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普段から、鍵を閉めて帰らないという、図書室の窓から、わたしたちは侵入する。少し様子をうかがってみるが、特に警報が鳴る、みたいなことはなかった。いや、実際に忍び込んだのは初めてだから、入ってすぐ警報が鳴るのが正しいのかどうかは分からないけれど。
「三年に本好きで有名な真壁先輩がいてさ。うちのクラスの真壁の兄なんだけど。学校の門が開く前から忍び込んで、図書室で本読むために、いつも放課後にここの鍵開けて帰るんだよ」
「……司書さんは何も言わないの?」
「図書委員だし、司書に信用されてるから、戸締り任されてるらしい」
ものすごく信用に背く行動じゃないんだろうか、それ……。
「親もここ出身で、同じようなことしてたらしいから、そう言うことだろ」
校舎内が静かだからか、そんなことを言う鴻巣本くんの声が、ひそめているにも関わらず、妙に響いている気がした。
昼間と打って変わって、月明かりしか入ってこないような廊下は、本当に気味が悪い。ひと気がなくなるだけで、こうも不気味になるとは。
そう思うのに、どこか、少しだけわくわくしている自分がいた。
非日常感、というか、特別感があるというか。一人だったら絶対に怖くて一歩も歩けないけれど、クラスメイトが二人も近くにいると、それだけで肝試し気分だ。怖いものは怖いが、本気の恐怖のようなものは感じない。恐ろしさと同時に、妙な安心感もあって。
……不気味なマネキンに呪いの噂があっても、人間の代わりにいじめる人って、こういう気持ちなのかな。他人をいじめようとするのは全く理解できないけれど、何の根拠もなく、大丈夫だと思ってしまう気持ちは、少しだけ分かる。
自分だけじゃない、って。
ちょっとそわそわしているのに気が付いたのか、隣を歩く久慈くんが、わたしを見て笑っていた。
「……こういうの、初めて?」
「う、うん……。あんまり……」
あんまり、というか、全然だ。前の学校で、一度だけ休日に忘れ物を取りに来たことがあったけど、あれは昼間だったし。
「そこ、いちゃついてんな!」
前を歩いていた鴻巣本くんが振り返って言う。からかうような彼の表情に、久慈くんが言い返した。
「馬鹿、大声出すなって。……というか、そんなんじゃないし」
「そ、そうだよ!」
確かに、わたしは久慈くんに懐いている自覚はちょっぴりあるけれど、でも、それは単純に転校してきて、最初の方に話しかけてくれたクラスメイトだから。琴葉ちゃんと同じようなもの。
「二人そろって否定するところが怪しー」
鴻巣本くんが軽口をたたきながら、わたしたちは、自分たちの教室へと向かう。
教室の前に着くと、わたしと鴻巣本くんは、それぞれのロッカーへ。なるべく音が立たないようにゆっくりとロッカーを開け、中から生物の問題集を抜き取る。
……これ、家に帰って宿題今からやるの、それはそれで面倒だな……。
でも、やらないとここまで来た意味もないし、と問題集を持って立ち上がると――。
「……久慈くん?」
廊下の真ん中で、呆然と、教室の方を見ている久慈くんがいた。教室の扉は閉まっているけれど窓はついているし、そもそも、教室と面している廊下の壁にも窓が取り付けられている。だから、廊下にいても教室の様子は丸わかりだ。
何を見ているんだろう、とわたしも教室の方を見て、思わず、持っていた問題集を落としてしまった。
――わたしたちの教室の、マネキンが、ない。
いなくなっている。




