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マネキンの名前……? アレに名前なんてついていたの?
それよりも、その名前って――。
「わ、わたしと――」
「りっちゃん!」
わたしと同じ、と言おうとした瞬間、わたしの声をかき消すように、琴葉ちゃんが叫んだ。
「りっちゃんは、『りっちゃん』でしょ。『りく』、でしょ」
必死な様子に、わたしは言い直すことができなかった。
でも、その気づかいもあまり意味がなかったかもしれない。
「うりはり、の漢字は六月一日、愛される姫と書いてぷりんせす。アレの名前はそう書くんだよ」
鴻巣本くんの説明に、わたしは言葉を失ってしまったから。
六月一日愛姫。
うりはりぷりんせす。
わたしが黒板に名前を書いて、皆があれだけ驚いていた理由が、ようやく今、はっきりと分かった。
クラスの異物であるマネキンと、全く同じ名前の転校生がやってきたのだ。転校生への興味や好奇心なんかよりも、恐怖が勝るに決まっている。
小テストの際、わたしが名前を呼ばれて、妙に机や椅子が動くような音がしたのも、皆が驚いたはずみに、体が当たってそんな音が響いたのだろう。クラスメイトにとって、『六月一日愛姫』という名前は、マネキンのもの、というイメージが強いから。
マネキンが動いたかも、と思ったら、そりゃあ、怖い。
「あ、ああいうのって……あの、他のクラスにもある、よね……?」
わたしは先ほどまで見てきた教室のことを思い出し、鴻巣本くんに聞く。直接、全部聞き出したかったが、どこまで尋ねてもいいのか分からなくて、遠回りな質問になってしまった。
「全学年、全クラスに一人いる。『うりはりぷりんせす』って名前のマネキンはアレだけだけど」
鴻巣本くん曰く、クラスに男子生徒のマネキンが置かれるのか、それとも女子生徒のマネキンになるのかは、完全にランダム。くじ引きをすることもあれば、サイコロで決めることもあるらしい。
ただ、決まって、『校内にいない人間の名前』にするそうだ。
「……あ、あれって……」
「あれは、クラスの生贄なのよ」
意を決して、マネキンの生徒のことを聞こうとして、答えてくれたのは、女子生徒だった。
「りくさん、私の名前も知らないわよね? 私は目黒椿」
そう言ってから、女子生徒――椿ちゃんは、『クラスの生贄』という言葉の意味を教えてくれた。
「あのマネキンはね、何をしてもいいのよ。暴言を吐いても、殴っても、蹴ってもいいの。人間の生徒がいじめられないように置いてあるの」
クラスの生贄。人間の生徒がいじめられないように、ということは、その逆。いじめられるために、あのマネキンが置いてあるのだろう。




