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「あ……」
わたしは思わず声を上げる。黙っていれば、気が付かれなかったかもしれないのに。
わたしが声を上げたことで、
教室内の面々に、わたしが廊下にいることを知られてしまった。
「あ……り、りっちゃん」
琴葉ちゃんが、教室から出てきて、わたしを呼ぶ。
「え、えっと……」
わたしも何か言おうとして、でも、言葉が見つからなかった。
わたしのことじゃないかも、と思ったけれど、それだって確証がない。わたしがおかしな名前なのに変わりはないのだから。
「……はぁ、もう、全部話しちまおうぜ」
頭をかきながら、一人の男子生徒がわたしたちの方へとやってくる。
「鴻巣本……」
「別に話すくらいならなんでもねーって。そりゃなんも知らない方がいいかもしんねーけど、あと二年はこの学校にいるなら、知っといたほうがよくね?」
琴葉ちゃんに鴻巣本と呼ばれた男子生徒が、「ちょっと待てって」と、止めようとする久慈くんを追い払うように手を振った。
「オレは鴻巣本雄陽。りっちゃんと話すのは初めてだから、一応、名前、教えとくわ」
鴻巣本くんは、「席はあの辺」と言いながら、指をさす。廊下側から二番目の列の、前の方だ。確かに、わたしが廊下側の一番後ろだから、話すタイミングはない。近いようで、遠い席。班分けをするとしても、同じグループにはならないだろう。
「りっちゃんってさ、ホラー苦手?」
「え?」
急な話題転換について行けず、わたしは思わず聞き返してしまった。いきなりどうしたんだろう。今、そんな話の流れだったっけ……?
でも、鴻巣本くんは、わたしの返事を黙って待っている。なら、彼の中では話がつながっているんだろう。
「に、苦手ってわけじゃないかな……。好きでもないけど」
ホラーものや怪談は、自分から好き好んで見聞きするわけじゃないけど、かといって嫌いだと避けるほどでもない。お化け屋敷やホラー映画だって、誘われれば普通についていく。
「成程、良かった。今から話すの、怖がりだったら可哀想だからさ」
そう言って、彼はゆっくりと腕を上げ――指をさした。
あの、窓際の席に座っている、マネキンを。
今日もマネキンは、座らされたまま、そこにいる。一日中、無視されているマネキン。授業中、プリントはアレを避けるように回され、グループワークのために机を動かすときにも、あの机だけ動かない。
それは掃除のときも、変わらず、あの周辺だけが、掃除されない。
その、マネキンをさして、鴻巣本くんは言った。
「アレの名前、『うりはりぷりんせす』って言うんだよ」
と。




