18
「吸収合併で名前は変わったけれど、この辺りは昔、代古村って言って、身代わり人形の生産が盛んだった……らしいんだ」
久慈くんの言葉は、少し曖昧だった。でも、わたしだって、引っ越す前の土地の成り立ちなんて知らない。小学生のとき、校外学習で習ったような気もするけど……全然覚えてない。
ああ、でも、確かにそんな看板を、駅で見たことがある気がする。あの看板には着物の人形が描かれていたから、あまりマネキンと一緒に考えられないけど……でも、確かにマネキンも人形だ。
「かつての代古村のことを知っている校長が、それを始めたんだって。一つか二つ前の校長だったかな」
久慈くんの説明に、琴葉ちゃんが付け足して教えてくれる。
あのマネキンが、身代わり人形。
だったら、あんな気味の悪い顔を張り付けなくても……と思うけれど、顔なんて、あってもなくても変わらないかもしれない。
人の形に近いものが、人間に紛れて学校生活をしているという状況自体が、既にちょっと、関わりがたい雰囲気を出している。
「……その、実際、あのマネキンをイジメる人って、本当にいるの?」
わたしは思わず聞いてしまう。真壁くんという人が何やらやっているようだし、ゼロではないんだろうけど……全クラスに導入するほど効果は表れるものなんだろうか。
わたしの質問に答えたのは、椿ちゃんだった。
「いるわよ。最初は違和感があっても、半年もすれば気にならなくなって、別に変なことは起きないって、皆思うようになるの。サンドバックみたいに殴ってみたり、蹴ってみたり。そうじゃなくたって、下品なポーズをさせたりとか」
……一年生の頃からいるのなら、二年に上がった今が、丁度、そうやっていじめる対象と認識して、それにも慣れてきたところなのかもしれない。
わたしは、まだ転校してから一週間くらいしか経ってないから、怖く見えるけれど、皆からしたら一年強は近くにあった存在なのだ。意外と、そんなものなのかもしれない。
「……効果は?」
「まあ、完全に、とは言わないけれど……。人間だもの、喧嘩したり、仲良くならなかったり……ちょっとしたことはある。でもいじめ、ってハッキリ断言できるほどのことは起きてないみたい。少なくとも、二年四組は大丈夫」
二年四組。わたしたちのクラス。たった一週間で、クラスの内情を知れるとは思っていないけれど、確かに、表面上はそういった現場を見たことがない。
「本当に、ただの身代わり人形だったんだよな。――二十五年くらい、前までは」
なんとなく、含みのある言い方。鴻巣本くんの言葉に、再び、妙な間が訪れた。
そのタイミングで、わたしたちが注文した商品が運ばれてくる。
わたしたちの前に、それぞれが頼んだものが置かれていく。その間、ずっと無言で、誰も、何も話さない。話せない。
それは、ただ、店員が料理を配膳してくれているから、というわけではないのは、皆の表情からして、明らかだった。




