問符だらけになった俺は、布団に入って寝ることにした。




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