続く掲示板
部屋に入ると、俺はもらったデータを見ていた。
ガラケー時代の掲示板だが、あまり時代が古く感じない。
多少、表現が不明なものもあるが、そう言った古いネットスラングや死語も見ていくうちに覚えていった。
例のマイクロSDを使っていた女性は、自殺願望を書く掲示板に頻繁に出入りしていた。
なんで死にたいか、どう死にたいか、そんなことをしきりに、つぶやくように書き込んでいる。
掲示板は、そんな死にたい自慢が、ひたすら自己アピールする場になっていた。
調べていくうち、掲示板に詳しくなっていく。
なんでこんな掲示板が大っぴらに存在して、書き込まれているのか。
掲示板にはルールがあって、管理人が調整しているのだ。
ヤバい書き込みは、消されていく。
なるほど、と思いながら掲示板を追っていく。
ただ、彼女の書き込みは深刻になっていた。
「こいつ」
時折、気になる書き込みをする者がいる。
そいつは、いついつ、一緒に死にませんか、と書き込む。
時間や、具体的な場所や、一緒に死のう、などの書き込みは、矛盾して見えるが自殺掲示板のルールから外れているのだ。
それは本当に自殺や殺人幇助とならないための運営ルールだった。
だから、本来ならそれらを書き込みは消えて、いや消されているはずだった。
「何でコイツの書き込みが残ってるのか」
掲示板を調べ直す。
書き込み内容がヤバげなものを狙ってこいつが反応している。
一緒に死のう、という書き込みに、突然書き込みがなくなるアカウントもあり心配になった。
そして、携帯の持ち主の書き込みにも、そいつが反応した。
掲示板へ直接の書き込みはないが、書き込みが呼応している。
「……」
掲示板前後のガラケーの動きを見ると、ショートメッセージの受信があったようだ。
「こんなことまで残るのか」
内容を見ていると、少し怖くなる。
持ち主は、ある男性の誘いで会うことにしたようだった。
二人で自殺をするのだろうか。
残っているメッセージに書かれた場所の名に心当たりがあった。
「割と近いな」
俺は、独り言を言った後、この一緒に自殺をしようとコメントしている『奴』に気づいた。
こいつが、隣部屋を『事故物件』にした犯人に違いない。
この近くで会って隣の部屋に連れ込み、殺した。
スマホを持っている手が震えた。
「なんでそんな人のマイクロSDが俺の郵便受けに?」
考えても分からない。
そもそも、被害者の名前はもう消えている。
当時の噂として、推定を行ったサイトのWeb魚拓が残っているだけだ。
被害時期や、書き込みの雰囲気から引き当てるしかない。
俺は、そのWeb魚拓を見て、一人の人物名を見つけた。
「雨宮しずく。多分、このガラケーはこの人のものだろう」
隣部屋で起きた連続殺人は、ガラケー時代だったのか。
俺はそれすらよく分からなかった。
確かに、隣の事件は、すでに犯人が捕まって裁判も終わり、後は執行を待つだけなのだ。
「……」
白石さんの失踪は犯人の裁判中だったという。
このマイクロSDは別の女性のガラケーだから、白石さんの件とは無関係だろう。
けれど、わざわざ俺を脅かして、この『マイクロSD』に気づかせたのは白石さんだ。
俺は首を捻った。
この掲示板がスマホになった今も、どこかで引き継がれているのだろうか。
同じような書き込みをする奴が、まだいるということか。
俺はガラケーに記録されたデータが、今も、ネットのどこかに記録されていないか調べた。
すると、ある掲示板が見つかった。
過去ログとして、このガラケー時代のログが載っていたのだ。
中身を確認すると、確かにこのマイクロSDに残っていた掲示板に繋がった。
「まさか」
スマホの掲示板の内容を同じように追っていく。
この内容には、識別子がついていて、同じ日の書き込みならハンドル名が同じでも誰の発言かが区別出来るのは同じだ。
だが、白石さんの書き込みがどれだかは分からない。
白石さんの識別子など、俺は知らないからだ。
掲示板を見ていると、別のことに気づいた。
「こいつ……」
ガラケーの持ち主を誘った場所に、スマホの掲示板で誘う書き込みをしている者がいた。
識別子はガラケーのものとは違っているが、言葉遣いの癖なども似ている。
俺は新聞記事やウィキなどを見て、この頃、捕まった犯人がどんな状態なのかを確認した。
この時期は裁判で争っている頃だ。
つまり、こんな書き込みをしたり、自殺願望のある人物とあったりは出来ない。
内容的にはガラケー時代の掲示板で目をつけた奴と同じ。
けれど、これは犯人のものではない、と判断せざるを得ない。
犯人が裁判中だからだ。
「……結論としては、こいつじゃないってことになる」
それでも俺の直感はいう。
こいつが犯人なのだ。
わざわざこんな掲示板に跡を残すような奴。
裁判中は、拘置所にいるはずだ。
犯人はこんな掲示板に書き込むことも、白石さんに会うことも出来ない。
考えていると何度もこの問題にぶち当たる。
根本的な何かが間違っているように思うのだ……




