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放課後。帰り支度をしていると、ふと気が付く。
「――あ」
弁当の包みが足りない。弁当箱を大判のハンカチでつつみ、それを巾着袋に入れていたはずなのに、巾着袋がない。
お昼に弁当を広げたときには、ちゃんとあった。でも、複数人で机の上にお昼を広げるなら邪魔だし、ハンカチと違って弁当箱の下に敷けないから、と、机の中に入れた記憶がある。
でも、片付けるときに別のことを考えていたから、すっかり巾着袋のことを忘れてしまっていたのだ。お昼に弁当が用意されているのって、こっちに来てからだし、慣れていない。
時間割次第では、移動教室が旧校舎の教室を使うものになるかもしれないから、そのときに取りに行くのもありかもしれない。今日は金曜日。明日と明後日は学校が休み。でも、週明けには、移動教室で旧校舎に行く授業がある。
弁当箱そのものじゃないし、巾着袋だけを盗む人もいないだろう。可愛いものや流行のキャラものならまだしも、祖母が作った、年寄の感性の柄。わたしはアレ好きだけども。
だから別に、今すぐ取りにいかなくたって困らないんだけど……。
でも、巾着袋一枚でも、下手に、なくした、忘れた、など言おうものなら、変に心配をかけてしまう。祖父母は、わたしの新しい学校生活を気にかけているから、必要以上に。
仕方がない、取りに行くか……。
鴻巣本くんの鞄はあるけど、姿は見えない。椿ちゃんは確か、火曜と金曜が家庭教師が来る日だと言っていたから、多分もう帰ったと思う。琴葉ちゃんは友達と楽しそうに話をしてるし……。
「――……どうかした?」
「え。あ……」
隣にいた、帰り支度している久慈くんが、ふとわたしに声をかけてくれる。鞄に荷物を入れる手を、急に止めたから不審に思ったのかもしれない。
「な、なんでもない。大丈夫だよ」
反射的に、わたしはそう答えていた。
本当は、一人で旧校舎へと忘れ物を取りに行くのが怖かったから、ついてきてほしかったのに。
でも、まあ、まだ、昼間だし。部活動も委員会活動もなくて、ショートホームルームもかなり短く終わらせられたから、日没まで時間は十分にある。外は明るい。深夜に校舎に乗り込むのとは訳が違う。
一人でも、大丈夫なはず。
わたしはパパッと荷物をしまい込み、鞄を持つ。
「じゃあ、またね」
わたしは久慈くんに別れの挨拶をしてから、教室を出た。
「…………」
さっさと忘れ物を取りに行って帰ろうとしていたからか、久慈くんが、じっとわたしの方を見ていたことには、全く気が付かないのだった。




