09
わたしがこのクラスにやってきて、数日。
ゴールデンウィーク明けに転校してきたこともあって、クラスの中にはなんとなくグループがそれぞれ固まりつつある。けれど、どこのグループには話しかけやすくて、どこのグループからは嫌われている、みたいなことはまだない。どの人にも、平等に話せている。
それでも、一番に話しかけてくれた琴葉ちゃんと、わたしにあだ名をつけてくれた久慈くんが今のところ声をかけやすくはある。席も近いし。
「はい、じゃあ今日は漢字の小テストをします。時間は十五分ね」
そう言いながら、土湯先生がプリントを配る。一限目で抜き打ちの小テスト、ということもあり、皆は少し不満そうな様子で、文句を言う人もいるくらいだ。
「…………」
小テストそのものよりも、わたしは名前の方が気になっていた。本当に、本名じゃなくて『りく』って書くべきなのか。あれって、久慈くんの冗談なのかな。それとも、こんな名前、気にしなくていいって言う気づかい?
ちら、と隣の席を見ると、久慈くんが、じっとこちらの方を見ていて、わたしは慌てて目を逸らした。まさか、見られていたとは。
長めの前髪から除く目は、実に真剣で、わたしがちゃんと名前を書くのか見張っているようにも感じた。
「りっちゃん」
前から声をかけられて、わたしはパッとそちらを向く。琴葉ちゃんがプリントをこちらに差し出していた。いつの間にか、わたしの席まで回ってきていたらしい。
慌てて取ろうとするが、琴葉ちゃんはすぐにプリントを手放さなかった。
「……名前、『りく』、だからね」
「え……」
わたしは思わず声をこぼす。琴葉ちゃんは、小声で言ったけれど、聞き間違いではない。
彼女まで、そんな風に釘を刺してくるなんて……。
忠告をして、ようやくプリントを手放し、琴葉ちゃんは前を向く。わたしはプリントを机の上に置き、ペンを取る。
土湯先生の、「じゃあ始めて」という声を聞き、名前の欄を見た。
――そこには、既に『りく』と書かれている。
まだしっかり覚えていないので、はっきり断言はできないけれど、多分、琴葉ちゃんの字だ。確か、琴葉ちゃんは珍しく、『り』を一筆で書く人だったはず。
……わたしの見ていないうちに、わざわざ書いたのだろうか。
でも、流石にテストなんだから、ちゃんと名前を書かないと怒られてしまう。クラスメイト全員の名前を憶えていないから分からないけれど、『りく』という読みの人が他にもいたら、その人にも間違われるだろう。
そう思って、消しゴムを持ち、名前を書き直そうとしたとき――わたしは、強い視線を感じた。




