↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうめい  作者: ゴルゴンゾーラ三国


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/46

43

 家にいるとき、時々聞こえてくる家鳴りとは違う。なんとなく聞こえてくるような音ではなく――多分、教室の入口のドアが揺れたのだと思う。わたしが入ってきた方とは、反対側の方だ。


「…………」


 シン、と教室は、耳が痛いくらいに静かだ。地震があったわけでも、風が吹いたわけでもない。

 わたしは、恐るおそる、しゃがんだまま、前の扉の方を見る。


「――ッ!」


 わたしは思わず悲鳴を上げそうになり、慌てて、両手で口元を抑える。巾着袋を持ったままの手を、強く握りしめた。

 机の脚がいくつも並ぶ隙間から見えたのは、人の脚だった。でも、ただの人の脚じゃない。


 黒く、細長い脚。パッと見た限りでは、男子生徒の制服のズボンのようにも見えるのに、よく見れば、全く違う物なのが分かる。服にあるはずのシワや、光の加減による濃淡もない。それどころか、うすぼんやりと、脚に黒いもやがまとわりついているようにすら見えた。


 わたしは直感で気が付く。

 あの脚の持ち主は、昨晩、わたしたちを追いかけてきた人影ではないのか、と。


 それは、ゆっくり、ゆっくりと、教室の中を歩く。歩幅が小さく、脚を引きずるような歩行で、決して早くない。わたしが走れば、十二分に逃げ切れる。

 そう思えるのに、わたしの体は動かない。得体の知れないその脚にくぎ付けになってしまって、一歩も動けなかった。


 バレなければ。

 このまま教室を出ていってくれれば。


 わたしはそう、心の中で、願った。

 しかし、わたしの願いとは裏腹に、脚は、明らかにわたしの方へと向かってきている。あれがわたしに気が付いているのかは分からないが、確実に、わたしとあれとの距離は縮まっている。

 あれが教室に入ってきた時点で駆けだしていれば間に合ったはずなのに。


 まだ逃げ切れる? でも、もう、教室の中央辺りにいる。走ればいける? もうダメ?


 逃げ切れるか、否か。わたしの中で、ぐるぐると考えが巡る。そんなことを考えている前に逃げ出してしまえばいいのに、逃げ切れないかも、と少しでも思ってしまうと、机の陰から出ることができなかった。

 まだ、向こうがこちらに気が付いたという確証もない。なら隠れていた方が安心なの?


 気が付けば、脚は、机二つ挟むまで近づいていた。多分、上体を少し上げれば、脚の持ち主の顔が分かるかもしれない。

 そのくらい、それは、近くにいた。


 ――こういうとき。隠れている方が安全とは限らない。


 ああやって、ゆっくり歩いて、わたしが気が付かれないようにって、必死に縮こまっているのが面白いんだって。

 わたし、知っていたはずなのに。


「――ァ、あ」


 低く、絞られたような声が、小さく聞こえてきた、そのとき。

 パサ、と、何か柔らかいものが落ちるような、そんな音が、かすかに、わたしの耳に届いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。