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「それで……ええと……どこまで話したんだっけ」
一人、軽食メニューであるナポリタンを頼んだ鴻巣本くんが、フォークを持ちながら、わざとらしく言った。どこまで話したか、なんて、彼も分かっているだろうに。
多分、それほどまでに、はっきりと、話を進めたくないのだろう。
「……二十五年前の話」
くるくると、コーヒーをスプーンで軽く混ぜながら、久慈くんが言う。砂糖やミルクを入れた様子はなかったけど……猫舌なのかな。
「二十五年前、一人の生徒の苗字が変わったんだ。普通に、親の離婚で。ただ――新しい苗字が問題だった。一緒だったんだよ、その人のクラスにいた……ソレと」
鴻巣本くんから説明を引き継いだ久慈くんも、はっきりとは言いたくないらしい。ソレ、と、言葉を濁していた。
「そこから三か月後くらいに……。マネキンと、その苗字が変わった生徒が入れ替わったんだ」
「……? その、苗字が変わった生徒がいじめられるようになっちゃったってこと?」
わたしが聞くと、久慈くんは首を横に振る。
「……違う。マネキンが座っていたはずの席に、苗字が変わった生徒が座ってて……死んでたって」
「――!」
わたしは、思わず想像してしまった。
マネキンの代わりに、座る生徒。どうしたの、ふざけてるの、って声をかけ、肩をたたいたら、バランスを崩して椅子から落ちて。
その生徒は、息をしていない。
ぞくりと、寒いものが背筋を這う。わたしは、それを誤魔化すように、頼んだ紅茶に砂糖を入れた。
「それを知ってさ、もう一人、苗字が変わる予定だった生徒が、マネキンの名前を変えようとしたらしくて」
「そんなにすぐに苗字変わる人が出るものなの?」
離婚とか、ひとり親家庭とか、そこまで珍しいものではない。わたしだって、それが原因でこっちに来ているのだし。
でも、そんなに短期間で被るのは、ちょっと珍しい気がする。
そう思って、思わず聞いてしまうと――。
「保護者同士の不倫が原因だったらしいよ。ダブル不倫、ってやつ? あくまで噂だけど」
――ガチャッ。
わたしは琴葉ちゃんの言葉に、持っていた砂糖用のスプーンを、テーブルに落としてしまった。うまく、シュガーポットに戻せなかった。衝撃で、少しだけ砂糖が散乱する。
「ご、ごめん、手が滑って……。あ、そ、それにしても、苗字が変わる二人が、あのマネキンと同じになるって、す、すごい確率だね?」
わたしは慌てて、紙ナフキンを貰って、散らばった砂糖をかき集める。スプーンは……勝手に元に戻さない方がいいかな? ソーサーのところに置いておこう。うん。
「今はあり得ない苗字とか、滅多にいない苗字とかを使ってるけど、昔はそんなこと、特に気にしてなかったみたい。学年にいないだけで、普通の苗字をつけてたらしいよ」
わたしの動揺に気が付いていない様子の久慈くんは、淡々と説明を続けてくれる。……良かった、変に手を滑らせたことがバレなくて。




