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沿線のおと  作者: ゆずさくら


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6/11

知りえない事実

 部屋を内見した時に、押入れに感じた異常を無視するべきではなかった。

 貧乏を言い訳にして、部屋を選ぶ手間を惜しんでしまったせいだ。

 俺は布団に入ったまま、寝てしまった。

 また、夢がやってくる。

 日差しの中、曲がりくねった山道を走っていた。

 車だ。だが、この道は知らない道。俺の田舎とは違う。

 山道のような、細い道へと車が曲がる。

 山の森にある、小さな家。

 頑固そうな父親、黙って従う妻。

 なぜ、知りもしない老年の男女を見て、父、母と役割を振って見えてしまうのだろう。

 俺はこんな偏見を持っていたのか、と思う。

『ねぇ、あの()の夢、あなたも見たのでしょう?』

『だったらどうした』

『あまりに鮮明だったし、あなたも同じ状況を見たというから、気になってしまって……』

 俺は何を見せられ、聞かされているのだろう。

 老夫婦が見たと言う、娘の鮮明な夢。

 その時、扉のチャイムが鳴った。

 チャイムは夢の中ではなく、現実の部屋の機械が鳴る音だった。

 俺は目を開け、布団から出た。

 リアルでも、霊でも、今日扉に立ったどちらも良いことはなかった。

 俺は覗き穴を使わず、いきなりドアチェーンをしたまま扉を開けた。

「誰?」

「ああ、俺だよ。お前、バイトないし、なんの予定もないんだろ?」

 俺は声を聞いて、足先から目線を上げた。

 バイト先で友達になった男だ。

「住所、知ってたっけ?」

「ここ例の事故物件だからな、忘れても調べられる」

「で、何のよう?」

 友達は鍵を目の前に持ち上げて見せた。

 自動車メーカーのマークが入っている。

「ドライブしないか? ガソリン代とかはいらないよ。ここにいても気が滅入るだけだろ?」

「……ちょっと待って」

 俺は一旦扉を閉め、ドアチェーンを外して開け直した。

「まあ、入れ」

 テーブルに水を入れたコップを出した。

「水しかないが」

「ありがとう」

「さっき、警察がきた」

 友達は驚いた顔をした。

「何したんだよ」

「血を浴びてた」

「はぁっ!? 意味が分からん」

 俺は出来事の経緯を説明した。

「……そりゃ、素人が霊を祓おうとしても無理なんじゃないか。逆に拗らせたのかも」

「死体は消えたから、絶対血も消えていると思ってた」

「多分、俺もそう思った」

 その血のついた服を警察に渡した、と言おうとして、やめた。

 捜査上の秘密を、こいつに教えてしまうことになる。

「まあ、いい。そんなことがあったなら、余計にこの部屋に居たくないだろう。ドライブ行こうぜ」

「ああ、行くよ。コンビニで買った飯持って行っていいか?」

「そんなこと聞くまでもない。それより準備はいいの?」

 俺は頷いた。

 冷蔵庫からコンビニ飯を取り出し、レジ袋に入れた。

 友達についていくと、ハザードを出した車が止めてあった。

 俺は助手席に乗り、友達が運転するまま、流れていく景色を楽しんでいた。

 友達が運転する中、俺は助手席で飯を食った。

「俺が運転してるのに、よく食えるな」

「体幹がいいからな」

「そういう意味じゃない」

 俺は飯を食ったら、眠くなってしまった。

 助手席でうとうとしていた。

 すると、急に窓が開いて涼しいというか冷たいぐらいの風が吹き込んできた。

「俺が運転してるのに寝るなよ」

「すまん」

 俺は目を開けた。

 外の風景に見覚えがある。

「ここ、どこだ?」

「しらねぇ。俺もなんとなく運転してた」

「……」

 友達は、まっすぐな舗装道路で減速すると、いきなり山道へ曲がった。

「どこに向かってる?」

「うん。そう思うよな。俺もそう思うんだけど……」

 友達の様子が変だった。

「なんか、分からないんだ。こっちに行かなきゃな。そう思うんだ」

 進んでいる道には、俺なりの答えがあった。

「……俺が見た夢と同じ道」

「なのか?」

「ああ……」

 俺は揺れる車内で、フロントグラスへ身を乗り出していた。

 確かこの先に小さな家があって……

「この家だ」

「止めるってのか?」

「とめろ。この家の夫婦に聞きたいことがある」

 友達は車を路肩に寄せて止めた。

 俺はその家のベルを鳴らした。

「どなた?」

 女性の声だった。

 夢の中で見た人の声と同じだ。

「娘さんのことでお話ししたいことが」

「お待ちください」

 扉が開くと、そこに女性が立っていた。

 女性の肩越しに、黒い鉄の筒が伸びてきた。

 猟銃!?

 家の影から男の声が聞こえてきた。

「まず名前を名乗れ」

音無(おとなし)(れん)です」

 奥さんが、後ろを向いて旦那が構えている銃を下ろそうと働きかける。

 流石に銃を持った腕を強引に引っ張るのは危険だと思っているのか、そっと手を触れる程度だった。

「で、娘がどうした」

「俺に娘さんの写真を見せてください」

 銃口がピクッと動く。

「……撃たれたいのか?」

「お父さん、もしかしてこの人、娘が言っていた人じゃ」

 やっぱり…… 俺は確信した。

「夢であなたの娘さんを見たのかもしれないんです」

「……」

 銃を構えた父親が合図すると、奥さんがスマホを取り出し、急いで操作を始める。

 しばらくして俺に見せた画面には、夢の中で殺された女性が映っていた。




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