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久慈くんは、再びコーヒーをかき混ぜながら、話を続ける。
「それで、名前を変えようとした生徒は、クラスメイトに呼びかけて、下駄箱とか、ロッカーの名前とかも、アレの分のを書き換えたりしたんだけど……結局駄目だった。協力した友人も、って話」
久慈くんはハッキリ言わなかったけれど、皆の態度で分かる。その名前を変えようとした生徒も、既に死んだ生徒のようになってしまったのだろう。
「親の離婚なら、苗字が変わらない方の親について行くこともできるけど、再婚だとそうもいかないじゃない? それで、同じように死んじゃった生徒もいて……。その後、また苗字が変わって、アレの席で死んでいた生徒が出てから、普通の苗字を使うのは駄目になったのよ」
椿ちゃんが、チーズケーキを食べやすいサイズに切り分け、フォークに刺しながらも、一口も食べないままに言った。
「それ以来、うちの学校では、マネキンと一緒の名前になると、マネキンに成り代わられる、殺される。名前を変えようとしたって無駄。身代わり人形の呪いだ、って噂ができたのよ。死体がマネキンの代わりに席に座ると、不思議とマネキンはいなくなるの」
「…………」
だから、あのマネキンの名前を、存在を、どうしようか、という話を、四人は教室でしていてくれたのだろうか。
わたしの名前が、名前だから。
苗字が一緒になっただけで死んでしまうのなら、苗字も、名前も、フルネームで一緒のわたしは一体どうなってしまうのだろうか。
せっかく紅茶に砂糖を入れたのに、飲む気になれない。きっと、喉を通らないだろう。
「そ――そんなことがあったのに、マネキン、撤去しないんだね……?」
『わたしはどうなると思う?』と、尋ねるのが怖くて、わたしはそんなことを聞いた。
「一回は撤去した。でも、その年にいじめ問題が再発して、保護者が弁護士使って大ごとにしたから、翌年には元通り」
「……そ、そっか」
呪い、というものがあるのなら、逆に、加護の効果も、実際にあったのかもしれない。目に見えないものだし、いじめは確実に起こりえるものじゃないから、断言はできないけど。
「でも、よく、そんな噂あるマネキンをいじめる気になるよね。あたしは絶対無理」
空気を変えようとしてくれたのか、琴葉ちゃんがことさら明るい声音で言った。
「自分だけは大丈夫、ってやつでしょ。事件があった心霊スポットでも、肝試しに行く人がいなくならないのと一緒よ」
琴葉ちゃんの、雰囲気を明るくしようとしたのにのっかったのか、椿ちゃんが呆れたような声音でいい、切り分けたチーズケーキを食べている。
「……ま、苗字が変わっても、旧姓で通したら卒業まで無事だった、って話も聞いたことあるし。りっちゃんも、『りく』のままでいれば多分大丈夫っしょ」
多分なんだ……。鴻巣本くんの言葉に不安になるものの、きっと、彼らも断言できないから、放課後、教室で、相談をしていたに違いない。
「そう、だよね。久慈くんのつけてくれたあだ名があれば、大丈夫、だよね……」
わたしは、力なくそう返すのが限界だった。




