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自分の足で歩くよりも、自転車に乗った方が早く学校に着くはずなのに、何だか随分と学校までの道が遠く感じた。
学校の裏門の方に到着すると、彼らは自転車を門の側に止める。正門より簡素な裏門。門は閉まっているから、のぼらないとかな……と思っていると、鴻巣本くんが手をかけ、がしゃがしゃと軽く門を揺さぶると、門が開いた。
「えっ……」
わたしは思わず声を上げる。施錠されてないの?
「ここ、鍵壊れてんだよな。鍵かけても軽く揺すると開く。でも一向に直んねえの」
鴻巣本くんが当たり前のように言いながら、開いた門の隙間をすり抜ける。久慈くんも驚いた様子はないし、ここの生徒の共通認識なのだろうか……。
校舎に向かう二人の後をついて行くが――。
「え、職員室とか、事務員室に行かないの?」
てっきり、職員用の玄関の方に回ってから教室に行くものだと思っていたが、全然違う方向に二人は進んでいる。ちゃんと校舎の位置関係を把握しているわけではないけれど、職員室の方向と違うのは分かる。
「先生はこんな時間にいないって。警備員はいるかもだけど……パッと取って帰った方が早いっしょ」
「ちゃんと巡回してる人もなかなかいないよ。だって、ほら……」
へらへらしている鴻巣本くんとは裏腹に、久慈くんは少し顔をしかめ、校舎の方を見る。
……そうか。確かに、深夜の校舎の中、全ての教室にマネキンがいる、という状況での巡回は、なかなか気味が悪いだろう。幽霊とかを信じている、信じていない、という話以前に。
わたしだったら絶対に回りたくない。何か大きな物音がした、とか、明らかに事件性があるとき以外は、部屋から出たくない。
「…………」
わたしは、先ほど、家に出た、ふすまを開けた手が、もしかしたらマネキンだったのかもしれない、と思ってしまった。
わたしの教室のあのマネキンが動いて、わたしの家まで……。
「あ、で、でも、でもさ。勝手に入ったら怒られない? ほら、セキュリティとか、あるじゃん?」
気持ちの悪い考えを追いやるように、なるべく明るい声を出して、二人に聞いてみる。ふすまを開けるときといい、余計なことばかり考えてしまう。
「大丈夫、大丈夫。うちの学校、そんなのないから」
「えぇ……今時……?」
「理科室と理科準備室だけはあるらしいけどな。ほら、薬品とか危ねーし。あと正門もあるっぽいけど、他はないと思うぜ? 何回も夜に忍び込んで課題とか取りにいってっけど、一回もバレたことねーもん」
気楽に笑う鴻巣本くんの頭を、「ちゃんと持ち帰れよ」と言いながら、久慈くんが軽く叩いた。
「でも、この学校、一応人が死んでるんだよね……?」
自殺にしろ他殺にしろ、死んでいる生徒が出たら、もっと厳しく取り締まるようなものではないだろうか。
「警備にがっつりかけるお金がないんじゃね? ただでさえ毎年五体はマネキンを新しく買って、いらなくなったのは寺で処分してもらって。制服とかも他の生徒と同じやつ着るわけだし、結構出費かさむだろうなー。それに、最後に死んだの、十年以上前らしいし、そもそも警備員がいるからセンサーとかはいらない、みたいな?」
「…………それは……」
鴻巣本くんの言葉に、わたしは納得してしまった。お金で解決できなければ、『もっと気を付けましょう』みたいな、根性論になってくる。そして、そういう対応って、ちゃんと回るの、最初だけなんだよね……。
十年も前、ともなると、結構な人数の教師が入れ替わっているだろう。
頻繁に生徒が死んでしまう、ということならまだしも、意識が緩くなってしまっても、仕方がないことなのかもしれない。




