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『一時間目は体育だから内職する余裕はねえ。よって今、取りに行かなかったら終わる』
『生物の先生、うちの部活の顧問だから、マジ怒らせたくないんだって』
『それか誰か生物の問題集持ってねえ? 範囲の写真送って』
ポコ、ポコ、と連続で鴻巣本くんがメッセージを送ってくる。しかし、久慈くんと琴葉ちゃんは生物ではなく物理の選択授業を取っていて、同じ生物の授業を選択している椿ちゃんは、今日の昼休みに課題を終えていたらしく、問題集はそのまま学校にあるという。
いくつかのメッセージのやり取りを見て、わたしは決心を固めた。
『わたし行くよ』
先ほどまでテンポよくやりとりされていたメッセージの応酬がぴたりと止まる。……わたし、なんだか間違えちゃったかな。
でも、既にメッセージが読まれたマークがついているので、皆がこのタイミングで鴻巣本くんを見捨てて寝た、ということはないだろう。
『わたしも問題集、忘れちゃって。課題もやってないの』
皆のメッセージを待つ間が怖くて、わたしは追加でメッセージを送る。
『僕も行く。男二人いたらなんとかなるでしょ』
久慈くんからのメッセージだった。
『りく、家どの辺? 迎えに行く』
わたしはうまく説明できる自信がなくて、マップアプリのスクリーンショットの画像をそのまま送った。
『ここなら鴻巣本と合流してから行くよ』
『久慈くんやさしー。オレのときには行くって言ってくれなかったくせに』
『は? じゃあ君はひとりで行きなよ』
『ごめん嘘』
ポコポコポコ、とメッセージが流れていく。……良かった、別に変なこと、書いちゃったわけじゃないみたい。
わたしはメッセージが流れていくのを横目に、服を着替える。制服じゃなくてもいいかもしれないけど、流石に寝間着で行くわけにはいかない。
外に出ても大丈夫な服に着替え、わたしはスマホと鍵を持つ。
「…………」
部屋から出ようとして、わたしは一瞬、固まった。
もしかしたら、さっきの手が、このふすまの向こうにあるかも、なんて考えてしまったのである。
わたしの馬鹿。そのまま何も考えないで、いつもの流れにのって出ちゃえば良かったのに。完全に、手が止まってしまったじゃないか。
『十分くらいでつくから、そのくらいに家の前にいて』
久慈くんから送られたメッセージに了承の言葉を返し、わたしは意を決してふすまをゆっくり開けた。久慈くんたちが来るのに、部屋から出ないわけにはいかない。
――何も、ない。
廊下は暗く、わたしの部屋の電気の灯りが漏れ出ているだけで、昼間と違って廊下の隅まで分かるわけじゃないけど……。何もなさそうだ。
わたしはいつの間にか止めていた息を吐き、一階へと下りた。




