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先程のは見間違いだったのか、それとも、本当に手があったのか。普通に考えたら、あんなところに手が這っているわけないんだけれど、そうやって否定するには少し、いや、かなり存在感があった。
なんとなく、居心地が悪いままに、寝る環境を整え、明日の支度まで終わらせてからベッドに向かう。
「むかご」
わたしはむかごの名前を呼んで、どいて欲しい、とう意思を伝えた。掛け布団の上にのっているわけじゃないから、ベッドを使えないわけじゃないんだけど、こうもど真ん中に寝られると、わたしのスペースがほとんどない。
むかごは伸びをしてから、ごろん、と一回転、横に転がった。
「…………」
ベッドは半分ほど空いたものの、まだちょっと狭い。むかごからしたら結構なスペースを空けてくれたのだろうけど、人間のわたしからしたら、もう少し場所を分け与えて欲しくなる。
「……ま、いいか」
それでも、わたしはその狭いスペースに横たわった。ここでむかごの機嫌を損ねたら、今日はわたし一人で寝なければいけなくなってしまう。
あんなものを見た後に、一人で寝るのは嫌だった。かといって、流石にこの歳で、「怖いから一緒に寝て欲しい」と祖父母に言えるわけもない。確実に何かがいて、襲われるかもしれないならまだしも、見間違いの可能性も十分にあるのだから。
スマホをいじり、目覚まし時計代わりのアラームをセットしていると、ポコ、と間抜けな通知音が鳴った。
……グループメッセージの通知音。
一瞬、どきり、と指が止まったものの、通知があるグループを見れば、それは今日、喫茶店に行ったメンバーで作ったものだった。久慈くん、琴葉ちゃん、鴻巣本くん、椿ちゃん、そして、わたしの、五人グループ。
メッセージの発信者は、鴻巣本くんだった。
『やばい、生物の問題集学校に忘れた。誰か一緒に取りに行ってくんね?』
癖なのか、かなりの絵文字が使われている。汗を表すマークに、頼み込むような手を合わせるマーク。緊張感は全然ない。
無視することはできないけれど、もう寝る直前だし、夜だし、行くのはためらわれる。
『明日でいいじゃん?』
ポコ、と続けて音が鳴ったかと思うと、琴葉ちゃんがメッセージを送っていた。
『駄目だって。明日二時間目に課題提出なんだから。宿題の範囲出されただろ』
『朝に決まってるでしょ』
『朝練あるんだよ! それ終わってからじゃ絶対間に合わん』
「……課題」
先ほどとは別の種類の、嫌な気配がわたしの背中を伝った。
先ほどまで、明日の学校の準備をしていたから、すぐに分かってしまう。
課題をやってないし、わたしも生物の問題集を持ち帰っていないことに。




