通報
布団の中で悶々としていると、玄関のチャイムが鳴った。
三度目の正直、と思って扉の覗き穴を覗いた。
その姿を見て、思わず声が出そうになる。
制服の警官が立っている。
け、警察? まさか、血だらけだったから? 通報された???
すぐに鍵を開け、ドアチェーンも外した。
「何でしょう?」
しまった!
思ったが、声には出さなかった。
俺はすぐに扉を開けるべきではなかった。
着替えたり顔を洗う時間が必要だった。
だがもう遅い。
完全に血を浴びた姿を警官の前に晒してしまった。
「コンビニの店員さんが、あなたが何か事件に巻き込まれているのではないかと、警察に通報されていまして」
「……」
制服の警官に気を取られていたが、もう一人、横にスーツの男が立っていた。
スーツの男が、ゆっくりと警察であることを示した後、口を開いた。
「ありのままに話してください。突拍子もないことでも、受け入れますので」
俺が何も言っていないうちから『突拍子もないこと』と言ってきた。
起こっている事態を飲み込めないまま、困惑していた。
「よろしければ中に入っても良いですか?」
「……」
俺は警察官二人を部屋に入れた。
制服の警官は三枝、私服の警官は久世と言った。
俺は服に血がついた経緯を、そのまま話した。
「……と、そんな感じです。信じてもらえないでしょうけど」
「いいえ。信じます」
私服の久世が言った。
「私は、このアパートの連続殺人事件、まだ被害者がいると思っているんです」
ただでさえ九人殺しているというのに、まだ被害者がいるというのか。
「彼に協力してもらって、このエリアでの変わった事件があると調べているんです。こんなふうに」
制服の三枝が口を開く。
「あなたのように、このアパートで起こる事件は、ちょっと変わったものが多いんです。私は被害者の中に霊的な加護を受けていた人がいたのではないか、そんなふうに考えています」
「可能なら、その服を提出いただけませんか。ついた血痕を証拠としていただきたいんです」
「えっ?」
もしかして、俺が犯人にされてしまうのではないか。
スーツの久世が、俺の気持ちを察したように言う。
「大丈夫です。現段階で、あなたが不利になることはありませんから」
「本当ですね? であれば提出します」
「被害者の実家などから採取したDNAがあります。比較すれば、身元がわかっている被害者のものか、それ以外のものかわかります」
俺は考えた。
「あの、もしその結果がわかったら教えてくれませんか」
久世はため息をついた。
「申し訳ない。これは捜査上の秘密になってしまうので、結果をお伝えすることはできないんです」
ここまで話したのに、そこから先は言ってくれないのか。
俺の不満気な顔に気づいて、制服の三枝が怒った感じに言う。
「つ、捕まえても良いんだぞ。血を浴びた男が通りをうろうろしていたら、普通なら……」
「やめろ」
久世がそう言って引き留めた。
「あなたに聞こえる音の話や、見られる夢も、なかなか面白いものです。もしまだこの部屋にお住まいになるつもりなら、進展があったとき教えて欲しいのです」
久世はスマホの画面を見せてきた。
メッセージアプリの『フレンド』になってくれということらしい。
渡すために服を着替えた。
ただ何に利用されるかわからないから、俺は念の為脱いだ服の写真を撮っておいた。
それから証拠品として制服の警官に渡した。
「それでは」
俺は警察官を見送ると、部屋の鍵を閉めて、布団に入った。
相変わらず食欲がでない。
どうしてこんな失敗をしたのか、後悔ばかりが思い返される。
事件にもならない霊障について、警察が調べているというは不思議な気がした。
何か見込みがあってのこことかもしれない。
それが何かは分からない。
形にならない思いが、ため息となって口から出ていた。




