34
生徒たちが人だかりを作ったまま、朝のショートホームルームの時間を告げるチャイムが響く。しかし、わたしたちの教室の前に集まった生徒の半数以上が、そのチャイムが鳴っても、教室に戻ろうとすることはなかった。
「あ、こら! あなたたち、早く教室に戻りなさい!」
チャイムに少し遅れて、土湯先生がやってくる。土湯先生に軽く怒られて、ようやく生徒たちは散りぢりになった。
教室の出入り口が空いたので、わたしたちも教室へと入る。
マネキンのいない教室。
こちらの方が正しいはずなのに、どうにも、違和感がぬぐえなかった。たった数日で慣れてしまった、というわけではない。
人形が成り代わろうと同じ名前の生徒を殺す、という噂と、昨晩、わたしたちを追いかけてきた何かが、ただ、わたしの頭の中を占めていた。
今日も変わらず、あの不気味なマネキンがいてくれたのなら、あの噂も、追いかけてきた何かも、マネキンではないと、自分に言い聞かせることができたのに。
先ほどまで、わたしたちの教室の前はざわざわとしていたのに、打って変わって、今の教室内は非常に静かだった。
「えー、皆も気が付いたと思うけれど、うちのクラスのうりは――ええと、マネキンの方の六月一日さんが、昨晩、盗まれました」
土湯先生の声が、そんなクラスによく響く。
「昨日の夜遅くに、誰かが校舎に侵入し、その後、警備員さんがうちのクラスのマネキンがいなくなっていることに気が付きました。警察には一応、話をしていますが、犯人は分かっていないので、皆も気を付けるように。しばらくは放課後の部活動や委員会活動はなしで即帰宅。部活動等の再開は、先生たちがまた話し合って決めます」
「それから、もし、何かが盗まれている、という人がいたら、先生に話してください」と、土湯先生は淡々と、連絡事項を伝えてくる。
ちらり、と久慈くんと鴻巣本くんの方を見る。鴻巣本くんの席からだと、わたしか久慈くんを見るためには思い切り振り返らないといけないから、彼はこっちを見ていなかったけれど、久慈くんは、わたしの方を見ていた。
なんとも言えない表情。先生の言うことを、信じ切れていないのだろう。
わたしたちよりも前に不審者がいて、マネキンを盗んだ、という可能性も十分にあり得るけれど、警備員さんが気が付いた侵入者自体は、十中八九、わたしたちのことだろう。
一瞬、あの、わたしたちを追ってきた人影が、わたしたちよりも先に侵入してきた不審者で、わたしたちを驚かすためにあんなことをした、ということも考えたけれど――でも、あれは、一人だった。何かを持っている、ということもなくて、背後でマネキンを操っていたということもなさそうだった。
ただの人、と言ってしまうには、あまりにも首の可動域が不自然で。首が俺でもしないかぎり、ああはならない。生きている人間には不可能な動き。
あの人影がわたしたちよりも先に校舎に入り込んでいた不審者、というには、どうしても、無理がある、と思ってしまうのだった。




