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沿線のおと  作者: ゆずさくら


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死刑執行

 朝起きて、学校に行く支度をした。

 大学につくと、一コマめの授業を受けた。

 次の教室へ移動する時に、ふとスマホのニュースアプリを開くと、『死刑執行』のニュースが入っていた。

「……」

 よく読むと、隣部屋で起こった連続殺人犯の死刑だった。

 ガラケーのメモリを調べてくれたクラスメイトが、近づいてくると声をかけてきた。

「どうした?」

「いや、俺の隣部屋で起こった連続殺人事件の犯人の死刑が執行されたんだよ」

「ちょっと前に通常国会が終了してたな。国会で追及されると面倒だから、終了のタイミングでハンコを押したんだろ」

 実際の人間の死が、こんな気楽に語られることがあるだろうか。

 俺は話している内容を重みを考えて怖くなった。

「事件が話題になれば、わざわざ情報を探さなくても皆んなが掘り返してくれるから楽じゃねぇか。あれ、もう調べてないのか?」

「いや、まだ調べてるよ。調べてるけど……」

「何かあるのか?」

 俺はクラスメイトに、事件が終わっていない気がすることを言った。

「複数犯だったということか」

「考えを整理するとそうなる」

「どっちが主犯だったかによっては、今回の死刑執行って問題になるんじゃね?」

 俺はなぜか、罪悪感を持ってしまった。

 別の犯人がいて、別の人を殺している。

 知っていてなぜ言わなかったのか、ということだ。

「いや、白石さんは失踪しただけ。殺されている証拠はない」

 自分を正当化するために、言い聞かせる。

 俺が確認したのは『霊障』までだ。

 霊障は『生き霊』と言って生きている人でも起こすことがあるらしい。

 必ずしも白石さんが死んでいるか、俺は知らないのだ。

 大学からアパートに戻る間、ずっとそんなことを考えていた。

 俺は郵便受けを確認して、ポスティングされたチラシを回収した。

 同じチラシが、郵便受けの下に捨てられているのを見た。

「……」

 俺は請求書を踏みにじられていたことを思い出した。

 そのまま階段を上って部屋に向かうと、隣の部屋の玄関に人影が見えた。

「!」

 その人の首には縄がくくられている。

 ゆっくりと俺の方を見ると、床板が抜けてその人が落下していく。

「あっ!」

 いや、そんなバカな。

 ボロアパートだからといって、外廊下の床が抜けるなんてありえない。

 縄が張って、ぶらぶらと人影が揺れる。

「……」

 俺は睨まれていることに気づいた。

 床が抜けて落ちたと思われる人影があったところに、人が立っていたのだ。

 落ちていった人とは、年格好は似ているが、顔が違う。

 俺は思わずさっきの人影との違いを確認しようとしていた。

 ようやくその隣人の表情に気づいた。

「あ、すみません、別に、そういう意味じゃ……」

 わざわざ事故物件に住む変態とか、そういう意味でジロジロ見ていたわけじゃない、と説明したかったが、それはそれで失礼だ。

 俺は会釈をして、逃げるように自分の部屋に入った。

 待て、さっきいた人が隣に越してくるのなら、近所付き合いというものが発生する。

 最悪なスタートをしてしまった、と俺は思った。

 気持ちが落ち着いてくると、別のことが気にかかった。

 今まで、白石さんの霊しか見えていなかったのに、突然犯人の霊が見えたのはどういうことなのだろう。

 死刑執行を暗示するような霊。

 まだまだ社会で人殺しをしたかった、という怨念なのだろうか。

「それを俺に見せるために?」

 何か意味があるように思える。

 以前から考えていたことからすると、一つは共犯者の存在。

 共犯者が捕まっていない、だからこの部屋を調べるべきだ、ということかもしれない。

 もう一つの可能性としては……

「!」

 突然、隣部屋から軽妙な音楽と会話が聞こえてきた。

 加えて、同じような笑い声が繰り返されることから、テレビの音声だと判断した。

 俺は開いていた押入れの扉を閉めた。

 隣部屋からの音はだいぶ軽減された。

「本当に隣に越してきた人だったんだ」

 次に会ったときに、しっかり謝らないといけないな。誤解されていると思うし。

 俺はそう考えた。

「ん?」

 部屋の外で、キィキィと郵便受けの扉を開ける音がした。

 俺はふと思いついて、外に出た。

 外に出て郵便受けを見下ろすと、おじさんが郵便受けの整理をしてくれていた。

 俺は階段を下りて、おじさんに声をかけた。

「こんばんは」

「ああ、こんばんは。何か困ったことでもあったかい?」

「そうじゃないんですが、聞きたいことがあって」

 俺は言いながら振り返り、ある部屋を見た。

「ああ、君のお隣さんのことかい? 今日の午後、急に入居が決まったみたいだよ」

「午後に?」

 尋ねると、おじさんは頷いた。

 おじさんは、入居しているというのに二○三号室の郵便受けを開け、チラシを取り出し、綺麗に布で拭き取ると、閉めた。

 さらに周辺に散らかっていたポスティングの紙をゴミ袋に詰めた。

「何か、知っていることはありませんか? さっき会ったんですが、私が驚いて少し失礼なことをしてしまって、謝りたいんですが」

「……そういうのはねぇ。ごめんね」

 俺は話を切られてしまった。

 知りえた個人的な事情を、他人に話すわけにもいかないだろう。

 それはそれで仕方ないのだが、少しでも何か知ることができたらと思っていた。

「幾つぐらいの人なんですか?」

「……会ったのなら、なんとなく分からないかい」

 しっかりしたおじさんだ。情報は引き出せそうにない。

 俺は諦めて階段を上り、部屋に入った。




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