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沿線のおと  作者: ゆずさくら


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視野狭窄

 俺は本格的に準備をした。

 何度もシミュレーションしてみた。

 しかし、これなら大丈夫だとは、いつまで経っても思えなかった。

 それでも俺はやるしかないと決めた。

 どんな困難と危険があってももし隣人が犯人なら、それを暴いて警察に突き出してやる。

 待ち合わせ日と思われるその日まで、大学にも行かずにいた。

 ようやくきた当日。

 俺は時間より早く待ち合わせ場所に行ってしまった。

 待ち合わせ場所にいる人を見て、どの人が隣人と待ち合わせているのかを探す。

 そうか。

 俺は掲示板に書き込んだ相手を特定した。

 しばらくして、隣人がやってくる。

 俺は聞き耳を立てる。

「君、掲示板の人?」

「えっ…… あなた、ですか」

 隣人は頷く。

「書き込みと声の印象が違うね」

「よくそう言われます」

「あれ持ってきた?」

 何かを隣人に見せている。

 おそらく通帳と印鑑だ。

「じゃ、そこで下ろせるか見せて」

 二人はATMコーナーに入っていく。

 通帳と暗証番号の入力で、現金を取り出して見せた。

 ATMコーナーから出ると二人は、黙ってアパートに向かう道を進み始めた。

「……」

 もうそのまま、部屋に連れ込み殺してしまうのだろうか。

 俺は強い不安を覚えた。

 少なくとも声を発すれば、あの基板のおかげで聞くことができる。

 どれだけ自殺願望が強くても、ずっと無言で過ごすとは思えない。

 何も言わずに死なないでくれ。

 俺は祈った。

「さあ、入って」

 隣人が言った。

「お邪魔します」

 歩いているのだろう。部屋の床を踏む音がする。

『ちょっと待て、お前食事してんだろ?』

『何?』

『吐けよ』

 何をしているんだろう。

『自殺するって言ったろう。なんでもの食べてくんだよ』

 指を突っ込まれたのか、えずき音がする。

 続けて、何かが水に落ちる音。

 次々に食べたものが口へと戻っているのだろう。

 吐いているような不快な音が聞こえ続ける。

 しばらくしてトイレの水を流す音が聞こえる。

 うがいで口をゆすぐ音。

『ここで?』

『ここが一番密閉が高いらしい』

 扉が開く音がする。

『遺書』

 妙に音がない、変な静けさが続く。

『睡眠薬』

 隣人の声がそう言うと、ジャッ、ジャッと錠剤が大量に取り出された音がする。

『これくらいでいいだろう』

『……』

『飲めよ』

 なんだろう。よくわからない時間があく。

『トイレ』

 扉が閉まる音がする。

 蛇口をひねる音、水が出る音。

 しばらくの無音。

 妙な静けさ。

 トイレをする音だろうか。小さく液体がはねる音。

 タンクのレバーをひねる音と、トイレに水が流れる音。

 鍵があき、扉が開く音。

『飲んだな?』

 妙な静寂。

『念の為、もう少し飲んでおけ』

『君は飲まないの?』

『俺が練炭用意するんだから俺が先に寝たら二人とも死ねないっての』

 無音になるとドキドキする。

 二人で死ぬ。

 確かに掲示板にはそう読めるように書き込みされていた。

『だから飲め。俺の見ているところで』

 トイレでした小さく液体が跳ねる音を、隣人は錠剤をトイレに捨てた音と思ったのだろうか。

 どちらも死にたいなら睡眠薬をいくら飲んでもいいはずだ。

 水をすするような音が聞こえる。

『よし、中に入れ』

『君も一緒に死んでくれるんでしょ』

『ああ』

 足音がする。

 何か重いものを置いた音も。

『これが練炭?』

『ああ。見たことないのか?』

 静寂。

『暖かくないのね』

『まだ火がついてないからな』

 静かになる一瞬に何が行われているのか気になる。

『目張りするから、そこに座ってろ』

『うん』

 その時、何か振動する音が聞こえた。

 スマホのバイブレーションだ。

『おい! スマホ』

 揉み合っているような音。

 擦れるような音や、鈍く響く音。

 殴られたのだろうか……

『遺書を書いたら、スマホは置いておく約束だぞ』

『……』

 やばい。

 ここで入るべきだろうか。

 あやしければ、この時点でスマホを使って連絡することもできたはずだ。

 会話の流れからスマホを奪われてる。

 どうする……

 考えている間に、時間は経っていく。

 静かになった時間がどれくらい続いたかわからない。

 眠ってしまったのか?

『おい』

 これは隣人の声だ。

 肌を叩くような音。

 反応がないのか。

『……寝たな』

 続けて、微かに息が漏れるような音が聞こえた。

 想像できる。

 きっと、隣人(あいつ)は笑っているんだ。

 俺はどうにもらならない悔しさと怒り、そして恐怖を感じた。




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