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沿線のおと  作者: ゆずさくら


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13/19

殺意

 大学に着くと、俺はすぐに久世(くぜ)さんにメッセージを入れた。

 隣部屋に怪しい人が引っ越してきたこと。

 処刑のような幻覚を見たこと。

 処刑された男が逮捕される様子を夢に見たこと。

 処刑された男は、隣部屋を指さしたこと。

 最後に俺は書いた。

『憶測ですが、引っ越してきた男は、犯人として逮捕された男と共犯だったのでは?』

 この俺のメッセージが読まれているかわからない。

 午前中、何度か見ていたが『既読』にはならなかった。

 昼ごはんを食べ、午後の授業を受けていると着信があった。

 授業が終わってから、スマホを確認するとメッセージが入っていた。

『隣人のことを詳しく聞きたい』

 バイトもなかったし、部屋に帰るのも怖かったので、俺は久世さんが会おうと言ってきた場所に向かった。

 警察署の近く、というわけでなく交通量の多い場所だった。

 スマホが示した道を歩き始めて、少し絶望した。

「ここを歩くしかないのか?」

 側道は雑草がたくさん生えていて、体を少し車道に出さないと歩けない程だった。

 渋滞する場所から解放されるからなのか、後ろからくる車は、ことごとくスピードを出して追い抜いていく。

 俺は車の音を聞きながら、大きなトラックが近づいてくるような時、立ち止まるようにして歩いた。

 しばらくすると、そんな道を歩くのにも慣れ、車が避けてくれることを期待し、あまり立ち止まらなくなっていた。

 スマホに久世さんから音声電話の着信が入った。

「もしもし?」

『今どこ?』

 俺は道路を歩いていることを説明した。

『もしかして見えているのが君かな。手を振ってみて?』

「えっ、どこから見えるんですか?」

 手を上げると同時に、ぐるりと周囲を見回した。

「!」

 バイク。

 それはサイドカーが付いている、大きな車両。

 迫っている。

 判断が出来ず、足が動かない。

 間に合わない。

 ようやく、俺は路肩の草に向かって体を投げ出す。

 大きな衝突音が響く。

 当ってしまった……

 ダメだ……

 足がやられた。

 俺の体は、変な回転をしながら、草むらに落ちる。

 草が顔を中心に、露出している体のあちこちを傷つけた。

 サイドカー部分に踏まれていないだけ、マシだった。

 体が下に入ってしまったら、大変だった。

 ギリギリで体を投げ出したおかげで、足が浮いたところを、サイドカーのボディに弾かれたのだろう。

 あと、靴が吹き飛んだことで、体に響く衝撃が少し和らいだのかもしれない。

 俺はあちこちに痛みを感じながらも立ち上がることができた。

『もしもし? なんか変な音がしたけど』

「……えっと、今、バイクにはねられて」

『だ、大丈夫なのか?』

 俺は歩く前方の方を見た。

 どう考えても、待ち合わせの場所は見えない。

 見えた、というのは誰かと勘違いしたのだろう。

「今、靴が飛ばされて、それを拾いにいくところです」

『今日はやめておくか?』

「いえ、もうここまで来たんですから」

 そう言って電話を切った。

 俺は車に止まってもらい、道の真ん中に落ちている靴を拾った。

 後ろからクラクションをバンバン鳴らされて、止まってもらっている車には申し訳なかった。

 靴は、最初に当った衝撃と、走行中の車に踏まれ、弾かれ、ボロボロになっていた。だが、裸足で歩くよりはマシだった。

 足の痛みもあって、ゆっくりと側道を歩いていると、再び音声電話の着信が入った。

『もしもし、悪いけど事件の連絡が入ってしまって』

「多分、もう少しなんですけど」

『悪い、またこっちから連絡する』

 そして電話を一方的に切られてしまった。

 引き返すか考えた末、まず待ち合わせの場所まで行ってみることにした。

 ロードサイドの全国チェーンのカフェ。

 店の中には入らなかったが、なんとなく気になったことがあった。

 駐車場に止まる車で囲われていて、あまり道の方は見えない。

「……」

 帰ろう。

 どうも気になる。

 金は惜しかったが、反対車線に渡ってバスに乗った。

 同じ道を歩いて戻るのは怖かった。

 バスに揺られながら、俺は考えた。

 さっきのバイクが、久世さんが指示したものだったら……

 そもそも警察が『霊障』を調査するのだろうか。

 胡散臭い感じがする。

 夢で見たとか言う俺から、警察は何を聞き出したいのか。

 身分証を見た時に信用してしまったが、もしかするとこの久世が、処刑された犯人の共犯者なのではないか。

 処刑された犯人は、裁判で勾留中であり、白石さんを殺害することは出来ない。

 俺の部屋にきて、突然血を吹いた霊は白石さんのものだ。

 当然、シャツに浴びた血も。

 自分で殺して、その事件を自ら捜査していれば、好きなように事件をコントロールできる。

 隣部屋で起きた連続殺人事件では、犯人と被害者になんの繋がりはない。

 ただ、掲示板で繋がった希薄な関係。

 この関係は、久世にも都合がいい。被害者と久世の繋がりが希薄で、捜査上にその関係が浮かび上がらない限り、久世が捜査を外される恐れはないわけだ。

 これから、どうする。

 俺は悩んだ。

 親に金を借りてでも、引っ越すか。

 引っ越してしまえば、この事件に関わることもない。

 二度と変な夢も見ないし、玄関先に現れた霊に血をかけられることもなくなる。

「……」

 いや、夢を見ないとは限らないか。

 バスを降りて、アパートに向かう。

 人通りが多いと、なんでもない視線まで気になるようになってしまった。

 どこからか見られている感じがする。

 その先からくる人が、ナイフを持って突っ込んできたら。

 そしてナイフが生きていくのに重要な臓器を破壊したら。

 どれだけ早く救急車で運ばれても、助からない。

 同じ速度で、後ろを歩いている人が怖い。

 立ち止まってみたり、急に方向を変えてみたり、まるで頭がおかしくなったようだった。

 神経を張り詰めたままアパート近くまでくると、今度は別のことが頭をよぎる。

 隣部屋からナイフを持って、男が出てくるのはないか。

 隣部屋に引き込まれるのではないか。

 ゴミ捨て場から飛び出してくるのではないか。

 アパートに近づいたところで、俺は完全に立ち止まってしまった。

 俺はバイト先の友達に電話をかけた。

「今日、泊めてくれないか」




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