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沿線のおと  作者: ゆずさくら


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2/11

奇妙な音

 部屋に引っ越し、片付けもままならないまま大学が始まった。

 四月はとにかく色んなことがあって、ゆっくりと考える暇もなかった。

 だからそれ(・・)に気づいたのは、ゴールデンウィークが始まった時だった。

 バイトも始めていたが、あまり割のいいものではなかった。

 金なし状態が続いていて、休みができてもバイトを入れるぐらいしかやることがなかった。

 バイトもバイトで、思った日、時間に入れるわけではなかった。

 要するに金もないのに暇だったのだ。

 自然と部屋で過ごす時間が増える。

 そこで俺はその時間を使い、この部屋で聞こえてくる奇妙な音に気づいた、という訳だ。

 音は、不思議なことに電車が走っている時に起こった。

 まるで、電車の音がうるさいから、かき消えるだろうという狙いをもって発生したようだった。

 加えてその音は日中の電車通過時には発生しない。

 聞こえるのは決まって夜だった。

 正直に言えば、音への気づき自体は住み始めた当初からだった。

 それはギシギシと、重いものを揺さぶるような音だった。

 だから、初めはアパート自体が軋んでいると思っていた。

 最近になって、同じような電車が来ても『鳴る』時と『鳴らない』という不自然さに気づいたのだ。

 気になり始めると、余計に聞こえるようになってくる。

 音が聞こえてくる方向も分かってきた。

 それはニ○三号室側から聞こえてくる。

 話が戻るが、ここに引っ越しした時の挨拶は、郵便受けに粗品と共にメッセージを添えて済ませた。

 だから、アパートに住んでいる住人とその時点でもほぼ顔を知らない状態だった。

 部屋に住んでいるのか、いないのか。

 それすら曖昧だった。

 アパートは一階に各部屋の郵便受けが設置されていた。

 自分の郵便受けにばかり気が取られていたが、よく見てみるとそこに人が居る、居ないのヒントがあった。

 自分の郵便受けにも、よくわからないチラシが入れられていたが、他の部屋の郵便受けにも同様に入っている。

 そして部屋に人が住んで入れば、見るなり、抜いて捨てるなり、なんらか処理をするものだ。

 階下の一○五はチラシが溢れたことがない。

 一○三はたまにチラシがはみ出ているが、溢れることはない。

 問題のニ○三は、チラシが溢れていた。

 そこから判断すると、ニ○三は住んでないか、相当にズボラな人間が住んでいるのだ、と推測した。

 変な音が聞こえてくるのだから、部屋に誰か住んでいるに違いない。それも、変な人が……

 小さな振動が始まったことから、そろそろ電車が来ることを知った。

 俺は隣との境、押入れで聞き耳を立てていた。

 電車の音でうるさい状態になった時、隣の部屋からそのギシギシ揺れるような音が聞こえてきた。

 ああ。

 俺は音から、ある行為を想像した。

 男と女が愛し合う行為だ。

 わざわざ、電車の音に合わせて『ちょっと』だけするのがあり得ないだけだ。

 チラシを処理しない、相当変な人なので、電車に合わせてする(・・)のが好きなのかもしれない。

 すぐに次の電車がやってきて、またそれと同じような音がした。

 しばらく電車が行き交って、音が鳴り止まないと、ギシギシ音もそれに合わせて続いた。

 俺はバカバカしくなって、押入れを出て寝てしまった。

 貧乏人には彼女を作る余裕はない。

 その日、俺は夢を見た。

 男女が折り重なって行為(・・)をしている夢。

 ちょっと変わった短髪の男と、どこか暗い、影のある女性。

 どうしてその組み合わせで夢を見たのか、全く分からなかった。

 男が馬乗りになって行為をしている間中、女は俺に気づいて、俺をみていた。

 まるで押入れに覗き穴があり、隣の部屋を見ているような気分になった。

「……」

 俺は落ち着かない気持ちで目が覚めた。

 背中にぐっしょりと汗をかいていた。

 俺は無性に喉が渇いていた。

 金がない俺は、いつもなら水道水で喉を潤すのだが、財布を握りしめて外に出た。

 いつも目をつけていた安い自動販売機でコーラを買うと、そのまま道を戻った。

 帰ってきた時、自分のアパートのゴミ捨て場近くに人影を見つけ、俺は少しだけ興味を持って 様子を伺うように回り込んだ。

 ゴミ捨て場にいた人は、ゴミ捨て場の扉の前でしゃがんでいた。

 俯いていて長い髪が顔にかかっているから、顔がはっきり見えなかったが、俺は知っている。

「!」

 夢に出てきた女だ。

 俺は驚きに、尻もちをついてしまった。

 持っていたコーラを確かめてから、もう一度ゴミ捨て場に視線を戻すと、そこに人影は無くなっていた。

「ど、どういうこと?」

 と、思わず考えを声に出していた。

 俺は怖くなって、急いで階段を上がり、自分の部屋に戻った。

 コーラを開け、缶のまま口をつけて飲んだ。

 夢とゴミ捨て場に出てきた女のことを考える。

 元々、知っている人物の顔ではない。

 夢が初見で、今さっき、ゴミ捨て場で『見たような気がする』のが二回目だ。

 好きな芸能人でも、過去同じクラスになった女子でもない。

 だから好みが現実化した、ということもでもなさそうだ。

 どうして、あの顔、あの姿ではないといけないのか。

 AIに創造させたこともない。

 俺は余計なことを考えて、怖くなった。




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