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昼休みになる頃には、夜の警備員が増やされる、という噂が流れ始めていた。まあ、実際、警備員が一人か二人しかいないであろう状態で、学校の備品であるマネキンがなくなったのだ。それがどういう状況でなくなったとしても、警察に話を届けた以上、犯人が捕まるまでは警備体制が強化されるというのは、何も不思議な話ではない。
わたしと琴葉ちゃん、そして久慈くんの三人で集まって、昼食を食べる。椿ちゃんは委員会、鴻巣本くんは部活の関係で、それぞれ少し遅れるという。放課後に活動をすることができなくなったので、その連絡事項があるらしい。
集まったのは、旧校舎の空き教室だった。
普段使っている教室の方では、人が多いので、昨日の夜の話をしたら、一気に人が集まってしまうかもしれないから。
旧校舎は今も使用されているらしいが、あくまで部活動か選択授業のためのもの。部活動は囲碁・将棋部や、手芸部、語学部が放課後に使うくらいで、通常使用はされていないそうだ。
おかげで、この教室には最初からマネキンはいない。
旧校舎の方が、雰囲気あって怖いかな、と思ったけれど、古びているだけで、なんともない。むしろ、マネキンが各教室にある新校舎の方が、わたしには少し不気味に感じる。昨晩、追いかけられたばかりだし。
わたしと久慈くんはお弁当、琴葉ちゃんは先ほど購買と自販機で買ってきたというパンとミルクティーを机の上に広げ、それぞれ昼食の準備をする。
本題は椿ちゃんと鴻巣本くんが来てから、という気づかいなのか、それとも、なんとなく、話題に出しにくいからなのか、わたしたちは、昨日の夜のことを、中々切り出せずにいた。
昨晩のことに触れたいのに、言い出せない。
そんなもやもやからか、わたしたちの会話はぎこちなく、たいして盛り上がらない。
「あ……り、りっちゃんはさ、部活とかって、興味ないの? 前の学校、何入ってた?」
前の学校。
その、琴葉ちゃんの言葉に、一瞬、箸が止まる。
わたしの動揺に気が付かない琴葉ちゃんは「あたしはここの教室で活動する、手芸部に入ってるんだけど」と話を続ける。多分、さっきまで、ぎくしゃくとしている雑談を続けていたから、わたしが言葉に詰まったのに気が付いていないのだろう。
「……手芸部って何するの?」
「あたしはぬいぐるみとか作ってるけど、デザイナー目指してる子は服作ったり、秋になると編み物してる子とかもいるかな。文化祭では、ハンドメイド作品色々売ってるよ」
「うまくできたぬいぐるみの女の子がいて、服色々作るのにハマってるんだー」と琴葉ちゃんは言い、そのままミルクティーを飲む。
「おばあちゃんが昔、人形とかぬいぐるみを作って売ってたんだ。その影響で、手縫いとか好きなの」
よっぽど裁縫が好きなのか、琴葉ちゃんの口調は先ほどよりなめらかだった。
「琴葉ちゃんは部活で集まらなくていいの?」
「うん。文化祭前以外は割と適当な集まりだから。普段の活動も週二だし、手芸部のメッセグループに、『部活再開までお休み』ってメッセージが入ってればそれで十分なの」
琴葉ちゃんの部活の話を聞いていれば、椿ちゃんと鴻巣本くんが遅れてやってくる。
……良かった、前の学校のことが、あれ以上深堀りされなくて。




